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転がる石のように名盤100枚斬り 第63回#37 Hotel California (1976) - THE EAGLES 『ホテル・カリフォルニア』 - イーグルス
昭和の若者は「ホテル・カリフォルニア」が大好きだった。
イーグルスの楽曲のなかで、もっとも知られているナンバーであり、今回のお題、イーグルスの最高傑作と名高いアルバムのタイトル・トラックでもある。
僕が小学校5、6年の頃、やたらとラジオではこの曲が流れていた。それも洋楽を聴かせる番組でかかるわけではなく、歌謡曲の合間にいきなり哀愁に満ちたギターのイントロが聴こえてくるのだ。今思えば、当時は、普段ロックに興味がない人たちも、この曲を愛聴していたんじゃないだろうか。
きっと、「ホテル・カリフォルニア」と名付けられたラブホテルが、全国に林立したはずだ。
そんなことをふと考えてググったところ、浅草は雷門の近くで今も一軒営業していた。ほかにも、ラブホテルじゃないだろうけど、フランス・パリとフィリピン・アンヘレスにもそんな名前のホテルがあるようだ。
さすがにカリフォルニアにはないんだな。
アルバム『ホテル・カリフォルニア』がリリースされた1976年は、奇しくも日本でカリフォルニア・ブームが巻き起こった年として記憶されている。それを先導したのは、イーグルスではなく、平凡社(現・マガジンハウス)の雑誌「POPEYE」だった。
1976年6月に発売された創刊号の特集はズバリ「カリフォルニア」。「UCLA」「サーフィン」「アメ車」などなどをキーワードに、アメリカ文化のポジティヴな側面を強調した世界観は、当時のおしゃれな若者たちに支持されたらしい。
僕の故郷である、筑豊の片田舎の書店にも「POPEYE」が並んだのかどうかは知らない。今とは比べものにならないほど、当時は雑誌が影響力にあるメディアだったので、我が町でも手に取った若者が若干名はいそう。
このカリフォルニア・ブームと「ホテル・カリフォルニア」のヒットが地続きかというと、そんなことはありえない。この曲を一回でも聴いたことがあれば、わかるはずだ。
この曲の世界では「カリフォルニアの青い空」なんて見ることはできない。筑豊の曇り空の方がお似合い。ギターの音色が湿度を高め、ラストの2本のギターが絡み合う頃には、雨が落ちてきてるんじゃないか。
ビーチ・ボーイズに代表される、カラッとしたアメリカン・ポップとは真逆。むしろ、湿り気のある歌謡曲のサウンドの方が近い。当時のトップ・アイドル、キャンディーズによるカヴァーをYouTubeで観てみるといい。違和感はまーったくない。昭和の若者が好んだのも納得だ。
要するに、当時の日本には、雑誌「POPEYE」が布教する「明るい」カリフォルニアとイーグルスが描き出す「くすんだ」カリフォルニアの2つが流通していたことになる。
しかし、それも束の間のことで、1980年代に入ると「明るい」カリフォルニアが日本を席巻。鼻垂れ中学生だった僕にもそのイメージは共有され、目の前に広がる田んぼには、曇り空がのしかかっているにもかかわらず、カリフォルニアの青い空に想いを馳せることになる。
そういうわけで、「くすんだ」カリフォルニアを象徴するナンバー「ホテル・カリフォルニア」は、僕も幼少の頃からよく耳にしていたけど、さほど心に響いたわけではない。
「ホテル・カリフォルニア」の歌詞には、「これほど分析されたポップソングはない」と言われるほど、謎めいたイメージが散りばめられているわけだけど、「(イーグルス自身も含む)ロック産業の退廃」「フロンティア・スピリットを喪失したアメリカ」などを歌ったという解釈が一般的だ。興味がある人は、Wikipediaで調べてみてください。
サウンド的にはギターがメインだけど、イントロの直後に聴こえてくるのは、レゲエのリズムで、ミクスチャー風味もある。仮タイトルが「メキシカン・レゲエ」だったらしいので、元はもっとレゲエに寄っていたのかも。
