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長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第68回#33 Ramones (1976) - RAMONES 『ラモーンズの激情』 - ラモーンズ
いつものように晩ごはんの支度をしながらラジオを聴いていると、某パーソナリティが、イギリスのパンク・バンド、シェイムのニュー・アルバム『ドランク・タンク・ピンク Drunk Tank Pink』を激賞していた。
「こんなご時世に熱いロックン・ロールを演奏するなんて、なんて奇特な若者たちなんだろう!!」
確かに『ドランク・タンク・ピンク』は熱い。メンバーは、まだ、25歳くらいかな。1曲目から怒涛の勢いで疾走する全11曲。これがロックってやつだよ、これがパンクってやつだよ、なぁ、キミ。
そうなのだ。2021年に入って、個人的にめっきりロック不足。AppleMusic上で自分が編集したプレイリストを見ると、やたらとR&Bやラップ、エレクトロばかりが目に付く。
ジャズミン・サリヴァンにアーロ・パークス、セレステ、ブラック・コーヒー、スノーク、プーマ・ブルー、スロウタイ、ネイヴィ・ブルー、モーメント・ジューンなどなど・・・・・・。どうして、こんなおっちゃんになっちまったんだろね。
最近、ロックでヘビロテと言えば、フー・ファイターズくらいか。確かに新作『メディスン・アット・ミッドナイト Medicine at Midnight」は円熟味を感じさせる良盤なんだけど、正直言って、その分マイルドでなんか物足りない。ちょっとポップ過ぎないっすか?
ヴァン・ヘイレン風味というロックな触れ込みのアルバム『Van Weezer』が待たれていたウィーザーは、なぜか代わりに、美メロ満載、ノン・エレキ・ギターでストリングス炸裂の『OK ヒューマン OK Human』をリリース。これがまた、超傑作だから困ったもんだ。
そもそも、フー・ファイターズのデイヴ・クロールって僕と同じ歳だし(学年は1つ上)、ウィーザーのリヴァース・クオモは1つ年下。2人ともおっさんやん。彼らに”若き魂の咆哮”を期待するのが間違いだな。
あぁ、ロックン・ロールが足りない! 若き血潮が激るような熱い音楽が足りない!!
で、
そんな時にピッタリなのが、『ローリングストーン誌が選ぶ史上最も偉大なアルバム』2003発表・2012改訂版33位にランクインしている『ラモーンズの激情』なのです。言わずと知れた、パンクのオリジネイターに数えられるラモーンズのデビュー盤。
そういう意味で歴史的な名盤なんだけど、こんな上位に入っているとは意外だった。だって、このアルバム、アメリカでは全然売れなかったらしいじゃないの。ビルボードのアルバムチャート最高位が111位。発売後1年間に売れた枚数は、たった6000枚だったとも言われている。
それでも2014年には通算50万枚のセールスを達成して、ゴールド・ディスクに認定されているから、息長く後世のロック・バンドに影響を与えてきたってことなんだろう。
僕にとってもなじみ深いアルバムで、脳内再生できるくらいには聴き込んでいるけど、正直言って、これまでラモーンズのことを真剣に考えたことがなかった。
彼らについて知ってることといえば・・・・・・
◎ディスコ・ブームの真っ只中にもかかわらず、3コードのシンプルなロックン・ロールをひっさげてシーンに登場。
◎メンバーは「ラモーン兄弟」という設定。ファッションは、おそろいの革ジャン+細身のジーンズ。
◎デビュー曲は「電撃バップ」(邦題だと思ってたけど、実は原題直訳だった)というふざけたタイトル。
◎”クソガキをバットでぶん殴れ”とか”今マジでシンナー吸いてぇ”とか”オイラはナチの二等兵”とかロクでもないことばかり歌っている。
つまり、「クール&ボンクラ」。僕にとってのラモーンズは、このひと言に尽きる。
アルバムもデビュー盤しか聴いてない。
だから、「ラモーンズ」というバンド名が、ポール・マッカートニーがアマチュア時代に使っていた偽名「ポール・ラモーン」にならって付けられたことも、今回、ウィキペディアを読んで初めて知ったのだ。
つーか、ポールがそんな偽名を使っていたこと自体初めて知った。こんなトリビア知っているラモーンズの面々は、かなりのビートルズ・オタクじゃないの。
