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転がる石のように名盤100枚斬り 第36回バック・トゥ・モノ - フィル・スペクター
#65 Back To Mono [1958 - 1969] (1991) - Phil Spector
バック・トゥ・モノ - フィル・スペクター
1960年代は、ロックが革命的に進化した10年だったわけだけど、その一方で、いわゆるポップスも黄金時代を迎えていた。
それを象徴するのが、モータウンだろう。このレーベルを象徴するグループ、シュープリームス(ザ・スプリームス)は、1964年に発表した「愛はどこにいったの Where Did Our Love Go」を皮切りに、5曲連続で全米シングル・チャートを制覇する。
このうちの5曲目が、超絶傑作「ストップ・イン・ザ・ネーム・オブ・ラヴ Stop In The Name Of Love」。
その後は、「抱きしめたい I Want To Hold Your Hand」で、同年の2月、全米シングル・チャートを制圧したザ・ビートルズと、ヒットチャートで1位争いをくり広げるのだった。
すごい時代ですねー。
そして、同時代にモータウンと双璧をなすほど、ポップスの傑作を連発したプロデューサーが、フィル・スペクターである。
ただし、「おっちゃんのロック史」に初めて彼の名前が刻まれたのは、60年代の珠玉のポップスではなく、ザ・ビートルズのラスト・アルバム『レット・イット・ビー Let It Be』によってだった。
メンバーがサジを投げた音源を、プロデューサーとして、見事に1枚のアルバムとしてまとめ上げたのが、フィル・スペクターで、彼が「ザ・ロング・アンド・ワインディング ・ロード The Long And Winding Road」に甘いストリングスをかぶせたことに、ポール・マッカートニーが激怒したのも有名な話。
ポールには内緒だけど、後に元々の音源をまとめた『レット・イット・ビー・ネイキッド Let It Be Nakid』よりも、フィル・スペクター版の方が、個人的には好きだったりする。
その後もジョージ・ハリソンの『オール・シングス・マスト・パス All Things Must Pass』、ジョン・レノンの『ジョンの魂 John Lennon and Plastic Ono Band』『イマジン imagine』といった、ビートルズ・メンバーの代表的な名盤をプロデュースする。
もちろん、僕も80年代チルドレンですから、大滝詠一や山下達郎を通じて、フィル・スペクターが生み出した「ウォール・オブ・サウンド」は、耳にしていたけど、そのゴージャスなポップスと、一連のザ・ビートルス関連作品での仕事ぶりがどうも結びつかず、それらのアルバムを聴く際もフィル・スペクターの顔が浮かぶことは、あまりなかった気がする。
そりゃ、ジョージの『オール・シングス・マスト・パス 』収録の「美しき人生 What Is Life」なんかは、まさにウォール・オブ・サウンドだけど、ミニマルな『ジョンの魂』をフィル・スペクターがプロデュースしたとは、にわかには信じられんかったし、今も実は信じていない。
80年代以降は、表舞台から姿を消し、すっかり「フィル・スペクター=過去の人」と化していた2003年。そんな時に飛び込んできたのが、彼が自宅で女優を射殺したってニュース。ちなみに現在も服役中。薬物中毒治療施設にいるみたいのなので、クスリにヤラれちゃってたんだろうなぁ。
それにしても、「ゴージャスなポップス」「ザ・ビートルズのプロデューサー」「女優殺人犯」・・・・・・この人を取り巻くキーワード、バラバラすぎ。
今回のお題、『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』65位の『バック・トゥ・モノ』は、フィル・スペクターが1958年から1969年にプロデュースした「ゴージャスなポップス」をコンピレーションしたCDボックス・セットだ。
おいおい。
『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』75位にランクインしたジェームス・ブラウンの『スター・タイム』に続くボックス・セット。「偉大なアルバム」と銘打ってボックス・セットを2組もぶっ込んでくる『ローリング・ストーン』誌の良識をマジで疑う。
もちろん、AppleMusicには登録されていない。
幸い、1991年にリリースされたこのボックス・セットを持っていたからよかったようなものを。
当時、大学生の自分、ありがとさん。
内容は、編集盤3枚に、超傑作クリスマス・アルバム『クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター A Christmas Gift for You From Phil Spector』(これはAppleMusicでも聴ける)が、オマケで付いているというものだ。
『クリスマス・ギフト~』はすでに持っていたので、誰かにあげたはずだが、誰にあげたかは覚えていない。
10年以上ぶりに箱を開けて、CD4枚を聴いてみたけど、この人のポップスの本質は、「浮かれた感じ」だと、改めて思った。クリスマス・アルバムは当然なんだけど、ほかのCDに収録されている曲も、浮き足立った感じ。
やはり、「ウォール・オブ・サウンド」仕様の曲の方が、俄然、浮き足立つ。「ウォール・オブ・サウンド」とはなんぞやということについては、ググれば詳細な記事が見つかると思うけど、簡単に言うと、「音を重ねて分厚くしたサウンド」。音が分離しては分厚くならないので、ステレオが主流になった後も、フィル・スペクターはモノラル録音にこだわったのだった。
『バック・トゥ・モノ』というタイトルの意味を今更ながら悟った。遅すぎ。
ライチャス・ブラザーズ、ベン・E・キングあたりの男性アーティストよりも、女性ヴォーカルの方が、「ウォール・オブ・サウンド」はハマる。
邦題のいい加減さが昭和なクリスタルズの「ハイ・ロン・ロン Da Doo Ron Ron」、パワフルなヴォーカルにホーンが絡むダーレン・ラヴの「ファイン・ファイン・ボーイ・A Fine, Fine Boy A」など、名曲がそろうなか、別格なのが、ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー Be My Baby」。照れ臭くなるほどキャッチーで、一度聴いたら忘れられない。ロニーのハリのある声と「ウォール・オブ・サウンド」の組み合わせは、神々しささえ感じる。
これは大ヒットしたやろうと思って調べてみると、意外にもヒット・チャートでは2位止まりだった。
今回改めて全曲を聴いて見直したのが、アイク&ティナ・ターナーのナンバー。ティナ・ターナーのワイルドなヴォーカルを「ウォール・オブ・サウンド」がさらにドラマティックに盛り立てる。「リバー・ディープ・マウンテン・ハイ River Deep - Mountain High」の疾走感は、全60曲の中でもピカイチ。
これはウケたやろうとと思って調べてみると、ヒット・チャートでは88位止まりだった。
フィル・スペクターがプロデュースした曲って、思ったほど売れていない。ナンバーワン・ヒットって、テディ・ベアーズ「トゥ・ノウ・ヒム・イズ・トゥ・ラヴ・ヒム To Know Him Is Love Him」クリスタルズ「ヒーズ・ア・レベル He’s A Rebel」、ライチャス・ブラザーズ「ふられた気持ち You’ve Lost That Lovin’ Feelin’」くらいだろうか。5曲連続1位獲得という、シュープリームスの輝かしいチャート・アクションに比べるとさびしさは拭えない。
でも、「ウォール・オブ・サウンド」が後世のミュージシャンに与えた影響は、モータウンをはるかに凌駕する。そのすべてがこのボックス・セットに詰まっていると言っても過言ではないだろう。
このボックス・セットをいくらで買ったかは覚えていないけど、元は十分にとったよ・・・・・・と、五十路のおっちゃんから大学生の自分へ言葉をかけてあげたい。
おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★
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