音楽MUSIC
転がる石のように名盤100枚斬り 第33回オフ・ザ・ウォール - マイケル・ジャクソン
#68 Off The Wall (1979) - Michael Jackson
オフ・ザ・ウォール - マイケル・ジャクソン
四十路最後の文章のはずが、五十路最初の文章になってしまった。生まれて半世紀。思えば遠くに来たもんだ(©︎武田鉄矢)。
そんな、おっちゃんのミュージック・ライフでも、鮮烈に印象に残っているのは、マイケル・ジャクソンが「スリラー Thriller」のヴィデオを引っ提げて、MTVに登場した時だ。
マイケル・ジャクソンは、正直言って、前のめりでフォローしていたわけではないけど、彼のCDは何枚か持っているし、2009年のマイケル急逝に伴って制作された映画『THIS IS IT』を劇場まで観に出かけ、エンディングで涙したくらいの思い入れはある。
マイケルが亡くなったのは、彼が50歳の時。ついに僕の年齢が追い付いてしまった。
マイケルほど、「セレブリティ」という言葉が似合うアーティストはほかにいないだろう。この言葉は、日本では「金持ち」みたいなニュアンスで使われるけど、本来は、大衆からの注目を常に集める有名人を指し、そこには「見せ物」という意味合いも含まれるので、必ずしもいい意味あるとは限らない・・・・・・となんかで読んだ。
マイケルは、アルバム『スリラー Thriller』(1982年)が桁外れのセールスを記録した後も、ヒット・アルバムを生み出し、常にミュージック・シーンの中心にいたけど、同時にその奇行もおもしろおかしく報道され、死ぬまで毀誉褒貶に悩まされた。まさに「セレブリティ」の宿命。
マイケルの死後も「未成年に対する性的虐待疑惑」が、世間を賑わせたけど、実際、「マイケルだったら、やりかねんなぁ」と、僕も思ってましたよ(ここに来てほぼ疑惑は晴れたようだけど)。
ちっちゃい頃から芸能人やってれば、「普通」じゃなくなるのは理解できる。兄弟で結成したジャクソン5に加入したのは、5歳の時だもん。
9歳でソウルの殿堂、アポロ・シアターのステージに立ち、10歳の時、ジャクソン5としてレコード・デビュー。グループは、ヒットを積み重ね、13歳の時には、ソロ・シンガーとしてデビュー。14歳で初の全米ナンバーワン・ヒット「ベンのテーマ Ben」を放つ。
ジャクソン5ごと、モータウンからエピックに移籍し、グループ名をジャクソンズに変更したのが17歳の時。これを契機にソング・ライティングやプロデュースの分野でも腕を振るう。
マイケル、まだ未成年やん。
20歳を迎えた年には、『オズの魔法使い』を原作とするミュージカル映画『ウィズ Wiz』に出演。興行的には大コケするも、ここで知り合ったのが、映画の音楽監督を努めていたクインシー・ジョーンズ。
彼をプロデューサーとして招き制作されたのが、今回のお題『オフ・ザ・ウォール』だ。『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』で68位に選ばれた。
マイケルの死後、2014年にジャスティン・ティンバーレイクをフィーチャーしてリリースされた「ラヴ・ネヴァー・フェルト・ソー・グッド Love Never Felt So Good」も、イカすディスコ・チューンだったので、このころのアウトテイクかと思っていたけど、実は『スリラー』の発売後、ポール・アンカ(!)と共作した曲だった。
ジャンルでくくると「ラヴ・ネヴァー・フェルト・ソー・グッド」も「ディスコ・ミュージック」だし、ついそんな勘違いをしてしまった。
そう『オフ・ザ・ウォール』は、なんてったってディスコ・アルバムの大傑作なのだ。
全10曲のうち、マイケルがソング・ライティングにかかわったのは、3曲のみ。ほかは、スティーヴィ・ワンダー、デイヴィッド・フォスター、ポール・マッカートニーといった大御所による曲が目に付く。加えて「スリラー」も手がけたロッド・テンパートンが、タイトル・ソング「オフ・ザ・ウォール Off The Wall」、全米ナンバーワン・ヒット「ロック・ウィズ・ユー Rock With You」を含む3曲を提供している。
スティーヴィ・ワンダーが提供した「アイ・キャント・ヘルプ・イット I Can't Help It」は、いかにもスティーヴィらしい流麗なメロディを持った曲。マイケルのヴォーカルも、ちょっとスティーヴィ・ワンダーぽい。
ポール・マッカートニー提供の「ガールフレンド Girlfriend」は、これまた、いかにもポールらしい他愛のないラヴ・ソング。ポールの曲としては、中の下クラス。『オフ・ザ・ウォール』の流れのなかで聴くと、ひときわ古臭く感じる。この時点で、すでにポールよりもマイケルの方がとんがってたのね。
このアルバムのメイン・ソングライターと言っても過言ではない、ロッド・テンパートンは意外にも白人だ。当時は多国籍ソウル・バンド、ヒートウエイヴで、活動していたのを、クインシー・ジョーンズがスカウトしたそうだ。
彼の手による「ロック・ウィズ・ユー」は、このアルバムの傑作ディスコ・ソングの一つだが、非常にマイルド。スムースで洗練されている。ぬるいっちゃぬるい。「ブラコン(ブラック・コンテンポラリー)」という言葉を久々に思い出した。
同じくテンパートンによる「オフ・ザ・ウォール」は、どこか、ノーブルな感じ。テンパートンのホームグラウンドがヨーロッパだからか。冒頭の効果音が、のちのち「スリラー」に発展したのかもなどと想像すると楽しい。
もう一曲、アルバムのラストを飾る「バーン・ディス・ディスコ・ダウン Burn This Disco Out」も彼の曲。キャッチーでメロディにツイストがきいてる。
このアルバムが、マイケルにとって飛躍の一枚となったのは、ロッド・テンパートンのソングライティングと、クインシー・ジョーンズによるプロデュースによるところが大きい。それは間違いない。
でも、今聴いて耳を引くのはマイケルの手による3曲だったりする。
その3曲とは、アルバムのオープニング・トラックで、全米シングル・チャートを制した「今夜はドント・ストップ Don't Stop 'Til You Get Enough」、ラテンなリズムとホーンの組み合わせがカッコいい「ワーキング・デイ・アンド・ナイト Working Day And Night」、ルイス・ジョンソンと共作したミディアム・ファンク「ゲット・オン・ザ・フロア Get On The Floor」だ。
どの曲も、なんつーか、フィジカルな感覚がある。「ダンス」を感じる。聴いていると頭の中でマイケルが踊り始める。思わず一緒にステップを踏みたくなる。
この感じは、ほかの曲にはない。
3年後にアルバム『スリラー』で炸裂するマイケルらしさが、これらのチューンではすでに芽吹いている。
マイケル・ジャクソンが、セレブリティとしてではなく、純粋にアーティスト、エンタテイナーとして世に問うたアルバムは、これが最後だったかもしれない。
マイケルが亡くなって10年が経つ今だからこそ、プレイしよう。そして、曲に合わせてステップを踏もう。
おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★
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