Bigmouth WEB MAGAZINE

酒場SAKABA

ラーメン記者の謹製 快麺伝 Vol.3

ラーメン記者の謹製 快麺伝 Vol.3

「おすすめのラーメン屋あります?」


出張などで県外から来た人から聞かれるこの質問が実はとても困る。


「七隈の七福亭たい! 語呂も良かろうが、連れて行っちゃる!」と言える関係でもないことがほとんどだし…。


「地下鉄で別府まで行って、あっ、別府って書くけど、ベップじゃなくて、ベフですからね。そのベフから西方向のバスに乗って、荒江四角で降りてください。福岡のバスは降りるの前ですよ、言い忘れたけど乗るのは後ろです。で、角を佐賀方面に曲がってすぐに『ラーメン屋游』って言う店があるんですよ。そこ、豚骨も絶品ですけど、醤油豚骨とかもうまくて、そう限定メニューをやっていて、それがいちいち美味しくて」。たぶんたどり着けないでしょ?


出張や観光はみんな飛行機か新幹線で来ているから、要は「天神か博多駅あたりでのいい店」を知りたいのだろうけど、そのエリアって非常に難しいんです。


家賃高騰で個人店は出店が難しくなっているし、代替わりなどで多くの老舗も店を閉じている。もちろん有名チェーン店はあるが、関東、関西でも食べられる。せっかく福岡に来たからには、福岡でしか食べられないものを薦めたいじゃないですか。


そんなこんなで、冒頭の質問を浴びた時に最近答えているのが、ここ「長浜御殿 住吉店」なのです。


といっても、今食べログを見たら博多駅から992メートル! 不動産屋的に言えば徒歩12分。うーん、微妙だけどまあいいや。都会の人って歩くから。


知らない土地に行って、地元の人が多く来る店って魅力的でしょ。御殿はまさにそんな感じ。いいように考えれば、徒歩12分っていうのはそういうものと、そうではないものとの分水嶺じゃないかと思ったりする。


昼から夜中まで開いている御殿に行くのは殆どが夜。先日も夜に行ってきました。




「とりあえず」の王道は瓶ビールと餃子、豚足です。


すぐに焼きあがる餃子は小ぶりで、もちもち感と香ばしさが共存。もちろんビールが進み、最後のコップ一杯を注いだところで、日本酒を熱燗で注文します。




グラスになみなみ注がれ、これでもかと受け升に溢れるさまを恍惚と眺めてる頃には豚足様がやってきます。




こちらの豚足がまた絶品なんです。食べやすいように刻んでいるため、見た目はイマイチだけど、ラーメンスープと一緒に湯がいたためか味もしっかり。そしてパリッと焼かれていて食感もいいのです。これだけで日本酒飲み干して、もう一杯おかわり。


口の中が肉々しくなりました? はい、おでんがありますよ。ダイコン、厚揚げとどれもつゆがよくしみて美味しいですよ。


県外の方たち、この店の小ネタにも食いつきます。


昭和46年に長浜の屋台街で創業。現在、市内に数店舗あり、焼肉御殿なる焼肉屋も営んでいるとか。


店内に松山千春のポスターはあるのは社長と仲がいいからとか。


阪急ブレーブスの大熊忠義選手が贔屓にしてくれた縁で、ライオンズやホークスファンが多い福岡なのに一貫して阪急を応援してきたとか。


大熊選手の背番号12にあやかって、オリックスの帽子をかぶっていたらラーメン120円で食べられるとか。


でもそれ小学生だけだからかぶっていかないようにとか…。


話がそれましたが、おでんの続きです。


暑くなる季節に、熱燗で、熱いおでんを流し込むのって大好物なんですが、酔いも回りますよねぇ。


大根、厚揚げをつついているうちに腹も満たされてきましてお勘定です。二千円出してお釣りがきました。


そうそう、ひとつだけ県外の方には伝えないことがありました。


ぼくが御殿でラーメンにたどり着くのは10回に1、2回くらいです。




ラーメン記者、九州をすする! 小川祥平著

小川 祥平
小川 祥平

小川 祥平 SHOHEY OGAWA

facebook instagram

1977年生まれ。ラーメン、うどん、カレー、酒場が好物。著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。フリーペーパー「ぐらんざ」で「福岡麺人生」を連載中。KBCラジオ「小林徹夫のアサデス。ラジオ」内コーナーで月1回ラーメンを語る。