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転がる石のように名盤100枚斬り 第61回#40 Forever Changes (1967) - LOVE 『フォーエヴァー・チェンジズ』 - ラヴ

転がる石のように名盤100枚斬り 第61回#40 Forever Changes (1967) - LOVE  『フォーエヴァー・チェンジズ』 - ラヴ

前回紹介したセックス・ピストルズ の『勝手にしやがれ!!』も、前々回のドアーズの『ハートに火をつけて』も、今年9月に発表されたローリングストーンが選ぶ『史上最も偉大なアルバム』最新版では40ほどランクを落としている。


でも、この2枚はまだマシな方で、ジョン・レノンの人気作『イマジン』は、『史上最も偉大なアルバム』2012改訂版の80位から、最新版では、なんと223位にダウン。ボブ・ディランの『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』は、97位から255位と158ランクダウン。エルヴィス ・プレスリーの1stに至っては、56位から276も順位を下げ、332位というありさま。


『史上最も偉大なアルバム』最新版は、白人アーティストに冷たかった。



ベスト盤・編集盤に対する評価も辛く、軒並みランクを下げている。なかでもマックスの下げ幅を記録したのが、2012改訂版で58位を記録したC.C.R.のベスト盤。最新版では500位圏外へと消えている。


こうなると、これまでのランキングはなんだったんだのよと言いたくなる。



しかし、同じ編集盤でも、ジェイムズ・ブラウンの『スター・タイム』だけは、75位から21順位を上げ、54位と高い評価を得ている。ファンクはヒップホップ/ラップと親和性の高いからかね?



2012改訂版でトップ100にランクされたにもかかわらず、C.C.R.のベスト盤と同様、最新版で圏外に消えたアルバムがもう1枚ある。60位に入っていたキャプテン・ビーフハートの『トラウト・マスク・レプリカ』だ。


発売当初は、全米チャートではランク外(全英では21位を記録)と、シーンからはガン無視。版権はプロデュースを担当したフランク・ザッパが管理していたはずだけど、その後グチャグチャになったかで、AppleMusicにもSpotifyに音源がないどころか、CDもまともに流通していない。僕もこの連載がきっかけで、YouTubeの音源を掘り起こして、聴いたくらいだものなぁ。


そんな状況じゃ、ランク外もやむなしかもしれないけど、一方で『トラウト・マスク・レプリカ』は、ロックの多様性を語る上で欠かせない一枚だと思うのだ。


そりゃ、いわゆる「ロック・ファン」は、ほっといても聴くんだろうけど、圧倒的に多いのは「おっ、ランキングで60位か、ちょっと探して聴いてみようかね」って人だと思う。『史上最も偉大なアルバム』最新版は、結果的に、そういう人たちが『トラウト・マスク・レプリカ』とめぐりあうチャンスを奪ってしまった。これはとっても残念。



今回のお題、ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』2012改訂版40位のラヴ『フォーエヴァー・チェンジズ』も、最新版ではランク外へ去ってたりしてんじゃないかと、不安になった。


発売当時は、全米チャートで154位どまり。ヒットしたとはお世辞にも言えない。確かに「60年代ロックの名盤」として認知されているけど、いまだに愛聴しているのは『トラウト・マスク・レプリカ』を聴く人たちと同様、「好事家」と呼ばれる人なんじゃないか。


これは危ない。


『史上最も偉大なアルバム』最新版でのランクのアップ&ダウンを見るに、2020年の音楽と直結しているアルバムが強い。必然的にラップ/ヒップホップが強い。それ以外で評価されるためには、アメリカないしはイギリスのヒットチャートでしかるべき結果を残し、さらにセンセーションを巻き起こしたという歴史的価値が必要みたいだ。



『史上最も偉大なアルバム』最新版のWEBページをめくってみたところ、『フォーエヴァー・チェンジズ』は、100位以内には見つからず。やっぱりね・


さらにランクを下っていくと・・・・・・あった! 180位!! 140位ダウンだけど、上に挙げたジョン・レノンやボブ・ディラン、エルヴィス ・プレスリーのアルバムに比べるとかなりマシな扱いだった。



ちなみに、僕は、『フォーエヴァー・チェンジズ』の音源は持ってないんだけど、収録されている曲は、いままで繰り返し聴いてきた。なぜなら、1990年代に購入したCD2枚組の編集盤『ラヴ・ストーリー Love Story 1966 ~ 1972』にアルバム全曲が収録されていたから。


この編集盤は、デビューからラスト・アルバムまで6枚の作品からおいしいところをつまんで、しかもアルバム収録順にまとめ、間にシングル曲をはさみこむという構成。音の変遷はわかりやすいけど、安直といえば安直ですね。


『フォーエヴァー・チェンジズ』から全曲収録てのはありがたいんだけど、アナログA面収録曲がディスク1に、B面収録曲がディスク2に泣き別れで収められている。だから、CDで聴く場合は、ディスクを入れ替えないと通しでは聴けない。


これって、わざとかいな。



ラヴはサイケデリック・ロック・バンドと評されることが多い。それもそのはず。バンドのロゴ・マークはグンニャリした「サイケな」デザインだし、デビュー盤はモロにサイケ期のバーズみたいなサウンドだし、リーダー、アーサー・リーは「俺は黒人で最初のヒッピーだぜ」なんて発言したりしてるし。


