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転がる石のように名盤100枚斬り 第26回 スター・タイム - ジェームス・ブラウン

転がる石のように名盤100枚斬り 第26回 スター・タイム - ジェームス・ブラウン

#75 Star Time (1991) - JAMES BROWN

スター・タイム - ジェームス・ブラウン



作家、浅田次郎氏のコラムでこんな内容のものがあった。


「アメリカに行くと、毎回、ステーキを食べる。翌朝起きると下半身に力がみなぎっている。アメリカのステーキ、すげえ」


うろ覚えですみません。



僕にとって、ファンクという音楽は、浅田先生にとってのステーキみたいなもので、さすがに下半身は反応しないけど、聴いていると力が満ちて来るのを感じる。



今回のお題は、ファンクのオリジネイター、ジェイムズ・ブラウン=“JB"なんだけど、我が家にある彼のアルバムは1枚だけ。しかも、ライヴ盤。1992年にリリースされた『Love Power Peace: Live At Olympia, Paris 1971』だ。


聴いた時、「もう、JBは、これ1枚だけでいいや」と思ってしまった。つまり、そのくらい素晴らしいアルバムだったのだ。


バック・バンド、J.B.’sは、このライヴの前後のメンツが最強との評価が定着している。その演奏は、グルーヴィでヘヴィーでキレッキレ。呼び込みのMCからラストの「ソウル・パワー Soul Power」まで、ずっとハイテンションが持続する。


これまでに聴いたライヴ・アルバムのなかでも、間違いなく一、二を争う名盤。そのインパクトがあまりに強買ったため、スタジオ録音盤には食指が動かず、『Love Power Peace~』を繰り返し聴いてきた。



『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』で75位にランクインした『スター・タイム』も、もちろん聴くのは初めて。スタジオ録音盤を聴くいい機会だなぁ、なんて、気楽な感じでAppleMusicを検索したが見つからず。


調べたところ、1991年にリリースされた4枚組のCDボックスだった。マジか。未発表ヴァージョン、未発表ライヴなど満載、らしい。どうするよ、これ・・・・・・。



さすがに、このアルバムはスキップして、74位に進もうかとも思ったんだけど、それもシャクだし、せっかくJBを改めて聴くチャンスをふいにするのももったいない。


そこで、Wikipedia(英語版)に掲載されていた曲目を元に、プレイリストをつくったよ! 全72曲!! 


Wikipediaでは、「デヴィルズ・デン Devil’s Den」は1曲なんだけど、「Pt. 1」「Pt. 2」と付いているトラックしか見つからず、とりあえず2曲ともアップしたので、曲数としては1曲多い。また、レア・トラック、レア・ヴァージョン云々は無視。「Live」と表記がある曲は、ライヴ・ヴァージョンをピックアップした。



そして・・・・・・完成したプレイリストは、これまた最高なのだった!



詳細はわからないけど、このCDボックスは、時系列に曲をピックアップしているみたい。4枚のディスクには、それぞれタイトルが付いていて、ディスク1が「Mr. Dynamite ミスター・ダイナマイト」、2が「The Hardest Working Man In Show Business ショウビズの世界で最もハードワークをこなしている男」、3は「Soul Brother No. 1 ソウル・ブラザー・ナンバー・ワン」、最後が「The Godfather Of Soul ソウル界のゴッド・ファーザー」。ディスク1から順に聴くと、JBの音楽スタイルの変遷が辿れるようになっている。



トップを飾るデビュー曲「プリーズ・プリーズ・プリーズ Please Please Please」をはじめ、ディスク1に秀力されているのは、オーソドックスなリズム・アンド・ブルースで、いまさらながらJBの歌のうまさに感心する。


史上初のファンク・ナンバーと言われている「アウト・オブ・サイト Out Of Sight」は、ディスク1に収録。ホーンが目立つけど、まだ「ファンク」って感じはしない。その次にリリースされた「ナイト・トレイン Night Train」もファンクというよりジャズぽい。



「ファンク、来た、来た、来た~!」とアガるのは、ディスク21曲目の「パパのニュー・バッグ Papa’s Got A Brand New Bag」だろう。独特のリズムに、クールなギターのカッティング、粋な感じのホーン、そのすべてがディスク1収録曲にはない新しい感じ。


