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山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.44〜炎天下、バイクでツアーをしてみる

山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.44〜炎天下、バイクでツアーをしてみる

 このサイトの主宰者クリゼンが殺人的なこの真夏にルイスレザーの革ジャンを着て、W650にまたがってる写真を見て、どうしてこんなにアホなんだろうと思ったんだけれど、気持ちわかるんだよね。笑。


 ずいぶん前。どっかの真夏のフェスで、オレたちの前がギターウルフだった。炎天下、彼らは火が出るような演奏を繰り広げて、楽屋に戻ってきたとき。身体にへばりついた革ジャン革パンで彼らは息も絶え絶えになっていた。


 一瞬で好きになったね。誰になんと言われようとも、譲れないものがあるって素敵。


 わたくす。福島県いわき市と宮城県仙台市への2本のライヴ。バイクでいくことを企てた。しかも、かの国道6号線を北上しながら。去年までバイク、自転車、歩行者は通ることができなかった道。理由?それは自分で調べてみて。すべての日本人はあの道を一回は通った方がいいと思うから。


 ギターはどうするんだって?それは世界に誇る「宅急便」が時間通りに届けてくれるさ。投げたら、投げた方が壊れるくらいのツアーケースに入れておきゃ平気だよ。


 とにもかくにも。


 まずはナビを撤廃。デニス・ホッパーに憧れてるのにナビはないよ。前日に地図を頭に叩き込んで、走り終えたら、宿で今日のルートを再度地図で確認。いろんなことが身体に入ってくる。ナビに頼ると道、覚えないでしょ?やりたいことはそれじゃない、オレの場合はね。それ、前近代的で、とっても楽しい。頭の中がhead north。自分が北に向かってるのか、それとも南なのか。男子には必要な素養だと思うけどね。


 いままで何度も訪れたいわき。でもハコとホテルと焼き鳥屋しか知らなかったことに気づいたんだよね。バイクで行ってみると、町の成り立ちが見えてくる。


 だからステージで謝ったよ。こんなにいい町だって、オレは今日まで知らなかったって。


 気温、天候、渋滞、体調、技量との兼ね合いを十分に考えて、コース、時間選びは慎重にね。


 しかし、暑い。そして、熱い。バイクもオレも空冷ゆえ、ある程度の速度を出して、走行風があるうちはまだマシだけど、渋滞に巻き込まれると地獄絵図。渋滞のトンネルでトラックに挟まれてるときは、この世に地獄があるとするなら、ここだよって。笑。


 なにやってんだか、オレ。


 幾多の熱中症の危険を乗り越え、35〜37度の気温の中、渋滞にも巻き込まれ、ヘルメットとタンクで目玉焼きが焼けそうな状況下で集中力を切らすことなく帰ってきた。でも、いろんな過酷さを経験するたびに、オレはバイクがもっと好きになる。ヘンタイか。笑。道中、ほとんどバイクを見かけなかった(あたりまえ)けど、どっかのパーキングでオレとおんなじ荷物満載のハーレーおじさんと目があって、「アホですよね」って。いいね。一匹の人は。


 あの人とはともだちになれそう。てかね。いっとくけど、ハーレーでつるんだりするの、嫌いだからね。一人がいいの。独りだからいいんだよ。


 JAPANは多様性に富んでるんだって。30キロも走れば、微妙に言葉も食べ物も変わる。それがいいんだよ。新幹線は速すぎるんだって。オレにはこのくらいのスピードが合ってる。今や名古屋どころか、京都や大阪でも、ミュージシャンは日帰り。んなもん、どの町で演奏しても同じじゃん?


 そりゃバイクで行けば、時間はかかる。移動した3日間、約1000キロで21時間くらいは乗ってた。でも、それがいいんだよ。Running on empty。nothingじゃなくてempty。無じゃなく、空っぽ。空っぽのコップには自然と水が注がれる。それがいい。


 2本のライヴは苦行の末辿り着いたので、いつもと違っていた。そりゃそうだよ。その町で演奏する理由がものすごく明確だから。金や時間がかかっても、身体が動く限りはここは大事にしたいと思う。


 まだ地面が揺れてるけどね。ははは。


 クリゼン。せめてメッシュにしときんしゃい。涼しいよ。笑。



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山口洋
山口洋

山口洋 HIROSHI YAMAGUCHI

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ヴォーカリスト、ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、そしてランナーにして、スノーボーダー。

1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、福島県の相馬をピンポイントで応援し続けている。仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。
http://no-regrets.jp