音楽MUSIC
土曜日の夜に 第6回 Nicholas Krgovich 『In An Open Field』 Text by Masami Takashima
立春。2月に入り少しずつ季節が移ろう様を感じられるようになってきた。日中のやわらかい日差しとは裏腹に夜の冷え込みはまだまだ続く中、自宅にいる時間は長いので、暮らしの中で小さな発見がちょっとした楽しみのひとつになっている。秋頃に芽がついてきた自宅の鉢植えのアカシアは、今年の寒波にも突風にも動じず静かに静かに春の準備が進んでいる。水耕栽培のヒヤシンスも順調だし、植え替えたチューリップもやっと顔が見えてきた。
Mice Paradeのライブ、あれはいつのことだろう。突如記憶の引き出しの中身がぽんと飛び出してきた。断片を繋ぎあわせていくと無情なほどに月日の経過は早くて驚いてしまう。気候も季節もまったく思い出せないけれど、おそらく15年以上前のこと。福岡大名のROOMS内で行われたライブでは、ゲストボーカルのクリスティーン(múm)の柔らかい歌唱と、表情豊かでパワフルな演奏を繰り広げるアダム・ピアースがとても印象的だったMice Paradeやmúm周辺のアーティストを聴いていたら寒い国の音楽、冬のお気に入りのあの一枚がまた聴きたくなってきた。
カナダの鬼才ニコラス・ケルゴヴィッチの「In An Open Field」。冬の重さを変えてくれる名盤だ。多層的なメロディー、夜明けの合図のようなトロンボーンとサックス、Wurlitzer、シンセなどの鍵盤楽器が奏でる音は広い場所を連想させる。ジャズ、ソフトロックなども彷彿させるサウンドで、聴き始めるとやっぱりリピートしてしまう不思議な引力がある。
多くのミュージシャンがゲストとして参加していて、コーラスのラモーナ・ゴンザレス(ナイト・ジュエル)もその一人。クレジットを見た時に思わず、ん?と二度見した。ナイト・ジュエルは歌声や低音の存在感だけではなく、シンセの用い方、エフェクトの用い方などその斬新さに虜にされてからずっと追いかけているアーティストだ。(デイム・ファンクと制作したナイト・ファンクも最高だった。)そんな素敵なゲストも参加していて、どうりで好きな要素ばかりなはずだ、と納得したこのニコラスの・ケルゴヴィッチのアルバムは、聴く側の様々なものを受け入れてくれる芝生の上に座っているような心地よさがある。
自宅の春の花たちが咲く頃までもう少しこのアルバムと過ごしてみようと思う。

1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com
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