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転がる石のように名盤100枚斬り 第41回#60 Trout Mask Replica (1969) - CAPTAIN BEEFHEART AND HIS MAGIC BAND

転がる石のように名盤100枚斬り 第41回#60 Trout Mask Replica (1969) - CAPTAIN BEEFHEART AND HIS MAGIC BAND

今回のお題は、『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』60位にランク・インした『トラウト・マスク・レプリカ』。


キャプテン・ビーフハートというアーティスト名も、本物の鯉の頭でつくったお面を彼がかぶっているアルバム・ジャケットも、昔からよく目にしていたけど、実際に聴く機会がなかなかなかった。そういうアルバムを耳にするチャンスが巡ってくるのが、この連載を始めて一番よかったことだなぁ。


早速、AppleMusicで検索した。



ない。



名盤の誉も高い『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』60位のアルバムが、AppleMusicに登録されていない。



まじか。



一応、Spotifyでも検索してみたけど、こっちにもない。


ここまで来てアルバム1枚トバすのはシャクなので、CD買っちゃうか!と、Amazonで検索してみた。中古盤がズラリと並ぶなかに新品が1枚だけ。



¥50,000+配送料¥350って、ナニコレ?



迷わず却下。中古盤の購入も検討したけど、送料も含めると普通の新品CDを買うよりも高くつくのか。



困った時のYouTube。スマホのアプリを立ち上げ検索すると、ありましたよ、[Full Album HQ]! どこのどなたかは知らないけど、アップロードしてくれて、ありがとう。


こういう事情なので、どの曲がどの曲名とか、細かいとこはよくわかりません。ご了承ください。Wikipediaを信用すると、レコード4枚組全28曲の大作みたい。



そんなこんなで、ようやく聴くことができた『トラウト・マスク・レプリカ』だけど、生まれてこのかた、こんなに奇妙なアルバムは聴いたことない。


フリー・ジャズぽいアブストラクトな演奏にしゃがれ声のブルージーなヴォーカルが重なる。ヴォーカルとバックの演奏が微妙にズレてたりするし、ふざけたようなギターのリフが繰り返されたり、ヘンテコなリズムがてんこ盛りだったりするので、一聴するとジャンクな印象を受けるんだけど、ちゃんとポップ・ミュージックとして成立しているのに驚く。



そして、『ローリング・ストーン』誌のレヴューを読んで2度驚いた。曰く「すべての断片はあらかじめ綿密に組み立てられたもので、バンドはそれを正確に再現するために、何か月にもわたって112時間リハーサルを行う生活を送った」。


要は、『トラウト・マスク・レプリカ』の曲はジャズ的な即興演奏で生み出されたものではなく、キャプテン・ビーフハートの頭の中で鳴り響いていた音楽を正確に再現したものなのだ。



狂ってますねぇ。



演奏がうまいのか下手なのか、最初は判断に迷ったけど、上のエピソードを知ると、うまい下手とか考えるのがアホらしくなる。ビーフハートが満足すれば、それが正解だってことだし。



しかし、軟禁状態に置かれリハを繰り返したバンド・メンバーの苦難に思いを馳せながら聴くと、またアルバムが味わい深くなる。


ザ・マジック・バンドってネーミングも安直でいかがなものかと思うけど、「キャプテン・ビーフハート」(本名はドン・ヴァン・ヴリート)同様、メンバーもなぜか源氏名を名乗ってて、「アンテナ・ジミー・ザーメンズ」とか「ドランボ」とか「マスカラ・スネイク」とか、どこか間が抜けていて、ロック・バンドぽくない。


なんであなたたち、ビーフハートのバンドに入っちゃったの? 



この源氏名も含めて、ふざけているのか、真剣なのかイマイチはかりかねてしまうのだけど、ビーフハートが何を歌っているのかがヒントになるかというと、タイトルを眺めても、よくわからない。「*****」なんてタイトルもあるくらいだし。聴いていると、段々曲の区切りもわからなくなる。気がつくと曲調が変わっているんだけど、「壊れた」印象は変わらない。


頭の中に混沌が注ぎ込まれていくような感覚に囚われる。それが段々楽しくなってくるのが不思議。


1曲ごとに評価するのではなく、「壊れた音楽」の塊として、深く考えずに受け入れるのがいいみたい。そういう意味では、YouTubeでだら~っと流すのは、このアルバムにふさわしい聴き方なのかもしれない。



リリース当初はまったく売れず、英語版のWikipediaによると、アメリカではチャート入りすることも叶わなかったようで、さもありなんと思ってたら、イギリスではアルバム・チャートで堂々の21位にランク・インしたってんだから、大英帝国の懐の深さに、これまた驚いた。


さすが、パンクとニュー・ウエイヴを産んだ国。



このアルバムは、フランク・ザッパがプロデュースしていて、彼のレーベルから発売された。ビーフハートとは若いころからつるんでいたらしい。ビーフハートとザッパは、このアルバムで、「売れる/売れない」ではなく、既存の音楽のルールをぶっ壊して、魂の底から湧き上がるクリエイティヴィティを解き放つことを目指していたみたいだ。


だから、出来上がった音楽はすごくプリミティヴだし、聴いているとすごく元気になる。グチャグチャななかに、生命力を感じる。



聴く人を選ぶアルバムであることは間違いないけど、先入観に囚われずに聴いてくれれば、案外気に入る人が多いように思う。気付いてないけど、誰もが心のどこかに割り切れない「グチャグチャ」な部分を抱えているはずだし、そこにこの音楽はスッとしみ込んでくる。


あと、トム・ウエイツ好きな人にはおすすめ。『ローリング・ストーン』誌のレヴューも言及しているけど、ヴォーカル・スタイルがちょっと似てる。



このアルバムが、もっと聴きやすい環境になればいいけど、版権の問題があるみたいなんで、なかなか難しそう。いつまでもYouTubeで聴くのも面倒なので、中古CDを見つけたら買おうと思っている。



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★


長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。