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転がる石のように名盤100枚斬り 第60回 #41 Never Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols (1977) - THE SEX PISTOLS 『勝手にしやがれ!!』 - セックス・ピストルズ
「勝手にしやがれ!!」というフレーズをGoogleで検索すると、沢田研二が1977年にリリースした同名曲(ただし「!!」はなし)が、最初に上がってくる。まぁ、順当ですね。
次が、福岡県北九州市生まれ、県立筑紫中央高校卒業、九州産業大学中退の武藤昭平が率いるジャジーなバンド、勝手にしやがれ。いま現在活動しているバンドだし、検索される回数も多いのだろうな。
そして、1960年公開のジャン=リュック・ゴダール監督、ジャン=ポール・ベルモンド主演の映画と2002年の韓国ドラマが続く。ゴダールの名作は何回も観たけど、韓国ドラマについては、まったく知らんかった。
で、今回のお題、『ローリングストーンが選ぶ史上最も偉大なアルバム(2003/2012)』41位にランクインしたアルバム『勝手にしやがれ!!』に関連したページが引っ掛かったのは、なんと検索画面の4ページ目。しかもブックオフの商品ページであった。
この存在感の薄さ。
それもむべなるかな、今年9月に発表された『史上最も偉大なアルバム』最新版では、80位だもの。40近くランクを落としてるじゃん・・・・・・。
ピストルズ の登場がロンドン・パンクに火をつけ、世界にインパクトを与えたことは誰もが認めるだろう。しかし、彼らの音源を2020年に聴いて、当時のイギリス音楽シーンがひっくり返ったほどの衝撃を追体験することは、確かに難しい。
そもそも、1977年当時の「パンク・ムーヴメント」は音楽だけが独立していたわけではなく、当時の英国の社会情勢とそれに対する若者たちの不満や絶望感、それを可視化したかのような斬新なファッションなどとセットで見るべきなんだろう。
だから、21世期の若者がアルバム『勝手にしやがれ!!』を聴いて、肩すかしに似た感情を抱くのも仕方ないことだと思う。
セックス・ピストルズが、1970年代後半の英国で熱狂的な支持を受けた要因は、権威、権力、社会体制、そういった若者を抑圧するすべてのものを蹴散らす攻撃性にあったわけだ。でも、実際に『勝手にしやがれ!!』を聴いてみると、収録されている12曲はどれもキャッチーで聴きやすく、サウンド・デザインもクリーンな印象。言うほど「攻撃的」じゃない。
これは、エルトン・ジョンやピンク・フロイド、ロキシー・ミュージック、そしてサディスティック・ミカ・バンドの作品も手掛けたプロデューサー、クリス・トーマスを起用したことが大きい。彼は、音楽が「プロダクト」として求められるクオリティを、きちんとキープできる職人なのだった。
じゃあ、巷間で言われたように、バンドのメンバーの演奏が下手くそかというと、音源を聴く限りでは、そんなこともない。基本的に3コードのパンク・ナンバーなので、元々、高度な演奏技術が必要とされるわけではないんだけど、リズムはタイトだし、ギターもカッコいい。「ライアー Liar」のイントロのギターのリフなんかは、ガンズ&ローゼズみたい。
でも、ライヴはボロボロだったんじゃないかと、YouTubeでライヴ映像をチェックしてみたけど、ちゃんと聴けるレベルの演奏を披露している。まぁ、うまくはないけど。あまりの下手さにアルバムではベースを弾かせてもらえなかったという、シド・ヴィシャスでさえ、まともに演奏しているように見える。
破壊的・破滅的・衝動的な音楽を期待してピストルズを聴くと、結構普通のロックンロールなので、ガッカリしちゃう人もいるかもしれないなぁ。だから、『史上最も偉大なアルバム』最新版での80位という評価も理解できる。
しかし、それでも、この『勝手にしやがれ!!』が、いまだに聴く価値を持った、重要なアルバムであることは、僕のなかでは揺るがない。
確かに、その音楽はいま聴くと、さほど過激とも思えない。それに、ピストルズは本当の意味でインディペンデントではなく、マネージャーを務めたマルコム・マクラーレンにより、自身の経営するブティック<SEX>の宣伝を目的に「つくられた」バンドだったという事実は、まったくもって「パンク」じゃない。
しかし、唾を飛ばしながら世界への呪詛をまき散らすジョニー・ロットンは、マジなのだ。リアルに「パンク」なのだ。
元々、ロットンの家庭は貧しい労働者階級で、アイルランド移民だったためにひどい差別にも遭ったんだって。
