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ロックン・ローヤーの音楽なんでもコラム Vol.2

ロックン・ローヤーの音楽なんでもコラム Vol.2

古いジャズが好き。

前回は初回だったので、ロックのお話を書いておきましたが、本来、僕の音楽での専門分野はジャズなのです。今回はさっそくそのジャズの件を書きます。

少し前の話になりますが、確か何かのドラマを見ていました。西島秀俊さんが出ていたと思うのですが、「別にこれという趣味もないのだけれど、楽しみと言えば古いジャズが好きかな」というセリフを言ったのですが、これが妙にかっこよくて、ジャズ・ファンとしては色めき立ってしまうのです。

なんせ言ってるのが西島秀俊さんですからね。かく言う僕は筋金入りのノンケなんですけど。とりあえず、ぼく程度のオトコであっても、「ジャズが好き」と口にしただけで、「オシャレ、カッコイイ」みたいな反応をされることがあるわけですよ。でも、ぼくの場合、病膏肓に入るというか、単なるジャズ・ファンの域を大きく逸脱して、もうマニア、ヲタクの域に達しているという自覚がありますので、とてもオシャレではないんですよね。同じヲタクなら、若くてかわいいアイドルでも追っかけてる方が、男子としてはまだ健康的だと思うこともたまにあります。それで、そのドラマのときも、「古いジャズ」っていったいなにを聴いてるんだ、ということが気になってしまい、部屋のシーンを凝視し、音楽がかかっているようなシーンは耳をすますという病的なドラマの見方をしてしまうわけです。分かってはいることですが、その主人公の部屋のオブジェに、見慣れたブルーノートの1500番台のCDが飾ってあったり、バーでお酒を飲むようなシーンでは「いかにも」な、ビル・エバンスのピアノが流れる演出だったりと。ジャズをオトナのオシャレなアイテムの一つとして扱っているのが見え見えなわけで、そもそも「古いジャズ」という言葉に文句を付けたくなるのがマニアの哀しい性なのです。

僕らマニアの部屋のようにCDが山積みになっていてむしろジャケットなんか見えなかったり、これ見よがしにアナログレコードが棚いっぱいにひしめいてるような状況が描写されることはありません。

そこで扱われてるのは「古いジャズ」と言いながら、厳密には「古いモダンジャズ」じゃないかと。実は、1920年頃から録音の残っているジャズというジャンルには1940年代に一度革命が起きています。森田童子の歌の歌詞にも登場するチャーリー・パーカーというサックス奏者らが起こしたビバップ革命というのがあって、通常はこれ以降のスタイルをモダンジャズと呼ぶのです。逆にこれ以前のスタイルの呼び方は統一されていませんが最近では割とアーリージャズなんて用語が一般的になりつつあるようです。最近たまにディアゴスティーニの一連のシリーズもの(創刊号のみ290円)で取り上げられたりする、ブルーノートや、ミュージシャンの多くはほとんどが「モダンジャズ」を対象としているものなのです。むしろ、「アーリージャズ」というジャンルは僕らからしてもマニアックな部類に入って、めったに手を出すことはありません。例えば、どういうものをイメージしたらいいかというと、グレン・ミラーの「ムーンライト・セレナーデ」、ベニー・グッドマンの「シング・シング・シング」デューク・エリントン「A列車で行こう」あたりが分かりやすいかと思います。どれもこれも素晴らしい音楽であることは間違いないわけですが、ドラマのこジャれた小道具にはちょっと的を射ていない感じです。端的に言えば、「古いジャズ」ってかっこいいというニュアンスにはなりません。


微妙なところではルイ・アームストロングというミュージシャンがいます。ジャズの世界では創世神のように「古いジャズ」なのですが、「この素晴らしき世界」「ハロー・ドリー」などがポップ・ソングとしてヒットしたため、一般にはジャズミュージシャンとの認識も薄いかもしれません。


ということで、冒頭の「古いジャズが好き」というセリフ、厳密には「古いモダンジャズが好き」って言うのが正しいのではないかという疑問が湧くことになるのです。

ただ、こう書くと、校閲を恐れる作家の哀しいサガが疼きます。古い、とモダンが矛盾するのではないかと。モダンジャズにももう長い歴史と様々なスタイルがあって、そのうちで、50年代のハードバップというスタイルだったら古いものに当たるし、こじゃれたイメージにも合致するので、「古いモダンジャズ」という言い方は問題ないと思います。実はこういう古いのか新しいのか良く分からない名称は学術的なものにもあって、ぼくの専門分野である刑法理論では新古典派などという理論があるので、よく起こることなのかもしれません。刑法理論の場合、目的刑論(=罪を犯した人を刑罰によって改善するという考え方)を巡って、大きな対立があって、一般の方は刑罰で犯罪者を改善するのは当然じゃないかと考える傾向があるようです。「モダン」な刑法理論の方が一般性を持っている。というのは、ジャズと似たような状況にあって面白いところです。古典主義の刑法理論から見れば問題ももちろん指摘できるのですが、これはあくまでも音楽コラムなので、刑法理論に深入りすることは避けますが、人の内面に立ち入って改善するというのが法律や国家権力の役割として疑問であるというのが根本的な発想のようです。

「古い刑法理論(古典派)を支持する」と言っておいた方が何かと試験には有利だという噂もあります。





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法坂 一広
法坂 一広

法坂 一広 IKKOU HOUSAKA

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法坂一広
1973年福岡市出身
2000年弁護士登録(登録名は「保坂晃一」)
2011年「このミステリーがすごい!」大賞受賞2012年作家デビュー
著書に弁護士探偵物語シリーズ・ダーティ・ワーク 弁護士監察室
ブログhttps://ameblo.jp/bengoshi-kh