「ニュー・バッグ」って「麻薬のこと???」とか思っていたんだけど、そうではなくて、新しいスタイル=ファンク自体を指しているそうだ。JBの自信が垣間見える。


「パパのニュー・バッグ」は、1965年に発売され、アメリカのR&Bチャートで1位、全米チャートで8位を記録。同年に続いてリリースされた「アイ・ガット・ユー(アイ・フィール・グッド)」もR&Bチャートで1位、全米チャートでも3位に入っている。


1966年には3曲を全米トップ10に送り込んでいる。なかでもR&Bチャート1位、全米チャート7位の「コールド・スウェット Cold Sweat」は、「ウッ!」「ゲローン!(Get on)」「イイ~っ!」などなど、ノリノリなJBのヴォーカルが聴きどころ。まさにファンク。


意外にも、全米チャートでのピークはこのあたりの曲のようだ。後年のより熱いファンクは、黒すぎて白人には受け入れられなかったということなんだろうか。


ディスク2では、ほかに、ちょっとモータウンぽい「ドント・ビー・ア・ドロップ・アウト Don’t Be A Drop Out」や、JBのヴォーカルがほぼラップと化している「セイ・ラウド~アイム・ブラック・アンド・アイム・プラウド Say It Loud – I’m Black and I’m Proud」、メイシオ・パーカーのサックスが冴える「ノーバディ・トゥ・ギヴ・ミー・ナッシング I Don’t Want Nobody To Give Me Nothing (Open Up The Door I’ll Get It Myself)」なども聴きどころ。



さて、このCDボックスのハイライトは、キラーチューンが詰まったディスク3「ソウル・ブラザー・ナンバー・ワン」だ。まさに真っ黒なファンク。


僕が持っている唯一の JBのアルバム『Love Power Peace~』も、まさにこのころのライヴを収録したもの。スタジオ録音は、さすがにライヴほどの熱気や勢いはないものの、キレは抜群。JBの煽りも最高。


「セックスマシーン」とか「スーパーバッド」とか「ホットパンツ」とか「ブラザーラップ」とか、よくこんなカッコいい曲名を思いつくもんだと感心してしまう。


なかには「アンツ・イン・マイ・パンツ I Got Ants In My Pants」(パンツの中にアリさんがいるのだ)なんていう、よくわかんない曲もあるんだけど。



ディスク4The Godfather Of Soul」は、「それからのJB」という感じ。一時期の熱狂が過ぎ去り、徐々にそのキャリアが下降線を辿っていった時期の音源で、全体的に気が抜けた印象。


それでも、「ゲット・オン・ザ・グッド・フット Get On the Good Foot」は、JBらしいファンク・チューンだし、「ゲット・アップ・オファ・ザット・シング Get Up Offa That Thing」「 ボディ・ヒート(パート1) Body Heat, Pt. 1」あたりのナンバーからは円熟味も感じる。


ラストの「ユニティー(パート1 Unity, Pt. 1」は、ヒップホップの草分け的な存在、アフリカ・バンバータとコラボした1984年のナンバー。リリース当時に、そこそこ話題になったように記憶しているけど、あまり売れなかったみたい。でも、この曲で脚光浴びたことにも後押しされ、翌1985年のシングル「リビング・イン・アメリカ Living in America」で、JBは表舞台に見事カンバックするのだった。



4枚のディスクを通して聴くと、ファンクという音楽を生み出し普遍化していく過程を俯瞰することができる。これは、なかなかにすごい体験だ。



でも、CD4枚分、72曲(ホントは71曲だけど)、4時間37分は、やっぱ、長いよね。そして、一旦プレイ・ボタンを押すと、どんどんノッてくるので、途中で聴くのを止めるのができないのも難点。


レビューするために、この1週間足らずで3回通して聴いたんだけど、ということは、延べ13時間以上、我が家ではJBが流れていたわけか。家人からボリュームを下げろとリクエストが来るわけだ。


でも、できるだけ大きなボリュームで聴きたくなるのが人情。それを許してくれた家人への感謝も込めて・・・・・・




おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★








長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。