でも、彼らの音楽のベースは、サイケではなくフォーク・ロックだ。もちろん、サイケはもちろん、ロック、カントリー、ソウルなどなど、いろんな音楽の要素が詰め込まれているけど、オーソドックスなグッド・メロディが持ち味なのだ。


セカンド・アルバムでもハープシコードなんかを使ってて、ソフト・ロックな一面をすでに垣間見せているけど、『フォーエヴァー・チェンジズ』ではストリングスを大々的にフィーチャーして、輪をかけてウエルメイドな仕上がり。


スパニッシュな風味をまぶした「アローン・アゲイン・オア Alone Again Or」と「クラーク・アンド・ヒルデール Maybe the People Would Be the Times or Between Clark and Hilldale」は、アルバムを代表する名曲。特に「クラーク・アンド・ヒルデール」が好きで、何回も繰り返し聴いている。


ギターのブライアン・マクリーン作でヴォーカルも担当した「オールド・マン Old Man」は、乾いたマラカスの音と繊細なストリングスの組み合わせがしみる優しい曲。「リヴ・アンド・レット・リヴ Live and Let Live」は、美しいハーモニーで彩られたフォーク・ロックで、ちょっとユーモラスなヴォーカルと、凝った構成がいい。



「アンドモアアゲイン Andmoreagain」「ザ・デイリー・プラネット The Daily Planet」は、アーサー・リー 以外のメンバーがクスリのやりすぎで使い物にならなかったんで、キャロル・ケイ、ハル・ブレインら名うてのスタジオ・ミュージシャンを呼び集めて録音されたそうな。ほぼ同じ顔ぶれのミュージシャンが、翌年に発表されるロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのファースト・アルバムに参加している。


ロジャー・ニコルス&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズが1980年代後半、「渋谷系」と呼ばれたこじゃれた音楽ムーヴメントを牽引した、小西康陽やフリッパーズ・ギターに支持されたことと、ラヴが、同じ時期に、エコー・アンド・ザ・バニーメン、ティアドロップ・エクスプローズ、ペイル・ファウンテンズ、アズテック・カメラといった、イギリスのネオサイケもしくはネオアコ・バンドに愛されたことは、きっとつながってるんだろうな。



じゃぁ、発売時に『フォーエヴァー・チェンジズ』がイギリスで評価されたかというと、全英チャートではランクインさえ叶わなかったわけだから、アメリカよりもイギリス、ヨーロッパでウケたってわけでもない。すなわち、このアルバムは、1967年に世界を包んでいた「サマー・オブ・ラヴ」な空気と決定的にズレていたということだ。



「サマー・オブ・ラヴ」は、アメリカ・サンフランシスを中心に、ヒッピーたちによって主導されたムーヴメント。LSDによって精神を解放した若者たちが連帯して、既成の価値観に囚われないラヴ & ピースなユートピアを築こうというのが主旨だ。


こんなのラリってないと思いつかないよね。


BGMは、LSDのトリップ感を増幅させるサイケデリックなロック。自称ヒッピー、アーサー・リー率いるラヴなんか、このムーヴメントには、うってつけに思えるんだけど、そうはうまくいかなかった。



『フォーエヴァー・チェンジズ』が受け入れられなかった理由として、2つ思いつく。


1つは、そのサウンド。サイケな風味も感じるんだけど、フォーキーなソフト・ロック色が強い。ドリーミーな手ざわりはあっても、ドラッグで酩酊する感じとは違う。内へ内へ篭る感じではなくて、外に広がっていく開放感があってそういうとこがいいんだけど、ドラッグやりながら聴くには物足りなかったんだろう。



2つ目は、そのメッセージ。各曲から立ち上ってくる孤独感、切迫感が、楽観的・理想主義的な「サマー・オブ・ラヴ」には、まったくそぐわない気がする。


上述した「アローン・アゲイン・オア」「クラーク・アンド・ヒルデール」は、メキシコのマリアッチ・スタイルのギターとホーンがフィーチャーされていることが特長だけど、のどかで明るい感じはゼロ。緊張感が張りつめていて、悲壮感さえ感じる。


とても「ラヴ & ピース」なんて雰囲気じゃないのだ。



見方を変えると、「サマー・オブ・ラヴ」の波に飲み込まれ消費されるような音楽じゃなかったことは、『フォーエヴァー・チェンジズ』が時代を超えた普遍性持った音楽だということを証明している。このアルバムの純粋な美しさを堪能するのに、当時の社会背景や、メンバーのパーソナルといった情報は邪魔なだけかもしれない。


BLMがアメリカはおろか全世界で取り沙汰される2020年に発表されたランキングで、アーサー・リーという黒人がつくりあげたにもかかわらず、あまり「黒く」ない『フォーエヴァー・チェンジズ』が評価を落とすことは、ポリティカル・コレクトネスの観点からも予想できたことだったりする。


でも、『フォーエヴァー・チェンジズ』は、「黒か白」かとか、「ロックかフォーク」かとか、「サイケかソフト・ロックか」とか、余計な情報はぜーーーーーんぶ取っ払って耳を澄ますべきアルバムだ。そうすれば、ランキングなんかにはとらわれない価値が見えてくると思う。



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★




長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。