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転がる石のように名盤100枚斬り 第27回アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ - ニール・ヤング

転がる石のように名盤100枚斬り 第27回アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ - ニール・ヤング

#74 After The Gold Rush (1970) - NEIL YOUNG

アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ - ニール・ヤング


あるアーティストを聴くようになるきっかけは、さまざまだ。


僕らが若い頃は、ネットなんてなかったし、雑誌とFMラジオが、音楽や映画の貴重な情報源だった。


ラジオで耳にした曲がえらく気に入ってしまい、その曲が収録されているLPレコードを購入したりもした。いま思えばバクチに近い。だって、お目当ての曲以外は、全曲ハズレ・・・・・・なんてこともあるんだから。



ニール・ヤングの場合、その音楽と出会ったきっかけはTVドラマだ。僕が大学生の頃、彼の代表曲の一つ「オンリー・ラヴ Only Love Break Your Heart」が、深夜に放送していたコメディ・ドラマ『やっぱり猫が好き』のオープニング・テーマ曲だったのだ。



・・・・・・ここまで書いたところで、なぜか、脳内で矢野顕子のナンバー「David」が再生される。



ん? 『やっぱり猫が好き』のテーマは「David」か?



調べてみると、「オンリー・ラヴ」がテーマ曲に採用されたのは、『やっぱり猫が好き』ではなく、その後番組として放映された『子供、ほしいね』でした。



記憶ってやつは、まったくアテにならぬ。



『子供、ほしいね』の主演は工藤夕貴。彼女扮するDJの妻と植木職人の夫が織りなすシチュエーション・コメディであった。



ほら、まったく記憶にない。



しかし、「オンリー・ラヴ」が流れたオープニングのことは、よく覚えている。青空に浮かぶ白い雲の間を飛行する映像に、ニール・ヤングの繊細な歌声と美しいメロディがマッチしていた。



奇しくも、『子供、ほしいね』がオンエアされた1990年、イギリスのシンセ・ポップ・バンド、セイント・エティエンヌが、「オンリー・ラヴ」をカヴァーしている(こちらのタイトルは原題ママ、「オンリー・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート」)。


ダンス・フロア向けにアップテンポに仕上げたヴァージョンは、リリース時は注目されなかったけど、翌1991年に、アルバムの発表とともに再発され、日本も含め世界各地でスマッシュ・ヒットとなった。


いまだに耳にすることもあるので、ニール・ヤングのオリジナルよりこっちの方が有名かも。



奇しくも、セイント・エティエンヌが「オンリー・ラヴ・キャン~」をヒットさせた1991年、日本では、高橋幸宏がこの曲をカヴァー。同年に発表した『A Day In The Next Life』の冒頭に収録されている。


高橋幸宏は、ほかにも「ヘルプレス Helpless」「ザ・ローナー The Loner」といった、ニール・ヤングのナンバーをカヴァーしてるし、「オンリー・ラヴ・キャン~」をこのタイミングで取り上げたのは、セイント・エティエンヌのヴァージョンに触発されたわけではなく、本当に偶然だったんだろうな。



オリジナルがカントリー風味で、牧歌的な印象なのに対し、セイント・エティエンヌのヴァージョンは、クールでちょっと突き放すような感じ。高橋幸宏のカヴァーは、フォーキーでオリジナルよりも枯れている。メランコリックに陥る寸前で踏みとどまるのは、この時期の幸宏ならでは。3ヴァージョンを聴き比べるのも一興だ。



さて、深夜のTVドラマのオープニング・テーマ曲として「オンリー・ラヴ」を知った僕は、早速、この曲が収録されているアルバムのCDを買うため、タワレコに走った。


『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』74位の『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』である。


初めて聴いて以降、約30年間、このアルバムは、僕にとってオールタイム・ベストの一枚となった。何回聴いたかわからない。何回聴いても色褪せない。



11曲を通して聴くと、まず、メロディの美しさに打たれる。


「バード Bird」のはかなさ、「ブリング・ユー・ダウン Don’t Let It Bring You Down」の峻厳さと優しさのコントラスト、「アイ・キャン・リアリー・ラヴ When You Dance I Can Really Love」の胸かきむしるようなパッション。


曲ごとに様々な感情が、自分の中に現れては消えていく。


アコースティック・ギターもしくはピアノがメインの、飾り気のない演奏は、キーの高い繊細なニール・ヤングの歌声を際立たせ、聴くものの心を、さらにざわつかせる



そして、聴くたびに浮かび上がってくるのは、ほのぼのとしたあたたかさかと思いきや、荒野のような寂寥とした風景だったりする。



なんだろね、こりゃ?



