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転がる石のように名盤100枚斬り 第37回 スティッキー・フィンガーズ - ザ・ローリング・ストーンズ
#64 Sticky Fingers (1971) - The Rolling Stones
スティッキー・フィンガーズ - ザ・ローリング・ストーンズ
ロックの歴史において、ザ・ローリング・ストーンズがレジェンド中のレジェンドであることは、論を待たない。
でも、個人的には、さほど思入れもなく、持っている音源は、『刺青の男 Tatoo You』(1981年)の中古レコードと『ベガーズ・バンケット Beggars Banquet』(1968年)のCDに加え、同時代で購入したCD、『スティール・ホイールズ Steel Wheels』(1989年)、『ヴードゥー・ラウンジ Voodoo Lounge』(1994年)、『ストリップド Stripped』(1995年)という偏りぶり。
70年代がスッポリ抜けておる。
今年の正月、我が家に遊びに来たストーンズ・フリークの友人から、『刺青の男』がストーンズ・ファンの間ではダメ・アルバム扱いされていると聞いてビックリした。急遽アルバムをつくらなきゃならなかったんで、お蔵入りいたナンバーを引っ張り出して、何とか聴けるものに仕立て上げたんだって。知らんかった。このアルバム、結構好きなんですけど。
人前でストーンズのアルバムを軽々しく論評するのは避けようと思った。・・・・・・この連載以外では。
そもそも、ザ・ローリング・ストーンズ は、すでにロック・バンドの域を超えている。デビューが、ザ・ビートルズと同じく1962年なので、2020年で結成58年目(!)に突入。活動歴が半世紀以上とか異常。「レジェンド」なんて言葉じゃ生ぬるい。
この人たちの音楽は、もう「ストーンズ」というジャンルだと考えた方がいいんじゃないか。R&Bやロックが時代とともに変化したように、「ストーンズ」というジャンルも時流に変化してきたと考えれば、彼らの懐の深さにも思いが至る。
このジャンルを定義するものは何かというと、ヴォーカル、リード & リズム・ギター、ベース、ドラム+α(キーボードやホーン、パーカッションなど)というバンド構成で、ミック・ジャガーが歌い、キース・リチャーズがギターを弾くということに尽きるのだ。
今回のお題、ザ・ローリング・ストーンズが放った1971年の大ヒット・アルバム『スティッキー・フィンガーズ』(全米・全英アルバム・チャート1位)は、「ストーンズ」というジャンルの歴史においても、エポック・メイキングなアルバムだそうな。
一つは、初期ストーンズの実質的なリーダー、ブライアン・ジョーンズの不在。彼は、1969年にバンドをクビになり、同年、クスリが原因で死亡している。
もう一つは、当時天才若手ギタリストとして名を馳せていた、ミック・テイラーの存在。前作『レット・イット・ブリード Let It Bleed』(1969年)の収録時、ブライアン・ジョーンズと入れ替わる形でバンドに加入したが、全面的にアルバム制作に関わったのは『スティッキー・フィンガーズ』から。
ミック・テイラー効果なのか、確かに、60年代のアルバムに比べて、音楽的に深化したような印象を受ける。
天才ギタリスト、ミック・テイラーの本領が発揮されたのは、2曲目の「スウェイ Sway」と4曲目の「キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング Can't You Hear Me Knocking」だろう。
「スウェイ」でのギター・プレイは、20代前半とは思えない渋さ。「キャント・ユー・ヒア・ミー・ノッキング」の後半パートでは、ミック・テイラーのギターを中心にサックスとオルガン、パーカッションが絡み合う、スリリングなジャム・セッションが繰り広げられる。
そして、なんと、「スウェイ」では、キースはギター弾いてないんですと。コーラスのみ。代わりにミック・ジャガーがリズム・ギターを弾いている。
ちなみにアルバムの最終曲「ムーンライト・マイル Moonlight Mile」の録音には、キースは、まったく参加していない。
「ミック・ジャガーが歌い、キース・リチャーズがギターを弾く」という「ストーンズ 」のジャンル定義はあっさり崩壊してしまったよ・・・・・・。
このアルバムを聴くまで、ストーンズ のすべての曲で、キースはギター弾いているもんだと思ってたけど、実はアーティストのエゴよりも楽曲のクオリティを優先する、音楽主義的なバンドだったのね。
『スティッキー・フィンガーズ』は、アメリカ南部のスワンプ・ロックを意識して制作されたこともあり、全体的にホーンが効果的に使われていて、ファンキーな印象を受ける。特に冒頭を飾る「ブラウン・シュガー Brown Sugar」のアッパー感は、ストーンズのナンバーのなかでも随一じゃなかろうか。
