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ロックン・ローヤーの音楽なんでもコラム Vol.10

ロックン・ローヤーの音楽なんでもコラム Vol.10

「いだてん」とジャズと落語の奇妙な関係

 2019年の大河は、約30年ぶりの現代劇(全編が明治時代以降の物語を「現代劇」と定義するなら)だったわけですが、ピエール瀧の逮捕に始まり、ショーケンさんの死去、前川大河の奮闘虚しくアビスパ福岡はJ2の残留争い、←コレちょっと、強引? 来年の話ですが、ヒロイン級のエリカ様の逮捕など、いわくつきの大河になってしまった感のある1年だったわけです。

 「いだてん」に関しては、マラソンというのが大きなテーマになっていて、病気のため休業中とはいえ、本性はランナー、自称・ジャズ研究家というワタクシとしては、注目のドラマでもあったのです。え、ジャズと何の関係があるのかって? 音楽を担当していた大友良英さんなのですが、この方、前衛ジャズ・ギタリストなのです。最近ではすっかりクドカンファミリーおしておなじみで、「あまちゃん」の音楽も担当されてましたが。

こういう意外とマイナーな本来の顔って、BBクイーンズ(ちびまるこちゃんの「おどるポンポコリン」)の近藤房之介さんが実は日本有数のブルーズのミュージシャンで(だいたいBBクイーンズというバンド名がブルーズ界の神様だったBBキングをもじってる)、思わぬヒットに本人も周囲もびっくりしたというエピソードを思い起こさせて、マイナー音楽側のファンとしては嬉しいことこの上ないのです。

 このドラマではビートたけしさんが語りをやりつつ、落語というのも一つのテーマになってました。落語については、ドラマをいくつか見た程度で、詳しい知識があるわけではないのですが、その芸の在り方がジャズに似てると日ごろ思っていたところ、ジャズと落語を重ねる画期的クドカンのドラマが登場した(強引すぎるかも)のでした。客席外でいろいろと混乱したのと、視聴率が全くダメだったのは残念だけれど、せっかくなので、ジャズ方面の話について総括しておきたい。

 あくまでも、僕は、自称ジャズ研究家というレベルのリスナーで、演奏は全くやらないし、落語については、実際に寄席に足を運んだことさえないという人間なので、トンデモ発想ではあるかもしれないけれど、世の中って、専門知識で凝り固まった人よりも、その程度の人の方が面白いことを考えるってことが結構ありますよね。自分で言うなよ、オイ。

 だいたい、ジャズがビッグバンド中心=編曲の音楽から、アドリブの音楽に変容したのは、第2次世界大戦前後の1940年代と言われている。この時期、デューク・エリントンや、カウント・ベイシーらのバンドもビッグ・バンドの大所帯を維持するのに苦労していたとのこと。平成の日本で言うと、米米クラブが大所帯だったから、苦労したみたいだけど、あれはまだCDの売れた時代だったからよかったわけで。

 もともとは、原曲があって、編曲によってビッグ・バンド用にアレンジにすれば、それがジャズということになっていたものと思われます。で、ビッグ・バンドのアレンジの中でアクセントに使われていたソロ・パートでの軽いアドリブがあった。

 時代の趨勢の中でビッグ・バンドが小規模化、コンボ化し、ジャズという音楽のアイデンティーをどこに求めるか、となった時にちょうど現れたのがあの天才チャーリー・パーカーだったわけなのです。

 いわゆるビバップ革命で、ここからのジャズを「モダン・ジャズ」と呼ぶことは前にも書いたかと思います。

 その前のアーリー・ジャズ時期は、古典落語の発想で、決まった噺を、どうアレンジして、各噺家のニュアンスで上手くはなすのかが芸になる、ということで、ある意味、編曲の妙は古典落語の芸に通じるところが大きいのではないかと思います。

 それに比べると、モダンジャズは、曲という枠組み自体は借りてくるので、スタートとゴールは決まっている。ドラマでも出てきた「富久」で言えば、途中どこを走ってもいいから、オチはココに、という約束事さえ守れば、どれだけ飛躍させてもいいし、また、飛躍させてうまく落とすというのが腕の見せ所、という、全く違う世界になるわけです。これを毎回即興で違う噺を組み立てて、「今日はどうなるんだろう」と聴衆をわくわくさせる。こういう落語のジャンルがあるのかどうかわかりませんが、たぶん無理でしょうね。

 そういう枠組みの制約があるのは不当だということで、ジャズの世界では、フリー・ジャズなんて音楽の限界にチャレンジする前衛派まで現れるわけですが、(大友さんは本来この系統。)それはまた別の機会に。

 こうやって、日々全く違う音楽を作り出すのも苦しいことだ、とパーカーは麻薬に溺れてしまったわけで、音楽の世界に薬物が持ち込まれたさきがけでもあったのかもしれません。その末裔がピエール瀧なのか、とうまくまとまったかな。

 で、この流れとして、電気グルーヴのCDを挙げたかったのですが、手元に無くて、出荷は止められてる一方で、アマゾンの中古品はプレミア価格でハネ上がり、オークション関係もとんでもない状況で、やむを得ず、ちょっと似たようなジャンルのアンダーワールドを挙げておきます。そういえば「トレイン・スポッティング」なんて薬物中毒をテーマにした映画があって、その主題歌「ボーン・スリッピー」)が入ってます。ぎりぎりセーフ。







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法坂 一広
法坂 一広

法坂 一広 IKKOU HOUSAKA

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法坂一広
1973年福岡市出身
2000年弁護士登録(登録名は「保坂晃一」)
2011年「このミステリーがすごい!」大賞受賞2012年作家デビュー
著書に弁護士探偵物語シリーズ・ダーティ・ワーク 弁護士監察室
ブログhttps://ameblo.jp/bengoshi-kh