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転がる石のように名盤100枚斬り 第53回 #48 It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back (1988) - PUBLIC ENEMY 『パブリック・エネミー・Ⅱ』 - パブリック・エネミー

転がる石のように名盤100枚斬り 第53回 #48 It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back (1988) - PUBLIC ENEMY  『パブリック・エネミー・Ⅱ』 - パブリック・エネミー

ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』48位にランク・インしたパブリック・エネミーのセカンド・アルバムがリリースされた1988年、まだ、ヒップ・ホップやラップは、僕には身近ではなかった。



だって、昭和63年だもの。



「ヒップホップ」という音楽ジャンルがアメリカで勃興していることは、福岡県の片田舎にも伝わってきた。これは1986年にヒットしたランD.M.C.「ウォーク・ディス・ウエイ Walk This Way」とビースティ・ボーイズ「ファイト・フォー・ユア・ライト  (You Gotta) Fight For Your Right (To Party) 」によるところが大きい。


でも、田舎の高校生にとって、ヒップホップは、ロックに比べると、かなり優先順位が低かった。


僕が初めてヒップホップの音源を買ったのは、平成になってから。1989年にリリースされたデ・ラ・ソウルの『3・フィート・ハイ・アンド・ライジング 3 Feet High and Rising』だった。このアルバムは、いまでもたまに聴く。


その後は、ちょこちょことヒップホップ/ラップのCDを買うようになった。それでも90年代までは、ロックの比率が高かったかな。



あれから30年たち、今じゃ、ヒップホップ/ラップは、すっかりポピュラー音楽のメイン・ストリームになっちゃった。


試しに自分のAppleMusicの「最近追加した項目」をのぞいてみると、KAD-2、クリス・ブラウン&ヤング・サグ、アール・スウェットシャツ、コールド・ウォーター、フレディ・ギブス、ラン・ザ・ジュエルズなんかを、ここ数か月は聴いていたみたい。


もちろん、ピンとくるものもあれば、こないのもある。


それにしても、昨今のヒップホップは、R&Bやジャズはもちろん、ロックやエレクトニカとも交配し、音楽的な懐がかなり深くなっている。こんだけアヴァンギャルドであると同時に、キャッチーな音楽ジャンルってほかにないだろう。聴いていて楽しい。



一方で、一部のヒップホップ・アーティストの音楽を聴いていると、心のどこかに後ろめたさを感じるのも事実なのだった。


僕にとって、その最たるアーティストは、ケンドリック・ラマーだ。2011年にデビューして以降、アメリカの黒人を取り巻く社会問題を音楽に昇華し続けている。


2017年リリースの4枚目のアルバム『ダム DAMN.』が評価され、2018年にはジャズを除くポピュラー・ミュージックで初めてピューリッツァー賞受賞を果たす。


リアルタイムで聴いているのは、サード・アルバム『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ To Pimp a Butterfly』(2015年)からだけど、その前作『グッド・キッド、マッド・シティー Good Kid, M.A.A.D City』(2012年)も『ダム』も、映画のサントラ『ブラックパンサー・ザ・アルバム Black Panther: The Album』(2018年)も、しばし我が家ではヘヴィ・ローテーションと化していた。



しかしだ、正直に言うと彼の音楽は「ようわからん」。



もちろん、バック・トラックはカッコいいし、ケンドリックのラップは圧倒的な存在感を発しているわけだけど、そのリリックが何を伝えているのかを理解しないと、「わかった」ことにはならんのではないかと思う。


『トゥ・ピンプ~』で印象に残る一曲は「オールライト Alright」だ。”Nigga, we gon’ be alright”、つまり「みんな大丈夫さ」というリフレインを耳にすると、ポジティヴな曲なんだろうなぁと思ってしまうけど、”なぁ、警察の奴らマジムカつくよな/あいつら、俺たち黒人をストリートで撃ち殺してやろうって狙ってる/間違いない”なんて一節があることからもわかるように、本当は、黒人を取り巻く暴力的で狂気に満ちた状況を描いた曲で、実際、2015年当時の「Black Lives Matter」のアンセムになっている。


ほら。ケンドリックが綴るストーリーは、リリックを読んで理解しないと、正しく受け止めているとは言えないのだ。「ケンドリック・ラマー 全リリック解説&和訳」なんて書籍かWEBサイトがあればいいんだけど(ある?)。国内盤のCDを買って歌詞カードを熟読するしかないんだろうなぁ。



今回のお題のパブリック・エネミー(PE)も、ケンドリック同様、聴いていると居心地の悪さを感じる。元祖社会派ヒップホップ。リリック内容を吟味せず、適当にノリで聴いていると、PEのリーダー、チャックDにドヤされそう。


しかも、『史上最も偉大なアルバム』50位以内にランク・インしている通り、『』はヒップホップ/ラップの最高傑作とも謳われている。心して聴かねば。



PEのアルバムで所有してるのは3作目の『ブラック・プラネット Fear of a Black Planet』(1990年)だけなので、『』を聴くのは初めて。


どこかに全曲リリックが落ちてないかなと、ネットを検索してみるとありましたよ。なんと便利な注釈付き。全部英語だけど。


https://genius.com/albums/Public-enemy/It-takes-a-nation-of-millions-to-hold-us-back