そして一方で、「ワイルド・ホーセズ Wild Horses」のような超絶傑作バラードも収録されているのが、『スティッキー・フィンガーズ』の傑作たる所以だろう。
ほかにも「シスター・モーフィン Sister Morphine」「ムーンライト・マイル Moonlight Mile」「ビッチ Bitch」(なぜかはAppleMusicでは聴けない。ポリコレ的な何かのせい?)など佳曲ぞろい。
開放的でシャープで、しかも音楽的にも深みがある。『スティッキー・フィンガーズ』は、コアなファン以外にもググッと来る要素に満ちた一枚なのだった。
このアルバムで聴かれる「オープンでファンキーなストーンズ 」は、プロデューサーであるジミー・ミラーによる功績が大だろう。元々ドラマーだけあってファンキーな音づくりに長けている。『ベガーズ・バンケット』以降5作連続でストーンズ のアルバムのプロデュースを担い、その黄金期を支えた。
「オープンでファンキーなストーンズ」が後世に与えた影響は結構大きい。五十路のおっちゃんの脳裏に蘇るのは、音楽ジャンルを越境し続けるバンド、プライマル・スクリームの1990年代前半の作品群だ。
彼らは、サード・アルバムにして90年代を代表する傑作『スクリーマデリカ Screamadelica』(1991年)の2曲(「ムービン・オン・アップ Movin' On Up」「ダメッジド Damaged」)で、ジミー・ミラーをプロデューサーに起用している。特に「ムービン・オン・アップ」は、サザン・ロックなストーンズを彷彿とさせる。
そして、その3年後に発表した4枚目のアルバム『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ Give out But Don't Give Up』(1994年)は、まさにストーンズ・トリビュートな作品だった。
このアルバムは『スティッキー・フィンガーズ』にインスパイアされた作品じゃないかとにらんでいる。サウンドの手ざわりが似ている。大ヒットした「ロックス Rocks」は、「ブラウン・シュガー」の90年代的解釈に違いない。
そういや、プライマル・スクリームは、2018年にBBCのラジオ番組で「ブラウン・シュガー」をカヴァーしている。
『ギヴ・アウト・バット~』は当初、セッション・グループ、マッスル・ショールズ・リズム・セクションをバックに制作を進めていた。これも、『スティッキー・フィンガーズ』でも屈指の名曲「ブラウン・シュガー」と「ワイルド・ホーセズ」がマッスル・ショールズ・スタジオで録音されたことにあやかったんだろう。
名推理。
で、『ギヴ・アウト・バット~」のプロデュースをジミー・ミラーに依頼してたら、話としては美しいんだけど、プライマル・スクリームが起用したのは、マッスル・ショールズの親玉、トム・ダウド。
あれ?
さらに言うと、『スティッキー・フィンガーズ』収録曲のうち、マッスル・ショールズ・スタジオで録音した「ブラウン・シュガー」、そして「ワイルド・ホーセズ」には、ジミー・ミラーは、かかわってないらしい。
・・・・・・と、いうことは、ジミー・ミラーが『ギヴ・アウト・バット~』に影響を与えたという線は薄いか。
結局のところ、『ギヴ・アウト・バット~』は、「ストーンズ ・トリビュートな」アルバムなんかじゃなく、「サザン・ロックとかよくね?」という発想から、メンフィスに飛んでトム・ダウドのプロデュースで制作に臨んだものの、ぬるい結果に終わり使い物にならず、改めてハリウッドで録音し直して、カチッとプロデュースしたら、ストーンズ っぽくなっちゃったってことかもしれない。
2018年に『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ - オリジナル・メンフィス・レコーディングス Give Out But Don't Give Up - The Original Memphis Recordings』として日の目を見た、メンフィス録音のボツ音源を聴くと、それほどストーンズぽくない気もする。
素人考え完全に崩壊。現実はそんな単純なもんじゃないね。
『ギヴ・アウト・バット~』が『スティッキー・フィンガーズ』にインスパイアされたって説がかなり怪しい。でも、『スティッキー・フィンガーズ』がストーンズ屈指の傑作なのは間違いないでしょう。プライマル・スクリームのファンもぜひ!
おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★
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