Bigmouth WEB MAGAZINE

音楽MUSIC

転がる石のように名盤100枚斬り 第40回#61 グレイテスト・ヒッツ (1970) - スライ&ザ・ファミリー・ストーン

転がる石のように名盤100枚斬り 第40回#61 グレイテスト・ヒッツ (1970) - スライ&ザ・ファミリー・ストーン

#61 Greatest Hits (1970) - Sly and the Family Stone



『ローリング・ストーン』誌は、『史上最も偉大なアルバム』企画で、トップ100にジェームス・ブラウンとフィル・スペクターのボックス・セットをランク・インさせた前科があるが、今回のお題である61位は、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのベスト・アルバムであった。


容易に手に入らないボックス・セットよりはマシだけど、ベスト盤を「偉大なアルバム」として推すのはいかがなもんかな。それじゃ、あれかい、前回言及したヴァン・ヘイレンのベスト盤は、100位以内ではなくとも、300位以内にはランク・インしてるのかい? ビートルズのベスト盤、いわゆる赤盤・青盤は、トップ100に入っててもおかしくないけど、その辺はいったいどうなってんだい!?



そもそも、AppleMusicには、ベスト盤がアップされていないケースが多い。今回のお題のスライ&ザ・ファミリー・ストーンのブツも見当たらない。仕方ないから例の如く、Wikipediaで収録曲調べて、その通りにプレイリストをつくりましたよ。



スライ&ザ・ファミリー・ストーンのアルバムは、『暴動 There’s The Riot Goin’ On』が99位にランク・インしているけど、まさかベスト盤が、あの名盤を凌ぐ評価を得ているとは。彼らのベスト盤と言えば、白黒のジャケットがカッコいい『アンソロジー Anthology』(1981年)が有名だけど、そっちじゃなくて『暴動』リリース前の1970年に発表されたものだし。


英語版のWikipediaにリリースの経緯が載っていた。


スライ&ザ・ファミリー・ストーンは、4枚目のアルバム『スタンド! Stand!』のヒットに続き、伝説のウッドストック・フェスティヴァルで、強烈なインパクトを残す。さらに、シングル「ホット・ファン・イン・ザ・サマータイム Hot Fun in the Summertime」が全米チャート2位、「サンキュー Thank You (Faletinme Be Mice ELF Again)」に至っては全米チャート1位に。押しも押されぬスーパー・スターの仲間入りしたのはいいけど、レコード会社の手元にはリリースできるマテリアルがない! そこで、場つなぎ的に発売されたのがこの編集盤。


要はレコード会社の都合で制作された、まったくもって志の低いアルバムなのだった。



収録曲は、シングル曲に加え、デビュー・アルバムを除く3枚のアルバムからセレクトされている。これらのアルバム自体も、それぞれ輝きを放っているし、時代にインパクトを与えたことも間違いない。それらを差し置いて、ベスト盤をランク・インさせた『ローリング・ストーン』誌の編集者は、何を考えてんだか。



この機会に3枚のアルバムを振り返ってみよう。


セカンド『ダンス・トゥ・ザ・ミュージック Dance To The Music』(1968年)はサイケな香りもするファンク・アルバムで、さすがサンフランシスコ出身というユニークな仕上がりだけど、ノリだけの曲も多くて全体的には凡庸かも。


よりロックに接近したサード・アルバム『ライフ Life』(1968年)は、小沢健二が同名アルバムでロゴ・デザインをパクったことで有名。前作よりも楽曲もサウンドも練りこまれているし、クールなファンクネスが光る一枚だけど、まったくヒットせず(全米チャート195位!)。個人的には大好きだけど、一般的には佳作という評価にとどまるだろうな。


全米13位と起死回生のヒットとなった『スタンド! Stand!』(1969年)は、いまじゃスタンダードと言ってもいい「エヴリデイ・ピープル Everyday People」も聴ける必聴盤。人種間に横たわる深い溝をシンプルに表現した「ドント・コール・ミー・ニガー・ホワイティ Don't Call Me Nigger, Whitey」も収録されており、社会性と娯楽性のバランスが秀逸。『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』にランクインしてもおかしくないと思い調べたら、121位だった。確かに、『暴動』に比べると薄味だし、強力な曲が入っているだけに、アルバムとしてのまとまりに欠けるか。


