土曜日の夜に 第39回 Text by Masami Takashima
秋になるとコーヒーを飲む機会がついつい増える。日差しが和らいできたこの時期は豆の香りがすごくいい。最近はフルーティーな香りのものをついつい選びがちだ。住んでる街の中心部に緑が豊かな公園があり、ちょっとした合間の時間があるとコーヒーを片手に時々立ち寄っている。つい先日公園の横を通るとほんの少しの間にすっかり木々が色づいていて季節が移りゆくスピード感に思わずはっとした。今年はリリースやツアーで目まぐるしく季節を楽しめないままに日々が過ぎていく中、植物たちがちゃんと時間を動かしてくれていてなんだかこういう時は我に返る。何か忘れものをしているかもしれない、そんな気がしてこの日は用事を済ませた後は少し佇んでいつもより早く帰宅した。
夏以降、遠征先で音楽の話をする機会も多かったのだが、行く先々で話題になっていたのはエレクトロニック・プロデューサー、Laurel Haloの新譜のことだった。移動中にスマホでは何度か聴いていて、その時はコンクリートやガラスに囲まれた街の不規則な雑踏とノイズの反響みたいなすごく都市的なものであると感じていた。ドローンミュージックでありジャズでもありかつモダンクラシカルな内容はカテゴライズ不可能でとても衝撃的だったけれど、あらためてちゃんと聴こうと体勢を整えいつものリスニング環境で聴いた。かつてドビュッシーや冨田勲を聴いた時に感じた滲むような幽玄さを纏いながらも、とても冷静にはっきりとした主張を持って音楽を調律していくようなそんな姿勢を感じた。Laurel Haloはピアノと向き合いながらこのアルバムを作ったとのことだが、これまでの電子音楽、ビートや歌のある作品からさまざまなものを削ぎ落とし、脱したその先に何を見ていたのだろう、そんなことを考えた。繰り返しレコードで聴きたい。
これから寒く乾いた季節が始まるとドローンやアンビエントは格別に心地よい。以前も少し触れたと思うけれど近年、新世代のUKエレクトロ・ミュージックを象徴する一人Loraine James(による別名義Whatever the Weather)をはじめ世界中でニューエイジやアンビエントに着目した作品のリリースが続いている。国内でも音楽作品はもちろん視聴覚体験を促すフェス、インスタレーションなど各地でアンビエント熱がゆらめいている。現在進行形の様々な音楽実験を体験しに、開催中のAmbient Kyoto 2023にはぜひ足を運びたいと思っている。
1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com