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酒場SAKABA

美女に酔う「はかた勝手に恋酒場」 Vol.2

美女に酔う「はかた勝手に恋酒場」 Vol.2

江口カン&くりしんの「はかたセンベロブラザーズ」による福岡・博多大衆酒場放浪紀。オヤジふたりが店の「味」と「魅力」を肴に酔いちくれる。そんなふたりだが、酒を酌み交わせばいつも必ず美女に出逢うという。果たして今夜は??♡

 

 

第2回 緑のひとくち餃子を楽しむ女

         「王餃子」(博多区中洲)

 

 

「カンさ~ん、今日もありがとう。またねぇ」

「おう、わかった、わかった、また週末会いにくるけん」

 

丸源36から中洲交番の前まで来て、ふぅーっとため息を漏らす。今日はくりしん抜きの中洲パトロールだった。結局、オープン~ラストの貢ぎぶり。実は今日とは言わず、ここ数カ月はずっと抜け駆けしている。行先は、そう、なっちゃんのいる店「やんちゃな子猫」だ。

酒一番で出会って以来、すっかりなっちゃんに入れ込んでしまっている自分を反省しながらも江口カンはすかさず彼女にラインでメッセージを送ろうとスマホをジーンズの前ポケットから取り出した。指紋認証で画面を立ち上げると、何件か新しいメッセージが届いている。送り主を気にせずトップのメッセージを開けた。

 

「いま中洲に来っちゃけど今日はどこね?」

 

くりしんからだ。3分前に届いている。時刻は”てっぺん”をずいぶんと回っている。まあ、人生はタイミングが命だ。落ち合う場所を返信をした。

 

指定した場所は昭和39年創業の「王餃子」だ。中洲エリアの代表的な「シメの店」としても知られている中華料理店だ。入口は常にオープンで奥行きがある。

 

「ああ、カンさん、よう来てくださいました。いつもありがとうございます」

 

いつも元気に店に立つオーナー夫人。いつもわがままを聞いてもらっている江口カンは恐縮する。店はほぼ満席状態だ。オープンキッチンがより活気を生んでいる。客層はカップルもいれば、サラリーマンの団体、ひとり飲みの男性もチラホラ。カウンターの奥に今日も緑シャツのくりしんを見つける。

 

江口:あ、くりしん、早かったねぇ。

くりしん:飲むことしか、やることなかけんね。

江:生ビールとギョーザでよか?

く:うんうん、あっ、ちょっと待って。目玉焼きが欲しか。

江:マジで? 20年ぐらいここに通っとうけど一度も食べたことないわぁ。

く:なんば言いようとね、食堂といったらハムエッグ、中華食堂といえば目玉焼きやろうもん。

江:うん、わかったけん、注文するけん。

 

まずは「生ビール」(550円)がやってきた。ジョッキが汗をかいている。キンキンに冷えている証拠だ。ここの名物餃子は「緑のひとくち餃子」(1人前500円)という。台湾出身の王さんから直伝・秘伝のレシピを創業当時から守り抜いている。細かく刻んだ大量のネギとニラを自家製皮で包む。焼くと野菜の緑色が透けて見えるので、緑の、なのだろう。カボス・だいだい果汁入りのツケダレもその人気をあと押ししている。餃子よりも先に「目玉焼き」(450円)が届く。卵はきちんと2個、スタンダードな目玉焼きだ。


すると江口カンは皿を手に取り、傾けて揺さぶりだしたのだ。

 

江:どうや、くりしん、ここの目玉はプルプルしとる。ほら、どこの目玉焼きよりもプルプルしとろうが。

く:はぁ? いきなりどうしたとや。リアクションに困ろうが。

江:何や、マジメぶってから。 黄身がプルプルしとろうが、プルプル。なっちゃんの胸の谷間ごたろうが。

く:あー、そげんたいね。今日はひとりで「やんちゃな子猫」に行ったったい。まあ、よかけどくさ。元気にしとったね、なっちゃんは。

江:まあね、あの娘は元気がウリやけんね。オレくさ、若いときにくさ、キャバ嬢に入れあげとった時期があったったい。ラストの客として見送られて、満たされない気持ちを埋めるためにこの店に顔を出すのがルーティンになっとった。

く:ほう、てことは、いまは、なっちゃんに入れあげとうってことたいね。

江:そうたい。

く:実はオレもたい。内緒で通いよる。いや、正確には通いよった、やね。

江:通いよった? やめたとや?