このアルバムに収められている曲は、歌詞の表現が詩的で解釈に悩むものが多い。


たとえばタイトル曲の「アフター・ザ・ゴールドラッシュ」なんかは、自分の見た夢をそのまま唄った感じで、「騎士」とか「女王」とか「宇宙船」とかが、脈絡なく登場する。


こんな調子だから、何を歌っているのか、なかなか理解できなくて、もどかしさを感じる。それでも、何回か聴いて歌詞を拾っていくと、徐々に印象が変わってくる。



改めて「オンリー・ラヴ」を聴いてみよう。アルバムの3曲目だ。


深夜のTVドラマのオープニングとして聴いた時は、青空の映像も相まって「牧歌的」に思えたけど、アルバムの流れで聴くと、手触りが違ってくる。むしろ、セイント・エティエンヌや高橋幸宏によるカヴァー・ヴァージョンから受ける、「突き放した冷たい感じ」「メランコリックだけど、枯れて乾いた感じ」という表現がピッタリくる。


タイトルを直訳すると「愛だけが君の心を切り裂く」。失恋したグラハム・ナッシュのために書かれたという説もあるけど、本当にそうだろうか? 



“僕がいつも考えていたのは、

「人生」というゲームがまさに孤独だってこと。

なんとかそれを、素晴らしいものにしようと思っていたんだ。

でも、愛だけが君の心を切り裂く。

最初から愛をかたく信じてみよう。

そう、愛だけが君の心を切り裂く。

それで君の世界が崩れ去ったとしても構わない”



・・・・・・訳してみたけど、よくわからんね。



この歌は、「僕」という一人称が語り手なんだけど、思うに、曲中に登場する上記の「君」も「僕」同様、ニール・ヤング自身じゃないだろうか。


だとしたら、孤独を甘受しながら、それでも人生をより良いものにしようと努力していたのに、誰かを愛することによって、心は傷つき、寂しいながらも平和な毎日が吹き飛んでしまった、という歌になる。



“僕には友達がいる。

まだ会ったことはないんだけど。

彼は夢の中に閉じこもって顔を出さないんだ”



この一節に登場する「友達」も、多分、ニール・ヤング本人。彼の別人格みたいなものなんじゃないか。もしくは普段は心の奥底に隠している、愛への憧憬を意味するのかもしれない。


こう解釈すると「オンリー・ラヴ」は単なるラヴ・ソングではなく、「孤独」についての歌だということになる。そして、何よりも、ニール・ヤング自身についての歌ということになる。



この曲に限らず、『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』は、実は、ニール・ヤングの独り語りみたいなアルバムなんじゃないか。だからこそ、やけに生々しい。リアル。



恋人に語りかけているような「アイ・ビリーヴ・イン・ユー I Believe in You」も、歌詞をよく読むと独り語りだ。



「君を信じてる」なんて言葉、

僕は嘘を言ってるのかな?

君を信じてる

君を信じてる



これって自問自答と自己暗示の合わせ技。誰にも語りかけてはいない、つぶやきみたいなものだ。



つまるところ、このアルバムを聴いた後に残る殺伐とした寂寥感は、ニール・ヤングが心に抱えているものなんだろう。それに共感する人々も、気づかないだけで、みんな心に寂寥感を抱えているんだろう。「夢の中に閉じこもって顔を出さない」友達が、心の中にいるんだろう。


30年間飽きずにこのアルバムを聴いてきた僕の心の中にも、きっとその「友達」がいる。



告白すると、かつて、僕のケータイ電話のメール・アドレスのアカウントは「after.the.gold.rush」でした(ちょっと恥ずかしい)。ここまで思い入れがあるアルバムには、いくつ星を付けても足りないけど・・・・・・



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★







長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。