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酒場SAKABA

ラーメン記者の謹製 快麺伝 Vol.9

ラーメン記者の謹製 快麺伝 Vol.9

7、8年前でしょうか、鹿児島の繁華街の名居酒屋「味乃さつき」で呑んでいると女将さんが嘆いていました。「県外のお客さんが減りました」と。


聞けば理由は単純で、九州新幹線の全線開通です。特に減ったのは出張客。それまで鹿児島出張といえば泊まりがけが当たり前だったのが、今は博多から最速1時間19分で、日帰りが普通になったからです。


ぼく自身もそう。今は朝早いとか、用事が何件かあるとか以外は日帰りになっちゃいました。でもよくよく調べてみると、終電は午後10時19分。繁華街から鹿児島中央駅の移動に余裕を持ったとしても9時50分までは飲めそうです。


そんなこともあり、先日「菜々かまど」に行ってまいりました。場所は山之口町という繁華街のど真ん中の裏路地にあります。


開店直後に向かったため先客はなし。とりあえずの瓶ビールと刺し盛りです。客はぼく一人。しかも、こぢんまりとしたカウンターで大将と向き合うとなると「一人飲みニスト」としての真価が問われるわけですよ。



まずは文庫本(で逃げよう)と思いきや、行きの新幹線で読み終わっていたのでした。次は、溜まっている原稿を書こうとスマホを取り出します。ただ、これはいつものことですが、瓶ビールを飲み終える頃(10分~15分)までしか続かないんですね。


この日も、瓶ビールの最後の一滴をコップに注ぐ頃には、仕事を諦めてスマホをポケットにしまいました。そして焼酎(やっぱ鹿児島ですから)とつぶ貝を注文。さらにメニューを見ていると「とび魚のつけ揚げ」なるものが目に入りました。そこで初めて大将と会話し、それが「薩摩揚げ」のことだと教えてもらい、追加で頼みます。



このつけ揚げがまた絶品でした。その場ですり身団子を作って揚げるので、提供には時間がかかります。つぶ貝に楊枝を刺して、くるくる回しながら身を取って、焼酎で流し込んで、をくり返しながら15分ほど待ったでしょうか。「熱いので気をつけて」と大将がサーブしてくれます。たしかに一口頂くと熱々。ただ、練りたて、揚げたてでとび魚の風味、食感が抜群でした。


「うまい、うまい!」とつけ揚げをつつきつつ、焼酎をんでいると、「これ、ゴーヤの浅漬けです」とのお心遣い。南の方のゴーヤって味があって美味しいんですよね。「これもうまいっす!」とお礼をいい、焼酎2合ほどを飲み終えたところでお勘定です。いやー、料理も、雰囲気も良い店です。別にどこから来たとか、世間話とかをするわけではない。かといってほうっておくわけでもない。軟弱「一人飲みニスト」にとって、絶妙な距離感が素敵でした。


さて、ほろ酔い加減で〆の一杯までやってしまいましょう。この界隈では、あっさり味の老舗「のり一」とか、ロシア料理屋なのにあさりラーメンを出す「凡亭」とかが思い浮かびます。それらもオススメですが、最近気に入っているのが天文館近くの「功夫 蘭州牛肉麺」(夜は午後9時くらいからですが、ランチもやっています)です。


中国内陸部発祥で近年日本でも急速に広がっている麺料理の店です。


漢方を使った牛骨と鶏がら?スープ麺も捨てがたいんですが、今回は絶品の油そばを注文です。



やはりここは手延べ麺がすごい! 注文を受けてから、生地をこね出し、あれよあれよと麺の本数が増えていく。平麺も細麺、太麺も自由自在、厨房を見ているだけで楽しいです。油そばに合わせるのは平麺です。油で焦がした唐辛子たれのうまみと絡ませつつ、麺の食感、風味を味わい、一気に完食です。


店を出たのが9時半ごろ。鹿児島中央駅に戻って、新幹線に乗り込みました。一度電車に乗ってしまうと「さあもう一軒」とは行かないもので、おとなしく帰宅しました。福岡で深酒するより、健康的なのでは?




ラーメン記者、九州をすする!小川祥平著

小川 祥平
小川 祥平

小川 祥平 SHOHEY OGAWA

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1977年生まれ。ラーメン、うどん、カレー、酒場が好物。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。フリーペーパー「ぐらんざ」で「福岡麺人生」を連載中。KBCラジオ「小林徹夫のアサデス。ラジオ」内コーナーで月1回ラーメンを語る。