さらに、7歳のとき、病がロットンを襲う。ザ・ブルーハーツの甲本ヒロトも影響を受けていると思しき、目をひん剥いて歌うパフォーマンスは、ステージを盛り上げるための単なるパンク仕草だと思っていたんだけど、実は、この病気の後遺症だそうだ。
かなり大きな病気で、3か月昏睡状態が続いたっていうんだから、命を落とす直前だったんだろう。この経験が幼いジョンにとって、ハンディキャップとしてつきまとったことは、容易に想像がつく。実際、いめられっ子だったみたい。
その反動で、中学に上がってからは札付きの不良になり、マルコム・マクラーレンにスカウトされてピストルズ に加入することになるんだけど、20歳を迎える前にそんだけキッツイ経験を味わってれば、「未来なんてねぇ!(No Future)」と叫びたくもなるし、キリストに唾を吐きかけ、無政府主義者を標榜したくもなるよね。
バックの演奏が、いまや陳腐に響いたとしても、デビュー・シングルでもある「アナーキー・イン・ザ・U.K. Anarchy in the U.K.」でのロットンのヴォーカルを聴けば、彼が抱えていた絶望とフラストレーションが「つくられた」ものじゃないことはわかる。
50過ぎたおっさんが言うのもなんですけど、ロットンのヴォーカルからあふれ出るやり場のない怒りとか、やりきれなさとか、やけっぱちになりそうな危うい気分とか、いまだにシンパシーを感じる。
加えて、ひと筋縄じゃいかないとこがジョニー・ロットンのジョニー・ロットンたる所以だ。
ピストルズが解散して数十年後に行われた、ロットン(ピストルズ脱退後はジョン・ライドンとして活動)のインタビューを読むとわかるんだけど、ロットンは、ピストルズでも、単純に日常の憂さを晴らすためだけに歌っていたわけではなかった。
「分かってたまるか No Feeling」で歌っている「感情がない」状態は逆説で、そこには愛情を求める孤児たちの抑えがたい感情が隠れているだとか、「ゴッド ・セイヴ・ザ・クイーン God Save the Queen」は、王政批判というよりは、無条件でシステムを受け入れる大衆の愚かさを歌ったものだとか、ロットン自信が当時を振り返ってコメントしている。
後付けなのですべてを信じるわけにはいかないけど、ステージ上での傍若無人なイメージとは裏腹に、ロットンが醒めた目で世界を見つめていたことは確かだろう。
ピストルズが巻き起こした「パンク・ムーヴメント」が、所詮は商売人マクラーレンに仕組まれたペテンであることにも、ロットンは自覚的だった。1978年1月、アメリカ・サンフランシスコで行われたライヴを最後にロットンはバンドを脱退することになる。その公演で、ロットンがステージからオーディエンスに投げかけた「だまされた気分はどうよ?」という言葉は、まさにそのことを証明している。
ピストルズ 脱退後に結成したPILでの展開を見ても、ロットン(=ジョン・ライドン)が、決してバカではなく、むしろ理知的なアーティストであることは間違いない。性格はかなりひん曲がってそうだけど。
で、そんなロットンは、「No Future」なんていう、1年半で賞味期限が切れてしまったパンクの大義に殉じた親友シド・ヴィシャスをどんな風に見ていたんだろうね。
「パンク・ムーヴメント」が、社会情勢やファッションと合わせて見るべき現象であることは、前述したとおりだけど、そこにもう一つ加えるとしたら、シド・ヴィシャスという人物の生き様だろう。
ピストルズ が空中分解した後もパンク道を走り続けた・・・・・・というか、パンクという三文芝居の舞台の上でのたうちまわり続けたその人生は、あまりに鮮烈で、結果的に、彼をロンドン・パンクのアイコンへと押し上げた。
でも、アルバム『勝手にしやがれ!!」における、シドの貢献度は限りなくゼロに近い(いくつか作曲に関わったという説も)ので、彼について字数を費やすことは控える。
シドの破滅へと至る道行きについては、アレックス・コックス監督、ゲイリー・オールドマン主演の映画『シド&ナンシー』(1986年)に詳しいので、興味があれば観てみるといいでしょう。
シドの存在を置いておくと、セックス・ピストルズの音楽は、ファッション畑のマルコム・マクラーレンが、時代の空気を巧みに汲み取ってぶち上げた、ニヒリズムをベースとするコンセプトに、ジョニー・ロットンが抱えていた本物の怒りや鬱屈とした感情が乗ったことで奇跡的に成立したものだ。
ただ音を聴くよりも、当時のファッションや時代の空気感がわかるライヴ動画を観た方が、その本質がストレートに伝えわってくるんじゃないかな。『勝手にしやがれ!!』は、その入門編として聴くといいかもしれない。
おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★
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