く:そげんたい。なっちゃん、結婚するってくさ、来月。

江:ウソやん、オレには何も……ただ、最近、新しい餃子の食べ方にハマっとるって……。

 

「ぼくはシロミよりもキミのことが大好きなんだ」とか”たまごダジャレ”を言い合いながら箸先でプルプルをツンツンしてみたりと、目玉焼きを持て余してしまってるオヤジふたり。その目の前に「緑のひとくち餃子」が2人前届く。


焼き目はバッチリ。香ばしい湯気が立ちのぼる。とにかくうまそうだ。江口カンは小皿に酢をナミナミと注いだ。さらにテーブルの上にある大きな業務用コショウのプラスチックケースを手に取り、逆さにした後、ポンポンと底をたたき出したのだ。


江:コレたい、くりしん、餃子は酢とコショウで食べるのが流行っとうらしいじぇ。

く:なっちゃんから聞いたとや。流行っとうのは東京かいな、いや横浜中華街かもしれん。

江:まぁ、論より証拠たい。いや、百聞は”一食”にしかず、やね。

く:なんばうまいこと言いようとや。

江:うんまっ。何個でもいけそうやん。

く:なっちゃんも将来のダンナさんと何個も食べようっちゃろうなぁ……。

江:やなぁ……。

 

ひとりの女の結婚話にショックで打ちひしがれるセンベロブラザーズ。ピュアと言えばピュア。そこまでテンションを下げられるオヤジたちも珍しい。酒のおかわりのついでに餃子をもう1人前追加し、さらに「パラパラ焼きめし」(780円)もオーダーした。

気が付けば時刻は午前1時半になろうとしている。3組のサラリーマン団体客が帰ったせいか、キッチンの鍋で食材が炒められる音が際立つようになった。やはりこのシズル感こそ中華料理の醍醐味だろう。

 

「いらっしゃいませ~」

 

スタッフの声が響いた。入ってきたのは大きな花柄のワンピースにパステルカラーのロングカーデガンを羽織っている。黄色いヒールが差し色だ。彼女はセンベロブラザーズと4つ空けてカウンター席に座った。


 

「今日も瓶の一番搾りと餃子を2人前で~」

「はいよー」

 

30代半ばだろうか。この時間にひとりでこの店にやってくるということはおそらく夜の蝶だろう。ショートカットがよく似合う。強いて言うならば25年前の樋口可南子だ。その醸しだされる雰囲気にすっかり飲み込まれているセンベロブラザーズ。そこに注文していた餃子と焼きめしが届いた。


彼女にもちょうどビールが。気がつくのがひと足遅かった。瓶をもった男性スタッフが彼女のコップに注いでいる。

 

「ケイコさん、餃子、もう少しお待ちください」

「は~い♡」

 

この瞬間以外にチャンスはない。センベロブラザーズはアイコンタクトをしたあとに餃子を彼女の前にするりと差し出した。


江:オレら2回目だから。

く:そう、2回目。だから、召し上がれ。

ケイコ:えっ? いいんですかぁ?

江&く:ヨカーヨカッ!

ケ:じゃあ、遠慮なく。

 

彼女は何のためらいもなく、小皿に酢を注ぎ、そのあとに”コショウポンポン”の儀式を執り行ったのだ。

 

江:うわっ、酢にコショウ派ですか。

ケ:うん。そうよ。

く:ほら、オレらも。

ケ:うわぁ、気が合うやーん。私、ケイコ。この近くでカラオケスナックのママをやってるの。オハコはキョンキョンの「渚のはいから人魚」か、百恵ちゃんの「さよならの向こう側」ね。

く:わぉ! どまんなか。

江:気に入ったばい、よかったら、焼きめしも食べんね。

ケ:どうも♡

 

お互いの簡単な自己紹介と他愛のない話をする3人。

 

 「はい、餃子、おまちどうさまぁ!」

 「あ、ごめーん。この餃子、カブリにしてもらっていい?」

 「はいよ~」

 

江:あれ?もう帰えるとな?

ケ:ごめん、まだ締め作業が残ってて。

く:えーっ、ざんねーん。

ケ:ウソたい。さぁ、私の店で一緒に朝まで歌うば~い♪

 

3人分の会計をワリカンで済ますブラザーズ。はやる気持ちを押さえながらも外で待つケイコの立ち姿をチラチラ見る。

 

江:くりしん、よかったろうが?

く:何がね?

江:酢とコショウで食べて。

く:そうたい。そして、餃子作戦はけっこう効くばい。

江:そやな。で、次の作戦はどげんするや?

 

 

店舗情報

 

王餃子

福岡市博多区中洲2-5-9

営業時間 1800~翌300(日祝~翌100) 

092-291-2249

休み 不定


美女に酔う「はかた勝手に恋酒場」Vol.3

はかたセンベロブラザーズ
はかたセンベロブラザーズ

はかたセンベロブラザーズ KAN EGUCHI & KURISHIN

江口カン(兄)&くりしん(弟)。福岡生まれ福岡育ちのオヤジふたり。福岡・博多の大衆酒場放浪で意気投合。晩酌は欠かさないが寝る前に必ず肝臓に「おやすみ。今日もありがとう」という労いの言葉と優しくなでるボディタッチを忘れない。