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転がる石のように名盤100枚斬り 第29回スーパーフライ - カーティス・メイフィールド
#72 Superfly (1972) - CURTIS MAYFIELD
スーパーフライ - カーティス・メイフィールド
正直に言うと、ブラックスプロイテーション映画を「ちゃんと」観た覚えがない。子供の頃、土曜の午後とかにTVでやっていた映画枠で観た可能性はあるけど、記憶には残っていない。
「ブラックスプロイテーション」とは、1970年代に流行した、アフリカ系アメリカ人を対象とした、アクション満載の娯楽映画のこと。
『黒いジャガー』とか『コフィー』とか、『フォクシー・ブラウン』とか、映画のタイトルだけは僕も知っている。これは、ブラックスプロイテーションの熱心なファンである、クエンティン・タランティーノ監督に負うところが多い。
ブラックスプロイテーションが一躍注目されたのは、タランティーノが手掛けた3作目の劇場映画『ジャッキー・ブラウン』(1997年)の公開時。タランティーノは、この映画によってブラックスプロイテーションへオマージュを捧げたと言われている。
でも、実際、映画を観ると、大人(というか中年)の恋愛を描いた、タランティーノにしては、至極まっとうな作品なのだった。ブラックスプロイテーションを彷彿とさせるようなギラギラした感じはまったくない。
そもそも、この映画の原作である、エルモア・レナードによる犯罪小説『ラム・パンチ』の主人公は白人女性だし、彼女の苗字は、映画『フォクシー・ブラウン』を連想させる「ブラウン」ではなく「バーク」。サミュエル・ジャクソンが映画で演じた銃の密売人、オデール・ロビー(原作ではオーディル・ロビー)は、さすがに原作でもアフリカ系アメリカ人だけど。
要は看板に偽りありである。
ブラックスプロイテーションのアイコンであり、『コフィー』『フォクシー・ブラウン』の主演女優であるパム・グリアが主役を務めたこと、アフリカ系アメリカ人 vs イタリアン・マフィアの抗争を描いたブラックスプロイテーション『110番街交差点』の、ボビー・ウォマックによる主題歌をオープニングに使用したこと以外に、ブラックスプロイテーション要素は見当たらない。
それでも、映画『ジャッキー・ブラウン』が、僕の目をブラックスプロイテーションを彩った音楽に向けてくれたことは間違いない。要は、ボビー・ウォマックの「110番街交差点 Across The 110th Street」のカッコよさにヤラレタわけだ。
ブラックスプロイテーションとソウル・ミュージックは切っても切れない関係だ。元祖は、アイザック・ヘイズがサントラを手掛けた『黒いジャガー Shaft』である。公開は1971年。映画のヒットに引きずられるように、主題歌とサントラ・アルバムが全米1位を記録している。
『黒いジャガー』と並ぶブラックスプロイテーション・サントラの名盤が、今回のお題、カーティス・メイフィールドによる『スーパーフライ』だ。
『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』で72位にランクイン。
『黒いジャガー』の監督は、『スーパーフライ』の監督、ゴードン・パークス・ジュニアの父ちゃんらしい。やはり、『スーパーフライ』は作風とか音楽の使い方とかで、『黒いジャガー』から影響を受けているんだろうか? 両方とも、映画観てないからわからんけど。
影響を受けていても、私立探偵が主人公の『黒いジャガー』と、麻薬密売人が主人公の『スーパーフライ』では、映画としてのテイストも異なるだろうし、サントラにもそれが反映されているようだ。
『ローリング・ストーン』誌もレヴューで触れているけど、『黒いジャガー』のサントラは、まさに映画の伴奏曲で、主題歌ともう2曲「ソウルヴィル Soulville」「ドゥ・ユア・シング Do Your Thing」以外は、すべてインストゥルメンタル。インストはインストで、おしゃれでかっこいいんだけど。
逆に『スーパーフライ』は2曲を除いてカーティスのファルセット・ヴォイスが炸裂する、ニュー・ソウルなアルバムだ。
