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転がる石のように名盤100枚斬り 第4回

転がる石のように名盤100枚斬り 第4回

#97 The Freewheelin’ Bob Dylan (1963) - BOB DYLAN

『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』- ボブ・ディラン


2001年に公開されたキャメロン・クロウ監督の『バニラ・スカイ Vanilla Sky』は風変わりな映画だ。スクリーンに映っている世界は夢か現か? トム・クルーズ演じる主人公は、本当は何者なのか? そもそも生きているのか、死んでいるのか? ストーリーが進むにつれて、頭の中は疑問符だらけになる。


映画の中で印象に残っているのは、主人公が恋人と肩を並べてニューヨークの街を仲良く歩くシーン。しかし、それは現実ではなく、あるレコードのジャケットをコピーした、主人公の妄想だったことが物語のラスト近くでわかる。


そのレコードこそが『ローリング・ストーンが選んだ史上最も偉大なアルバム』97位にランクインした、ボブ・ディランの2作目『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』である。


当時、ディランは2122歳。その顔には、まだどこか幼さが残る。ディラン、かわいい。


ディランのくせにかわいい。


アルバム・ジャケットの舞台は、冬のニューヨークはグリニッジ・ヴィレッジ。路面には雪が敷き詰められている。すごく寒そう。


でも、ディラン、薄着。マジで寒そう。


そんな状況で、当時の恋人、スーズ・ロトロの笑顔が、この写真に温もりを与える。彼女は真冬の寒さも楽しんでいるように見える。

実は二人はこのアルバムが発売される前後に別れてしまったそうだ。青春は、はかない。だからこそ輝いて見えるのね。『バニラ・スカイ』の主人公が、「理想の過去」として妄想してしまったのもむべなるかな。


プレイボタンを押す。いきなり「風に吹かれて Blowin’ In The Wind」。歌い出すと、やっぱりディラン。今ほどのアクはないけど、それでもディラン。


かわいい顔してディラン。


「風に吹かれて」は、日本で一番有名なディランのナンバーだろう。中学生の頃からこの曲だけは知っていた。プロテスト・ソング、反戦歌の代表曲。このアルバムで改めて聴いて、「なんかジャケのロマンチックなイメージと違うなぁ」と思った僕は素人でした。ジャケでステキな笑顔を披露してるスーズ嬢は、親譲りのバリバリの左翼で、ディランが社会派シンガーになったのは彼女の影響が大だったらしい。このジャケにして、この曲あり。


「風に吹かれて」のほかにも、「北国の少女 Girl From The North Country」や「くよくよするなよ Don’t Think Twice, It’s Alright」など、佳曲が並ぶ。ハイライトは、「はげしい雨が降る A Hard Rain’s a-Gonna Fall」だ。


19751976年に行われた伝説的なライブ・ツアーの音源を収録したアルバム『ローリング・サンダー・レヴュー The Bootleg Series Vol. 5 The Bob Dylan Live 1975 - The Rolling Thunder Revue』でも演奏されていて、一時期よく聴いていた(今年6月に新しいボックスセットがリリースされるらしい)。もろに、スワンプ・ロック。ラフなボーカルがかっこいい。


『ローリング・サンダー・レヴュー』でのパフォーマンスに比べると、ギター一本で演奏される『フリーホイーリン~』のバージョンは、静謐な印象を受けるが、その分、声が生々しく響く。ディランに特有のある種のグルーヴが迫ってくる。言葉と声による呪術的なグルーヴ。単調なフレーズとメロディのループにいつのまにか引きずりこまれる。言葉の一つ一つが胸に響く。心に刺さる。これがディランなんだなぁ。


なんて、もっともらしいことを口にするが、本当のことを言えば、僕は遅れて来たディラン・ファンなのだった。新譜を追いかけるようになったのは、1997年の『タイム・アウト・オブ・マインド Time Out Of Mind』以降。そこから、60年代のアルバムまで遡って聴いたけど、CDで購入したもっとも古いディランのアルバムは、『追憶のハイウェイ61  Highway 61 Revisited』(1965年)であり、つまりはディランがフォークからロックに完全に転向した後の作品なのだった。


ボブ・ディランがかつて「フォークの貴公子」だったことは、もちろん知っていた。しかし、90年代の復活以降に、本格的に聴き始めた僕にとって、ディランは「ロックの人」だった。だから、「フォークの貴公子」と呼ばれていた初期の作品には、あまり興味はなかった。


でも、このデビュー2枚目を聴いて考えを改めました。「フォーク」とか「ロック」とかを越えて、あくまでもディランはディランでした。二十歳そこそこの頃から、紛うことなくディランなのでした。


さてさて、最近ご無沙汰なので『ローリング・サンダー・レヴュー』を久々に聴いて

みようかなと、CD棚から引っ張り出すと、一緒に紙ジャケ仕様の『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』が出てきた。

は? 持ってたの、このアルバム?


CDで購入したもっとも古いディランのアルバムは、『追憶のハイウェイ61』・・・・・・じゃないじゃん。初期の作品に興味がなかった・・・・・・って、ちゃっかり買ってんじゃん。


確かにCDはここにある。封も開いている。でも、聴いた記憶がほとんどない。「この世界は夢か現か? 僕は誰? ここはどこ?」と『バニラ・スカイ』が他人事じゃなくなったところで・・・・・・



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★







長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。