和訳は・・・・・・ないのね。でも、とりあえず、リリックの内容が少しは把握できるか。



なんとなくリリックに目を通し、まずは一聴。


イギリスはハマー・スミス・オデオンで行われたライヴでのMCからスタート。そして鳴り響く空襲警報。タイトルは、「Countdown to Armageddon」つまり「最終戦争へのカウントダウン」。元々、これがアルバム・タイトルだった。


ここから怒涛のライムの波状攻撃。チャックDがラップしまくる。相方のラッパー、フレイヴァー・フレイブもいい味出している。



PEには、イカつくてとっつきにくいイメージがあるけど、アッパーなトラックが多くて、結構、聴きやすい。


ラストの「パーティ・フォー・ユア・ライト・トゥ・ファイト Party for Your Right to Fight」なんて、ビースティ・ボーイズの「ファイト・フォー・ユア・ライト 」へのアンサー・ソングだって。盛り上がるわぁ。


“Bring The Noise” (ノイズを撒き散らせ)とか”Don’t Believe the Hype”(世間で出回ってるデタラメにだまされるな)、”Louder Than a Bomb” 爆弾よりもインパクト大だぜ)などなど、キメのフレーズがキャッチーなのもアガる要因だろう。



スクラッチが多用されているところに時代を感じさせるけど、全体的に古びていないのは、チャックDの熱いラップに加え、細かくサンプリングを重ねて構成されたバックトラックが、いまだに有効だからだろう。


クイーンの「Flash’s Themeフラッシュのテーマ 」のダサさが耳を引くけど、ほかにもルーファス・トーマス、アイザック・ヘイズ、スティーヴィー・ワンダーなどの楽曲がサンプリングされている。


そして、すべてがパズルのピースのようにカチッとハマっている。



メロディなんかいらない。でも、グルーヴは必要。



ヒップホップは「アヴァンギャルドであると同時に、キャッチーな音楽ジャンル」だと、前述したけど、まさにPEはその魁であり、完成形なのだった。



しかも、チャックDは自分たちの音楽の革新性に十分自覚的だった。


「ドント・ビリーヴ・ザ・ハイプ Don’t Believe the Hype」にこんな一節がある。


音楽ライターの連中は、俺をコルトレーンみたいに扱う/「狂人」呼ばわりだ


ここで言う「コルトレーン」とは、言わずと知れたジャズの巨人、ジョン・コルトレーンのこと。1950年代を通じて、確固とした名声を築いていたのだが、1960年代には、それまでのスタイルを捨て去り、より前衛的なジャズを追求した。


それに対し、当時の批評家たちの反応は芳しいものではなく、「ジャズを冒涜するもの」とまで酷評される。しかし、最終的には、コルトレーンの生み出した音楽は、ジャズの新たな地平線を指し示し、現在では、すでに古典となっている。


チャックDは、そんなコルトレーンの偉業に、PEを重ね合わせていたのだ。すっげぇ自信。



PEのライムには、音楽ジャーナリズムや批評家、ラジオ局に対する不信感も繰り返し登場する。実際、白人が運営するラジオ局では、PEのライムの過激さに恐れをなし、インストルメンタルしかオンエアしなかったそうだ。


もちろん、メインとなる標的は黒人を虐げ続けるアメリカの体制だ。


連邦政府は最凶・最悪の殺し屋だ/やつらは黒人のリーダーたちを血祭りに上げてきた(ターミネーターX・トゥ・ジ・エッジ・オブ・パニック Terminator X to the Edge of Panic


黒人のリーダーとは、キング牧師やマルコムXのことだ。チャックDは、彼らを亡き者にしたのはCIAだと告発する。


まぁ、陰謀論なんだけど、大切なのは、このフレーズが黒人たちにとってリアルだってこと。


「白人による政府は黒人を殺し続ける」


これを証明する事例が、2020年にアメリカで相次いで発生し、「Black Lives Matter」がアメリカのみならず、世界各地に飛び火したことは、日々報道されている通りだ。


もちろん、PEも黙ってはいない。6月に入って、「ステイト・オブ・ザ・ユニオン State of the Union (STFU)」と銘打ったシングルを発表した。


怒ってます。チャックD、トランプ大統領にブチ切れています。


2020年。時代は、昭和どころか、平成をすっ飛ばしてもう令和。21世紀に入って20年を数えようとしているのに、世界はPEが『』を発表した時代から、まったく進化していない。


そんな状況に絶望し、諦めてしまいそうになるけど、怒り続けるチャックD、すごい。



現在も続く、黒人の生存を賭けた闘争を呼びかけるステイトメントとして、そして、ヒップホップという「アート」が誕生する瞬間を収めたアルバムとして、『Ⅱ』がこれからも色あせることはないだろう。傑作。



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★









長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。