ストリングスの美しい音色と錯綜するパーカッション、切れ味鋭いホーン、ワウ・ペダルをきかせたファンキーなギターが浮かび上がらせるのは、ドラッグに毒されたストリートの現実だ。
だから、このアルバムの根底には、ある種の「哀しみ」が横たわっている。
カーティスが、登場人物のなかでももっとも親近感を抱いたのは、フレディという男だそうだ。彼のために「フレディズ・デッド Freddie’s Dead」を書いている。ふむ。映画観てないからわからんけど、死んじゃうのね、フレディ。
“誰もがフレディを好きなように利用した
やつからすべてをはぎ取り、ののしった
ヤクを押しつければ、ジャンキーが一丁出来上がり
一髪キメてぶっ飛んじまったフレディ
そんなわけで、やつは今じゃ街角で突っ立ってる
お前がジャンキーになりたいんだって言うなら教えてやるよ
ヤクのおかげでフレディは死人同然になっちまった”
なかなかヘヴィな内容。死ぬわけではなく、生ける屍となるのか。
この1曲前に収録されている「プッシャーマン Pusherman」は、パーカッションと、たたみかけるカーティスのヴォーカルがカッコいい。フレディを陥れたドラッグ・ディーラーのことを歌っているのか? それって主人公とは別なのか?
「エディ・ユー・シュッド・ノウ・ベター Eddie You Should Know Better」は、カーティスならではのグッド・メロディ&アレンジの美しい一曲。でも、そんな曲調とは裏腹に、詞に目を通すと、この歌の主人公エディってヤツは、周りの連中に迷惑をかけてばかりいる野郎みたい。
「ジャンキー・チェイス Junkie Chase」は、タイトル通り、ジャンキーを追いかけるシーンで使われたんだろう。誰が追いかけているかはわからんけど。
アルバム終盤の「ノー・シング・オン・ミー No Thing on Me (Cocaine Song)」では、「ドラッグがなくても人生幸せ! だってナチュラル・ハイになれるから♪」なんて歌われている。でも、タイトルには「コカイン・ソング」と入っているんだよなぁ。ホントにドラッグなしで大丈夫か? つーか、今、キメてない?
続く「シンク Think」は、ロマンチックなインストゥルメンタル・ナンバー。明るい結末を予感させるが、果たして、ドラッグ・ディーラーの主人公は改心して新しい生活に踏み出すんだろうか?
こんな風に、映画を観ていなくても、なんとなく映像とストーリーが浮かぶのが、このアルバムの素晴らしいところだ。でも、この映像はどこから立ち上がってくるのか?
アイザック・ヘイズが映画『黒いジャガー』を鑑賞した後、「ついに007の黒人版が現れた!」と、はしゃいだのに対し、カーティスは自身がシカゴのスラム育ちだったこともあり、ゲットー(アフロ・アメリカをはじめとするマイノリティの居留区)から抜け出そうともがく、『スーパーフライ』の登場人物たちにシンパシーを感じていたようだ。
だから、アイザック・ヘイズが、『黒いジャガー』の「原作も脚本も読まななかった」と明らかにする一方で、カーティスは、『スーパーフライ』の脚本を読み込み、登場人物の心理まで掘り下げて曲作りに臨んでいる。
当時、カーティス・メイフィールドは、すでにソウル界を牽引する立場だったはずだけど、自分の出自であるストリートのことをリアルに感じ、そこに住む人々に心を寄せることができた。
だから、このアルバムでカーティスが行ったことは、映画のストーリーをなぞることではなく、記憶たどればいつでも目に浮かぶ、名もない人々について歌うことだったんじゃないか。
このアルバムを聴いたとき、映画『スーパーフライ』を観たことのない僕の脳裏に浮かんだのは、映画の場面ではなく、カーティスが実際に歩いたシカゴのストリートのイメージなんだろう。
これは、映画を観てないからこそ体験できることだな・・・・・・・なんて思わず開き直ってしまう、素晴らしいアルバム。必聴なのです。
おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★
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