土曜日の夜に 第40回 Text by Masami Takashima
冷たい空気が頬にあたる。気がつけば街中ではクリスマスソングが流れ始め、年間ベストアルバムなどの話題も少しずつみかけるようになってきた。2023年も世界中の新旧問わずかっこいい作品にたくさん出会うことができたけれど、電子音を使った実験性のある作品を好んで聴くことが多かったように感じている。先月ここで紹介したLaurel Haloの「Atlas」は私にとっての今年の1枚になりそうだ。
九州在住時、何度かソロ名義で実験的な単独公演を企画したことがある。アクロス円形ホールではピアノを中心に電子音も用いたコンサート、また「ピアノと実験」というタイトルのシリーズも行った。クリエイティブな展示や企画を幅広く行っている福岡のアートスペーステトラで開催した「ピアノと実験」では(07年開催当時の記録によると)声や音、リズムをその場で重ね曲を作り上げていく工程を公開する試み、ループを用いた実験的な試みという二部構成で行なっていた。演奏内容の細かい部分についてはっきりとは思い出せないのだが、当時のアイデアの源流、実験性のようなものは現在に繋がっている。そういえばこの頃からDTMやシンセを取り入れた制作を始めたんだった。
「人生を狂わされるような衝撃的な音楽との出会いとは」…少し前に友人のミュージシャンとそんな話をした。まっさきに思い浮かんだのはKraftwerkだ。
私にとって電子音楽という存在を意識するきっかけはKraftwerkだと断言できる。60年代~70年代の音楽を好み聴いていた10代の頃に「Autobahn」を聴いたことが始まり。電子音楽をポップミュージックに取り入れた先駆者として、いまとなってはエレクトロニックミュージックのクラシックとなったサウンドはジャンルを超えて大きな影響を与えてきた。さまざまな形でリスペクトを表明したミュージシャンは数えきれない。(カバー、オマージュ、ときにはサンプリングという形で)私は「Autobahn」、「The Man Machine」、「Computer World」の3枚にとても影響を受けた。ポップな旋律、ボーコーダーを用いた無機質な音で発する言葉選び。ポップスやロックを主に聴いていた私に提示された電子音楽からつながるクラブミュージックへのひとつの扉でもあった。余談だが聴き始めた当初はアナログシンセサイザーという楽器があることさえもよく知らなかった。何年か後に実際のアナログシンセサイザーに触れる機会があったのだが、取り扱いの複雑さに「私には無理だ」と落胆した記憶が蘇る。
Kraftwerkのライブを見ることができたのは「WELT TOUR 2004」大阪公演。ユーモアと実験精神にあふれた演奏は今でも鮮明におぼえている。映像も前衛的でテクノロジーの可能性と彼らのメッセージが込められたとてもクリエイティブなものだった。「Machine」の ロゴが映し出されたときのフロアがひとつになった高揚感は今でも忘れられない。一生物の素晴らしい音楽体験は深く私の人生に刻まれている。あのライブからもう20年が経っていた。私は今日も私の音楽を作ろうと思う。
2020年から始まり約3年間続けてきた当コラムは今回の40回目をもって最終回となります。コロナ禍という状況の中、少しでも音楽のことを発信したくて書いてきました。これまで多くの方に読んでいただき心から感謝を申し上げます。
次は音の鳴る場所で、また土曜日の夜にお会いしましょう。
ありがとうございました!
1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com