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酒場SAKABA

ラーメン記者の謹製 快麺伝 Vol.7

ラーメン記者の謹製 快麺伝 Vol.7

京都は歴史の街にふさわしく素晴らしい老舗酒場もあります。今回紹介する「赤垣屋」は、鴨川の沿いの先斗町よりちょっと北の対岸に店を構えています。  



目印は、壁面に取り付けられたネオン管。店名が赤く、妖しく浮かび上がるさまは老舗然とはしていません。ただ、近づくと引き戸が開けっ放しで中が覗けました。目に飛び込んできたのは、なんとも言えない趣のあるカウンター。こりゃ、女房、子供を質に入れてでもINです。 


間口は狭いが、中に入ると奥行きがある。京都の町家らしい造り。隅っこに一つだけ空いていたカウンター席に通されました。他にも小あがり、二階もあるようですが、やはりカウンターですよね。周りを見渡すと、カウンターはひとり客がほとんど。みなさんいい顔しながらお酒を舐めていました。 


座って間髪入れずに瓶ビールを注文しました。グラスと瓶を持ってきた若旦那が一杯目はお酌してくれます。江戸のべらんめえ口調の接客も好きですが、こんな対応も新鮮でいいっすね。 


この日の京都は真夏日。店内空調はなし。引き戸が開いていたのはそのためでした。ぐびりとビールで喉を鳴らします。蒸し暑さに冷たいビールが心地よいです。 



まずしめさばを頼みました。注文を受けてから、冷蔵庫から半身を取り出し、包丁を入れる。一つ一つが丁寧ですね。 酢が効いていて、さっぱりしながら脂も乗る。なかなかの味わいでした。 


続いて参りましたのはニシンとナスの冷製煮です。これがまた美味。やっぱ京都はニシンですね。暑い外気と冷たい煮物とくれば熱燗でしょ、ということでお酒(銘柄は名誉冠)も注文。若旦那(勝手にそう思い込んでます)は、丁寧に確認ながら温め、出来上がるとこれまたお猪口に一杯目のお酌をしてくれます。 



蒸し暑さ、ビール、お燗、ニシンと、さながらサウナの温冷浴のようになってきたので、さらにおでんも注文。だしもスッキリしていてお酒も進みます。熱々のおでんには、熱燗がいいともう一合追加 。温と冷の繰り返しに酔いもまわっていくのでした。


学生風の男性、30前後の女性、私と同世代のおっさんから諸先輩方まで…。小一時間の滞在で、性別、年齢さまざまな客が腰を下ろし、お酒を楽しんでいました。ネット情報によれば創業は昭和9年。時代にかかわらず幅広い世代の左党を惹きつけるのは味はもちろん、従業員も含めた店の佇まいなのでしょう。


と、店を出ると悪い癖で〆のラーメン店を探してしました。


京都は、ドロドロの鶏スープの「天下一品」の発祥地であるなど、鶏白湯が人気の土地柄。なかでも超濃厚で有名なのが一乗寺にある「極鶏」です。向かってみると、夜も遅いというのに並びが出るほどの盛況ぶり。程なく着席し、一番濃厚な「極だく」を頼みました。



しばし待って着丼すると見ただけで濃厚さがわかります。レンゲでスープを、というかスープと呼んでいいかわからない液体と固体の間のような状態のものをひとすすり。濃厚です。エグミ、くさみはないのですが、口の中に「鶏がきた」って感じ。なんでも鶏スープに鶏肉まで混ぜ込んでいるそうで、これは未知の領域でした。麺を食べるとスープも絡まり、食べ終わる頃にはほとんどなくなっていました。


飲んだ〆にはちょっと重い。食事としての一杯って感じなのかなー、などど考えている間にも次から次に客が来る。そのほとんどが若者。うらやましいなーと思いながら店を後にしました。


派手さはなく自然な佇まいで人気の老舗があれば、唯一無二のメニューで人気を集める麺屋がある。そんな京都の懐の深さを知った夜でした。


ラーメン記者、九州をすする!小川祥平著

小川 祥平
小川 祥平

小川 祥平 SHOHEY OGAWA

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1977年生まれ。ラーメン、うどん、カレー、酒場が好物。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。フリーペーパー「ぐらんざ」で「福岡麺人生」を連載中。KBCラジオ「小林徹夫のアサデス。ラジオ」内コーナーで月1回ラーメンを語る。