どのアルバムも聴く価値は十分にある。でも、『史上最も偉大なアルバム』の100位以内にランクインするには、やや弱いことは認めざるを得ない。



で、「とりあえずシングル・カットされた曲をぶっこんでアルバムを仕立てちゃえ」と、安直に編集されたベスト盤が、どんな仕上がりになっているかというと、『史上最も偉大なアルバム』61位も納得のすばらしさでした。このアルバムを推した『ローリング・ストーン』誌の編集者に完全同意。キミは正しかった。



クールだけど、明るくオープンなファンク・ミュージック。人種も性別も音楽のジャンルも笑顔で飲み込んでしまうおおらかさ。これが本来のスライ&ザ・ファミリー・ストーンの音楽なんだなぁ。どの曲からもポジティヴなヴァイブレーションがあふれている。


超クールな「アイ・ウォント・テイク・ユー・ハイヤー I Want To Take You Higher」をトップに持ってきたのは大正解。音楽がもたらす高揚感をストレートに表現した楽曲で、自然とテンションが上がる。


「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック Dance To The Music」「スタンド! Stand!」といったファンキーな曲に混じって、「エヴリバディ・イズ・ア・スター Everybody Is A Star」「エヴリデイ・ピープル」といった彼ららしいかわいい系の曲や、「マ・レディー M'Lady」のような風変わりな印象の曲が配置されているのも、いいバランス。


・・・・・・とは言え、あくまでシングル曲を寄せ集めただけなので、別にレコード会社のプロデューサーが偉いわけではなく、たまたまなんだけど。



全米ナンバーワン・ヒットとなった「サンキュー」は、「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」「エヴリデイ・ピープル」「シング・ア・シンプル・ソング」「ユー・キャン・メイク・イット・イフ・ユー・トライ」といった彼らのヒット曲が歌詞に歌い込まれている。ベスト盤のフィナーレを飾るにふさわしい楽しいチューンだ。


この曲でスライはこんな風に歌っている。



ありがとう


おかげで、また、自分自身を取り戻せたよ



数々のヒット曲を放ち、時代の寵児となったスライは、人種も出自も関係ない、「自分自身」になることができたんだ・・・・・・と思いきや、このベスト盤が出たころ、スライはすでにクスリに手を出していたそうで、この後、ズルズルとアルバム『暴動』で表現されたダウナーな世界に足を踏み入れていく。



『グレイテスト・ヒット』がリリースされたのが、1970年11月。その1年後の1971年11月にアルバム『暴動』が発売されている。本当は、『グレイテスト・ヒット』のタイミングで、スライ&ザ・ファミリー・ストーンはオリジナル・アルバムをリリースする義務があったんだけど、スライのドラッグ問題もあり、それが叶わず、やむなくベスト盤をリリースすることになったというのが真相のようだ。


『暴動』のラストに収録されている「サンキュー・フォー・トーキン・トゥ・ミー、アフリカ Thank You For Talking to Me Africa」は、上記の「サンキュー」をリメイクしたものだ。原曲よりもずっとスローなテンポで、物憂げに歌うスライの声は、あの世から聴こえてくるかのようだ。



ありがとう


おかげで、また、自分自身を取り戻せたよ



スライは、この曲を歌ったとき、それが束の間であったとしても、クスリの影響から解放されていたのかなぁ。ここで歌われている「本当の自分=ジャンキー」だとしたら、あまりに悲しい。



『暴動』以降のスライの闇落ちぶりに思いを馳せると、その寸前にリリースされた『グレイテスト・ヒット』の楽曲群が愛おしく思えてくる。『ローリング・ストーン』誌のレヴューに「スライ&ザ・ファミリー・ストーンは音楽のユートピアを構築した」とある。


その通り。


彼らが体現した1960年代理想主義の最後の輝き。それが、このベスト盤なんだろう。




おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★





長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

facebook instagram twitter

1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。