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長谷川和芳 | その映画、星いくつ?第9回 2023年10月『ザ・クリエイター/創造者』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

長谷川和芳 | その映画、星いくつ?第9回 2023年10月『ザ・クリエイター/創造者』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。


10月になって過ごしやすくなったなぁなんて言っていたら、蚊に刺された。夏に蚊がまったく姿を見せなかったのは、暑すぎたからか。


確かに、涼しくなったとは言っても、気温25℃越えの日もあったし、蚊が張り切っちゃう気持ちもわからなくはない。こうなると「やがて日本の四季はなくなって、暑い季節と寒い季節の二季になる」って説もあながちバカにできない。


異常気象にとどまらず、世界を見渡すと、なんだか末世感が漂ってきた今日この頃。


ウクライナとロシアの紛争の出口が見えない一方で、イスラム原理主義の武装勢力、ハマスがテロを仕掛けて、イスラエルと戦争をおっ始めてしまった。


イスラエルはテロに対抗して、パレスチナ・ガザ地区を空爆。さらには経済封鎖を実施し、食糧はおろか水や医療品も不足。子供も含めた一般市民がバタバタと命を落としている。10月25日までにガザ地区では5791人が亡くなって、そのうちの2360人は子供だって。


血で血を洗う、まさにこの世の地獄。末世感MAX


ウクライナ紛争は、いろんな言い分はあったとしても、明らかに軍事侵攻を仕掛けたロシアが悪い。でも、パレスチナとイスラエルの問題は、テロを仕掛けたハマスが最悪なのは当然だけど、ハマス=パレスチナというわけでもない。それに、ハマスがテロに至るまでの歴史的な経緯を振り返ると、イスラエルを支持する気にもならない。


さらに、イスラエルによる報復攻撃は明らかに一般市民の殲滅を目的としていて、国際法に違反するという指摘もある。アメリカ、イギリスをはじめ、西側先進国政府はハマスをテロ組織呼ばわりして、イスラエルの肩を持ってるけど、そんな簡単なもんじゃないだろう。


こんなアッタマ痛い状況で話題になったのが、映画『ナイトクローラー』『ヴェノム』『サウンド・オブ・メタル~聞こえると言うこと~』などで知られる俳優、リズ・アーメッドの発言。





評価が高い『サウンド・オブ・メタル~』・・・・・・実は観てない。


リズ・アーメッド曰く「2つの異なる立場ってのがあって、それがイスラエルとパレスチナとの、この状況につながったって言われるじゃん。でも、僕に言わせれば支持すべきは立場は1つ。人道主義でしょ」


100%同意。支持すべきはイスラエルでもなくパレスチナでもない。人間の命を尊重する人間性、ヒューマニティなんだよね。


ちなみに、リズ・アーメッドはイスラム教徒だそうな。それでも、ハマスを擁護することはしない。ただ、「命を救え」と言っている。


アメリカではエンタメ業界が、バイデン大統領にガザ地区での停戦を呼びかける声明を発表した。もちろん、リズ・アーメッドもホアヒン・フェニックスやケイト・ブランシェットとともに名を連ねている。


また、時間を追うごとにイスラエルに対する非難の声は高まっていて、世界各地でイスラエルに自制を求めるデモが行われている。実は、イスラエル国内でもガザ地区への空爆に対し、ネタニヤフ首相の辞任を求めるデモが巻き起こった。


もう、どっちが良い悪いじゃなくて、Stop the Warと人々が声を上げ始めたのだ。


誰だって、死ぬのも殺すのもまっぴらごめんなのだ。「お国のために命を差し出せ」とか冗談じゃない。イスラエルの人たちでさえ、そう言っとる。


宗教とか民族とか政府とか、そういったものに価値判断を丸投げするのは、もうやめなきゃいけない。自分自身が個人としてどう考えて判断するか、それが大事。これって、遠い国の話だけではなく、日本の社会や政府とのつきあい方も同じだろう。


そして、末法の世を生き抜くにはヒューマニティが絶対的に大事。



10月の獲れ高】


柄にもなく社会派なマクラを噛ませてしまった。では、10月のおさらいを。


1本目

ザ・クリエイター/創造者

公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/thecreator

2023923日(土)中洲大洋劇場

事前期待度 ★★★★★

獲れ高   ★★★


AIが感情を持ってしまった未来。AIによってロスアンジェルスを核で吹っ飛ばされた「西側」は、AIの殲滅に乗り出す。一方のAIはニューアジアなる新興国(なのかな)に逃げ込み、抵抗を続けるという設定。


SF映画らしいおもしろい映像が楽しめる。なにも考えずに観るべき。というか、考えちゃダメ。考え始めるとモヤモヤが止まらなくなる。


<<以下、ネタバレあるかも>>


米軍もマヌケなら、対するAIもマヌケ。


米軍の侵攻作戦は雑すぎて、そりゃ、成功するわきゃない。それに、AIの拠点には巨大な建造物がおっ建ててるのに、なんで見つけられないのか。


AIAIで雑なのだ。AIなのに。アジトとなってる村には監視センサーもなし。簡単に米軍の侵入を許す。


「人間の子供が殺されてー」とか言うなら、人間と暮らさずにAIだけでどっかに引き篭もればいいのに。メンテのために人間が必要だったりするのかな? だとしたら、人間はAIの使用人???


