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酒場SAKABA

山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.17〜なくなってほしくないもの

山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.17〜なくなってほしくないもの

子供の頃、新天町のロイヤルに連れていってもらうのがハレの日の儀式だった。


 確かにロイヤルホストの前身ではあるけれど、あの頃の「ロイヤル」は響きが違ってたんだわ。「ロイヤルに連れていってあげるから、着替えなさい」って親に言わせるほどの風格があってね。子供はランチョンマットをお土産に持って帰ることを許されていて。しばらくは晩飯のときに使ってたな、嬉しくて。


 同じように「ツンドラ」では行ったことのないロシア(当時はソ連、か)に想いを馳せたよ。ボルシチにピロシキ、あとなんだっけ、スープカップの上に焼いたパンが乗っかってるやつ。美味かったなぁ。そして、なんと言ってもマトリョーシカ。ガールフレンドをツンドラに連れていけるようになったとき、オレも大人になったなぁ、って思ったもんだよ。数年前に出張で福岡に行ったともだちが、ツンドラからお土産買ってきてくれて、嬉しすぎて涙でたよ。あの味だったから。


 「かしいかえん」。通った中学がかしいかえんの側にあってね。青春はなにもかも、かしかえんとともにある。小学生のとき、ウルトラマンショーを見に行って、テントの下でウルトラマンが暑さで半分脱いで「あちー」って言ってたの、衝撃だったよ。ウルトラマンは人間だったんだよ。西鉄ライオンズが練習してた香椎球場も隣接されててね。オレたちデビュー盤はわざわざ福岡に帰ってきて、かしいかえんで撮ったさ。忘れないためにね。ここから出てきたんだってこと。


 ツンドラとかしいかえんがなくなるって聞いて。鼻の奥がつーんとした。コロナで行くことも叶わない。仕方ないけど、ほんとうに哀しい。


 故郷を出て行った者が云えることじゃないんだけどね。それでもなくなって欲しくないものはあるんだ。


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博多今昔のブルース Vol.18〜夢の続き、旅の途中

山口洋
山口洋

山口洋 HIROSHI YAMAGUCHI

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ヴォーカリスト、ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、そしてランナーにして、スノーボーダー。

1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、福島県の相馬をピンポイントで応援し続けている。仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。
http://no-regrets.jp