いずれにせよ、雑誌「POPEYE」が賞賛した単純明快なウエストコースト・ロックの世界ではないが、楽曲としてのクオリティは無茶苦茶高い。人によって好き嫌いはあったとしても、「ホテル・カリフォルニア」がアメリカン・ロックでも指折りの名曲だということは間違いないでしょう。
問題はアルバム『ホテル・カリフォルニア』が名盤かどうかということなんだよね。
アルバムのアタマから3曲はシングル・カットされている。タイトル曲は1977年に全米ナンバー・ワンを記録。2曲目「ニュー・キッド・イン・タウン New Kid in Town」はアルバムからのファースト・シングル。これも全米ナンバー・ワン。3曲目の「駆け足の人生 Life in the Fast Lane」は、ギターがカッコいいロックン・ロールで、チャートでは11位を記録している。
この3曲の印象が強過ぎて、残り6曲が印象に残らない。いや、一曲ずつ聴けば、粒揃いだって思うんだろうけど、アタマから聴いちゃうと、4曲目以降は、なんとなく流しちゃうんだよなぁ・・・・・・。
改めて、4曲目の「時は流れて」から聴いてみると、本当にいい曲が揃っている。歌も演奏もうまいし、洗練されている。ソツなし。
「時は流れて Wasted Time」はピアノが印象的な名バラードだし、J・D・サウザーも参加した「暗黙の日々 Victim of Love」は、イーグルスらしいロックな佳曲。
ラストの「ラスト・リゾート The Last Resort」に至っては、ドン・ヘンリーが「自分の最高傑作」とまで言っただけある。ループするメロディが美しい名曲。控えめかつ効果的なアレンジやアメリカを横断するという神話的な歌詞もいい。
しかし、聴き終わるとキレイさっぱり、忘れてしまうのだ。
これって、このアルバムがどうこうではなくて、健忘症の類い?・・・・・・とも思ったんだけど、昔っからこんな感じだったので、相性の問題だと思う。
このアルバムでは「ホテル・カリフォルニア」と「ラスト・リゾート」が語られがちだけど、僕が一番好きな曲は、ファースト・シングルの「ニュー・キッド・イン・タウン」だったりする。
収録曲のなかでは、もっともカントリー風味が強い、のんびりした曲調のポップスだ。
“ジョニー、遅れておいでよ/街の新顔だしね/みんな、キミに夢中だ/だから、彼らをガッカリさせちゃダメだよ”
グレン・フライが優しく歌いかける「街の新顔=ニュー・キッド」は、ダリル・ホール&ジョン・オーツのことらしい。作詞を手がけたグレン・フライ自らがそうコメントしているので、間違いないだろう。
ダリル・ホールとジョン・オーツは、アルバム『ホテル・カリフォルニア』がリリースされる前年、1975年にアメリカ東海岸からロサンジェルスに拠点を移し、アルバム『サラ・スマイル Daryl Hall & John Oates』をレコーディングしている。
それまでは、ブレイクしきれなかった二人だけど、シングル・カットした「サラ・スマイル Sara Smile」は全米4位の大ヒット。アルバムも全米17位まで上がっている。
問題は、アルバム『サラ・スマイル』のジャケ写だ。そこに映るのは、きれいにメイク・アップしたダリルとジョン。シャレのつもりだったようだけど、ダリルの美人ぶりとジョンのヒゲの効果もあり、またたく間に「ホール&オーツってゲイらしいやん」という噂がロサンジェルスに広まったという話。
それを軽やかなポップスに仕立て上げるグレン・フライ。性格悪過ぎて最高ですね。
ダリル・ホール&ジョン・オーツでこの曲をカヴァーしてないかと探してみたけど、未だ見つかっていない。二人が演奏しても、結構ハマると思うんだけどな。
「ニュー・キッド・イン・タウン」がお気に入りなのも、こんなエピソード込みっていうのが、不真面目な感じですが、アルバム『ホテル・カリフォルニア』は、きっと相性がよければ一生の愛聴盤になるアルバムでしょう。
でも、僕との相性はイマイチなので・・・・・・
おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★
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