あと、そもそもの部分でモヤモヤすることが多すぎる。


  • なぜ、ニューアジアの人たちはAIを擁護するのか? AI搭載ロボットを指して「いい人たちよ」とかって理由になる?
  • 米軍は思いっきり、ニューアジアの領土を蹂躙するわけだけど、ニューアジアの主権はどうなってるのか? 国連は黙ってんのか?
  • 「西側、西側」言うけど、西側ってアメリカ以外はどこ? 日本はニューアジア陣営ぽいけど、G7から脱落して、アメリカからそっちに鞍替えしたってこと?
  • じいさんのシュミラント(AIを搭載した模造人間)が出てしたけど、若い姿は選べなかったのか? それとも年を経たら老ける?(なわけはない)
  • チベット僧の真似してるシュミラントも出てくるけど、AIにとって神とはなんなのか? 
  • ニューアジアはAIを大量生産するほどのテクノロジーを擁しているのに、なぜ、人民は貧しいのか?
  • なぜ、米軍のAI殲滅要塞「ノマド」に、AIにとって神様同然の人間を模したシュミラントがいるのか?
  • ケン・ワタナベは、元々さほど英語がうまくなかったけど、なんで日本語も下手になっちゃったのか?


だいたい主人公が人として最低で感情移入できない。こいつの妄執のせいでやたらと人が死ぬ。「身勝手なクソ野郎」という、米軍の隊長の言葉がぴったりなのだった。


ギャレス・エドワーズ監督は、画づくりはうまいけど、世界観を創造する技量がないということなんだろうなぁ。まぁ、彼が監督した『ローグ・ワン』も『ゴジラ』も、結局、設定は出来合いだったし。


映像はおもしろいので、そこで加点して3つ星。



2本目

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

公式サイト:https://kotfm-movie.jp

2023923日(土)中洲大洋劇場

事前期待度 ★★★★★

獲れ高   ★★★★★


大傑作。「実は原作はドストエフスキー」と言われても信じちゃうくらい重厚なドラマが繰り広げられる。


冒頭、レオナルド・ディカプリオ演じるアーネスト・バークハートが、物語の舞台となるオセージ郡の街に降り立つ。そして、彼は、ロバート・デ・ニーロ演じる叔父、ウィリアム・ヘイルの屋敷へと赴く。


アーネストは第一次世界大戦ヨーロッパ戦線からの復員兵で、戦争の英雄気取りだけど、戦場では炊事班だったので、武勲を上げたわけでもない。結局、叔父ウィリアム以外に頼れる人間はいない。


この一連のシークエンスだけで、アーネストがどんな人間なのか、だいたいの見当がつく。虚栄心とは裏腹に、自分が無力だということを自覚している。だから自己肯定感は低く、叔父に対しても媚びるような下卑た表情を見せる。悪人ではないけど、モラルが高いとは決して言えない。主体性に欠け、自分の運命をたやすく他人に預けてしまう。


彼のこの性格が、彼自身を泥沼に引っ張り込んでいく様子を、映画は詳細に描き出す。


アーネストは本当にダメな男なんだけど、彼の愚かさはある意味、人間らしいとも思える。犯罪に関わっているし、その自覚もあるんだけど、悪辣というわけでもない。ただひたすらに凡庸。考えることを放棄し、自らで善悪の判断は下さない。叔父に言われるがままに動くだけ。


「悪」というにはあまりに器がちっちゃい。だから、妻への愛を捨てられない。しかも、彼はその妻を亡き者にしようとしている。その事実からはひたすらに目を逸らす。叔父の見え透いた嘘を信じ、今日も妻に毒を投じる。


観ている方は、追い詰められていくアーネストにだんだんと感情移入していく。犯した罪を考えれば、彼が放免される可能性はない。でも、彼自身はそれを信じ、観客もそれを願ってしまう。


このあたりの説得力は、ディカプリオの「顔芸」の賜物ではあることは間違いない。オスカー・ノミネートは間違いなし。


もちろん、観客が物語に引っ張り込まれるのは、「顔芸」だけではなく、アーネストと叔父、アーネストと妻という人間関係が緊張をはらんでいくさまを、緻密に描いているから。終盤の息苦しさは半端ない。


