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転がる石のように名盤100枚斬り 第62回#39 Please Please Me (1963) - THE BEATLES 『プリーズ・プリーズ・ミー』 - ザ・ビートルズ

転がる石のように名盤100枚斬り 第62回#39 Please Please Me (1963) - THE BEATLES  『プリーズ・プリーズ・ミー』 - ザ・ビートルズ

「ビートルズ・マニアは面倒くさい」と言ったのは誰だったか。


あ、栗善(敬称略)だ。



10月上旬、ある月曜日の夕方、晩ごはんをつくりながら聴いていたFMラジオから、そんなコメントが流れてきて、僕は思わず吹いた。確か「ビートルズの音源を買ったことがあるか」という話題だったと思う。


「いまさらどういうきっかけでビートルズを聴くのか? ビートルズよりも新しい音楽を追いかけたい」という栗善(敬称略)に、僕も「そやな。確かに最近ビートルズ聴いてないなぁ」なんて思っていたところ、続いて耳に入ったのは、ビートルズdisではなく、まさかのビートルズ・マニアdis


ちょうどその数日前に、作家だか評論家だか、名のある人が「ビートルズを好きなろうと思い、がんばって聴いたけど、よさがわからんかった」という主旨のことをTwitterでつぶやいていて、別によさがわからんでもいいやんと思っていた矢先だった。


このつぶやきの主の周囲にはビートルズ好きが多く、ビートルズの話で盛り上がる彼らの輪に加わりたくて、ビートルズを聴こうと思ったそうな。いつも疎外感を覚えてたんだろう。


どんな分野においても、「マニア」と呼ばれる人たちは、得てして独善的になりがちだけど、それも良し悪しだと思う。知り合いに鉄道マニアのおじさんがいるが、このおじさんはオープンな人なので、一緒に鉄道に乗ると、いろいろと教えてくれる。楽しい。


一方で、閉じた思考のマニアはタチが悪い。「こんなことも知らんの?」てな感じで冷ややかな視線を送ってきたりね。勝手にその世界でのヒエラルキーをつくって、下々を啓蒙しようとする。頼んでもいないのに。


Twitterでつぶやいていた作家だか評論家だか人のの周りにいるマニアは、クローズドな人たちだったんだろう。



栗善(敬称略)の言う「面倒くさい」ビートルズ・マニアもまさにクローズドな人たちで、「上から目線で何かと絡んでくる」「独善的で音楽の多様性を認めない」らしい。


確かに面倒だ。ウザいと言ってもいい。


ビートルズにあらずんば音楽にあらずという感じなんだろうなぁ。「ビートルズ原理主義者」だな。



ビートルズについては、僕もかなり聴き込んだ方だけど、幸いほかの誰かにビートルズ・ネタで絡んだり、講釈を垂れたことはないし、また、周りにそんなマニアもいなかった。でも、そういう人種が実在することはなんとなく想像できる。


だって、いまだにビートルズの音楽を毎週深掘りするラジオ番組(N●K FM)があるくらいだもんね。聴いたことはないけど。


さらに怖いことに、石川県金沢市には「ビートルズ大学」なんてのもあるのだ。金沢大学の「オープンアカデミー」っていうから、市民講座みたいなもんかな。


きっと、ビートルズの楽曲の新しい解釈とか、ごくひと握りの人にしか知られていないウンチクとか、歌詞に隠されたメッセージとか、ビートルズ・ソングの知られざるカヴァー・ヴァージョンとか、マニア以外には見向きもされないような情報を仕入れることができるんだろうなぁ。


かくして、「ビートルズ原理主義者」は増殖していくのだった。



アメリカに「ビートルズ大学」があるかどうかは知らないけれど、少なくともローリング・ストーン誌の編集部には少なからぬ数の「ビートルズ原理主義者」がいたと推察される。『史上最も偉大なアルバム』2003発表・2012改訂版で、10位以内に4枚もビートルズのアルバムがランクインしているという事態は尋常じゃない。きっと、やつらの仕業だ。


39位に、ビートルズのデビュー・アルバムがランクインしているのも、同様だろう。ビートルズのオリジナル・アルバムは、繰り返し聴いてきたけど、この『プリーズ・プリーズ・ミー』が、史上39位ってのは、過大評価もいいところだと思うぞ。



リリースは60年近く前。音が古臭いのは仕方ないにしても、当時のビートルズは、ロック・バンドとしても、アイドルとしても、アーティストとしても、中途半端なんだなぁ。だから、いまさらアルバムを通して聴く気にならない。


ただ、ビートルズがドサまわりに明け暮れるライヴ・バンドから脱皮する過渡期を刻み込んだ音源である点では、興味深く聴ける・・・・・・人もいるかもしれない。



まぁ、39位というランクは高すぎるけど、聴く価値がないかというとそんなことはないので、気を取り直して『プリーズ・プリーズ・ミー』を聴いてみましょう。


シングル既発曲以外の11曲を12時間で録音したというエピソードとか、ジョン・レノンの「ドサ回りしてた頃のビートルズのサウンドに近い」という発言とかが先に立って、まるで、このアルバムが一発録りで制作されたかのように言われることもあるけど、実際は1曲を除いて数テイク演奏しているし、もちろんオーヴァー・ダビングも施されている。


確かに収録曲は、ステージで繰り返し演奏した曲で、オーヴァー・ダビングと言っても現代の水準から見るとささやかなものなんで、ビートルズのライヴ・バンドとしての力量は十分に発揮されたアルバムではある。