意外だ。
でも、彼らの音楽がビートルズを下敷きにしていたと考えると、その異様なまでのキャッチーさ、ポップさにもガテンがいく。
アルバム1曲目「電撃バップ Blitzkrieg Bop」は、冒頭の”Hey! Ho! Let’s Go!”というチャントがあまりにも有名な一曲だけど、メロディや全体的な構成もシンプルかつキャッチーで、一度聴けば間違いなく脳裏に刻み込まれる。
「ジュディ・イズ・ア・パンク Judy Is a Punk」のポップさはバズコックスに通じるものがあるし、ロマンチックな「アイ・ウォナ・ビー・ユア・ボーイフレンド I Wanna Be Your Boyfriend」の柔らかな手ざわりは、なんだかヨーロッパぽい。
「トゥモロウ・ザ・ワールド Today Your Love, Tomorrow the World」は、世界への違和感をただ吐き出しているようなラフな曲だけど、なんかクセになる。
どの曲も聴いている間はテンションが上がるんだけど、曲が終わると不思議とせつなさが残る。この感覚は、ほかのパンク・バンドにはない感じ。これもビートルズの影響のなせる技かね?
ホントにビートルズから影響を受けているのか、裏を取ろうとウエブを徘徊していると、メンバーがビートルズについて語った発言を集めたサイトに行き当たった。
ポール・マッカートニーの偽名から「ラモーンズ」と命名したのは、ベースのディー・ディー・ラモーンだけど、彼以外のメンバーも予想以上にビートルズ好きだったみたい。
そのなかに興味深いコメントを見つけた。ギターのジョニー・ラモーンがローリング・ストーン誌に語ったものらしい。アルバム・ジャケットの左端で、さりげなく中指を立ててる人ですね。
以下、意訳。
「デビューするまでに、無我夢中で練習したんだけど、俺たちの演奏は全然うまくならなかった。本当は、ビートルズやローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンみたいに演奏したかったんだ。でも、俺たちの腕前じゃ無理だった。結局、できる範囲で一生懸命プレイするしかなかったんだ」
自分たちの演奏テクニックがイマイチだってことにすごく自覚的&自虐的。
「俺たちには才能がなかった。だから、才能に溢れてるマッカートニーにあやかろうと思って、その偽名をバンド名に拝借したんだ」
彼らは売れるためならなんでもやるって覚悟だったらしいけど、なかなか芽が出なかった。
「そうこうしているうちに、気が付くと俺たちの音楽は”パンク”と呼ばれるようになってたんだ」
この一連の発言には、個人的にグッとくるものがあった。
つまりラモーンズは「パンクを発明した」わけではないわけだ。彼らには演奏テクニックが決定的に欠けていたので、必然的にその音楽は「パンクにならざるをえなかった」。
自分たちがヘタくそだってわかってるけど、でも、そんなことはお構いなし。カッコいいロックン・ロールを演奏したいから、ただひたすらにコードをかき鳴らす。
誰にどう思われても構わない。自分を信じ、自分のやりたいことをやる。
このアティチュードこそ「パンク」ってやつじゃないか。
ジョニーはこんなことも言っている。
「俺たちは世界一ビッグなバンドになれるって思ってたんだよ」
なんで?
デビュー盤がチャートのトップ100にも入れなかったのに、こう思えるのがすごい。
この純粋さと楽天性、自己肯定感に僕はヤラれた。
ラモーンズの面々もさすがにバカじゃないんで(ボンクラだけど)、「全然レコード売れないけど、俺らホントに大丈夫?」という不安を抱えていたはず。それを心の奥底に押し隠し、成功を目指して、20年間ガムシャラに演奏し続けた。
彼らのロックン・ロールにつきまとうせつなさは、ビートルズの影響云々ではなく、そのピュアネスが産んだものかもしれんなぁと、改めて30分弱のアルバムを聴いて思った。
このアルバムに邦題を付けるとしたら『ラモーンズの激情』なんかじゃなくて、『ラモーンズの純情』なんじゃないか。
お後がよろしいようで・・・・・・
おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★
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