それをまざまざと見せつけてくれるのが、アルバムの最後を飾る「ツイスト・アンド・シャウト Twist and Shout」だ。


ヴォーカルを担当したジョン・レノンは風邪気味で声が本調子じゃなかったうえに、収録日にほぼぶっ通しでレコーディングしたため、この曲の録音時には、喉が限界を迎えていた。アルバムに収録されているのは、最後の力を振り絞って演奏した2テイクのうちの1つめのテイクだ。これは正真正銘の一発録り、ノーダビング。


喉が張り裂けんばかりのジョンのヴォーカルからは、ロックンロールの刹那的な美しさを感じる。演奏もラフで勢いがある。ライヴの定番曲となったのも納得の仕上がりだ。


アメリカのR&Bバンドがオリジナルでアイズレー・ブラザーズもカヴァーしているけど、世界に広がったのはビートルズのヴァージョンだし、ビートルズ・クラシックの一つに数えてもいいだろう。



収録曲で、ほかにビートルズ・クラシックと言えるのは、アルバムのタイトル・チューン「プリーズ・プリーズ・ミー Please Please Me」。「カマンカマーン」という、ポップ・ミュージックでも一二を争うキャッチーなサビで、音楽雑誌のチャートで1位を獲得した(全英チャートでは2位らしい)。


「初期のビートルズは、歌詞も健全なので好感度が高い」なんて書いてあるブログを目にしたけど、「プリーズ・プリーズ・ミー」のサビは、「俺がお前を喜ばせたみたいに、俺を喜ばせてくれよ、お願い❤︎」というもので、明らかに性行為を暗示させるよなぁ、なんて思うのは、僕の心が汚れているからでしょうか? というか、「健全な」ロックンロールって、全然褒めてないな。



1曲目の「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア I Saw Her Standing There」は、彼らがエルヴィス・プレスリーの衣鉢を継ぐ資格があることを証明したロックンロールの傑作。ポール・マッカートニーがやたらめったらソロ・ライヴで演奏している。でも、じいさんが歌うよりも、若い頃のハリのあるシャウトの方がいいよね。



「ゼアズ・ア・プレイス There’s a Place」は、上に挙げた楽曲群ほどの知名度はないけど、佳曲と切り捨てるには惜しいほどの出来栄え。ハーモニカがリードするR&Bぽいフィーリングをたたえた曲で、聴いているうちに不思議なせつなさを覚えるメロディが秀逸。


ビートルズはこの曲によって凡百のロックンロール・バンドと一線を画したと言える。



ここまでに挙げたナンバーが、アルバム 『プリーズ・プリーズ・ミー』の最良の部分だ。


これ以外では、ジョージ・ハリソンが控えめにリード・ヴォーカルを担当した「ドゥー・ユー・ウォント・トゥ・ノウ・ア・シークレット Do You Want to Know a Secret」も(歌詞はうっとおしいけど)愛すべき小品。のちにフェアグラウンド・アトラクションがカヴァーした(出来はオリジナルよりこっちの方がいい)。


「チェインズ Chains」「ベイビー・イッツ・ユー Baby It’s You」なんかをカヴァーするあたりにはセンスを感じる。



耳を覆いたくなるのは、ロマンティックというよりも、砂糖菓子のような甘ったるさに胸焼けしそうになるやつ。


P.S. アイ・ラヴ・ユー P.S. I Love You」は、タイトルからして気色悪い。「追伸 愛してる」ですよ。甘い。甘すぎる。メロディの美しさはさすがだし、コーラスも効果的だけど、どうしても、女性ファンに媚びているように聴こえてしまう。


こういうとこが中途半端に「アイドル」なんだよ。



それ以上に始末が悪いのが、第二次大戦前にヒットしたスタンダード曲「蜜の味 Taste of Honey」。アレンジは西部劇の主題歌みたいだけど、元はミュージカル・ナンバーだそうだ。


ポール・マッカートニーお気に入りの曲で、ライヴでもたびたび演奏していたらしいけど、そのわけは「ロックンロールが嫌いなお客さんのため」だと。


ほら、「ロック・バンド」としても中途半端でしょ。


この曲は、プロデューサー、ジョージ・マーティンとマネージャー、ブライアン・エプスタインの意向で『プリーズ・プリーズ・ミー』に収録されたらしいけど、最初にポールが提案していたのは「ベサメ・ムーチョ」だもんね。「蜜の味」の方がややマシ。


この甘ったるいスタンダード趣味は、ポールのなかに根を張っていて、ビートルズ時代は、ジョン・レノンの手前もあってか、全体の中ではアクセント程度だったんだけど、ソロになってからは歯止めが効かなくなり、安直なバラードを量産してロック・ファンの嘲笑を浴びる結果となるのだった。


90年代以降はさすがに、甘ったるいだけの曲は書かなくなったけど、その反動か、『キス・オン・ザ・ボトム Kiss On the Bottom』(2012年)なる、ジャズのスタンダードのカヴァー集を出している。ポールは、こういうのずっとやりたかったんだろうなぁ。



さて、「デビュー・アルバムには、そのアーティストのすべてが詰まっている」(「処女作には、その作家の~」だったかもしれない)なんてことを聞いた気がするけど、『プリーズ・プリーズ・ミー』にビートルズのすべてが詰まっているなんてわけはなし。しかし、後に、よりしっかりとした輪郭を持つことになる「らしさ」(よくも悪くも)を聴きとることはできる。


でもね、そういう楽しみ方ができるのも、ある程度ビートルズの音楽を聴き込んでいることが前提だし。初心者におすすめできるアルバムではないのです。



ちなみに今年発表の『史上最も偉大なアルバム』最新版では、『プリーズ・プリーズ・ミー』はランク外に転落。


「ビートルズ原理主義者」は、ローリング・ストーン誌から駆逐されたのかもしれないね。




おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★




長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。