すべての黒幕である叔父、ウィリアム・ヘイルは、配給会社に「デ・ニーロ史上、最もヤバい男」というダサいコピーで絶賛されたわけだけど、デ・ニーロのキャリアで、より暴力的なキャラクターや、よりアタオカなキャラクターはほかにもいる。


ウィリアム・ヘイルが「最もヤバい」のだとしたら、優秀なビジネスマンのように、冷静かつ沈着に効率的な殺人の計画を立て、自分の手は汚さずに執行し、着々とオセージ族の財産を収奪していくとこ。その内面はまったく見えない。


「オセージ族を人間扱いしていないから、そんな非道なことができる」ってのは、ちょっと一面的な見方で、なぜなら、ヘイルは金のためなら、白人だって平気で殺すのだ。つまりレイシストというよりも資本主義の権化なわけ。人間さえも商品として消費してしまう世界。大切なのは富が富を生むという「システム」自体だから、ヘイルには心理的な内面なんて必要ない。もちろん、良心の呵責なんてありえない。


アーネストの不幸は、ヘイルとは異なり彼には内面があって、単なる歯車としてそのシステムに組み込まれることができなかったことだろう。


だから、この映画は昔のアメリカのお話じゃない。人々が経済というシステムにすり潰されていく現代にも通用する。だから、心に迫る。


ディカプリオ、デ・ニーロに限らず、俳優はみんなすばらしい。アーネストの妻を演じたリリー・グラッドストーンもオスカー・ノミネートは固いのでは。後半登場するFBI捜査官役のジェシー・プレモンスもいい。


ラストのパートでジャック・ホワイトが出ているのにはすぐに気づいたんだけど、エンド・クレジットを見ていると「ピート・ヨーン」の文字が! どこに出てた???


彼は00年代に活躍(?)したシンガーソングライターで、消えたかと思っていたんだけど、今回ググってみたら、10年くらい前に、なぜかスカーレット・ヨハンソンとデュエットしていた。『キラーズ・オブ~』ではエイシー・カービーを演じた。・・・・・・誰だ、エイシーって? 爆弾魔? この映画、そのうちApple TVで観られるようになるので、ご覧になる方はチェックを!





12年前。すでにおっさん。



11月はこの映画に賭ける!】


11月は、日本映画の注目作が相次いで公開する。


まずは北野武、久方ぶりの新作『』。戦国時代の末期を舞台に、「本能寺の変」へといたる武将同士の葛藤を描くというもの。豪華出演陣がおなじみの武将を演じるのが見もの。たけしは羽柴秀吉、織田信長が加瀬亮で明智光秀が西島秀俊、徳川家康は小林薫で千利休が岸辺一徳。予告編を観るとコケる可能性も捨てきれない。題材に対して映像が重厚感に欠けるような。1123日(金)公開。


もう一本は1103日(金)公開の『ゴジラ-1.0』。1956年公開の『ゴジラ』第1作よりも前の時代、太平洋戦争終戦後すぐの日本にゴジラが上陸するらしい。敗戦で「0」になった日本にゴジラがさらにダメージを与えて「-1.0」という理屈がよくわからない。敗戦の時点で、日本は「-50」って感じでは。しかもゴジラ襲来の影響はたった「-1.0」。予告編では、ゴジラが人間たちをただただ踏み潰していた。デカいビルないしね。なんだかなぁと思っていたんだけど、試写会に参加した人たちが口々に絶賛している。もしかしたら、もしかして・・・・・・傑作なの!?


人気作の続編『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』も1123日(金)に公開。稲垣吾郎、新垣結衣というそそる顔合わせの『正欲』は1110日(金)公開。いずれも劇場に足を運ばせるほどのタマではない。


日本映画では『さよなら ほやマン』なる作品も1103日(金)にお目見え。メイン・ヴィジュアルだけ見ても、なんだか暑苦しい感じ。予告編観てもピンと来ず。そもそも、僕はホヤが好きじゃない。しかし、なんだか、クチコミで密かに熱い支持を集めているみたい。


ハリウッドものでは、MCU最新作『マーベルズ』が1110日(金)公開。アヴェンジャーズ最強のヒーローってキャプテン・マーベルなんだ!!! ・・・・・・まったくついて行けてないです。


そのほかで言うと、1123日(金)公開のイタリア映画『シチリア・サマー』は、ゲイの若者の悲劇を描いていて、秀作の予感。実話ベースの『ぼくは君たちを憎まないことにした』は妻がテロの犠牲になって、子供と取り残された男性の実話がベース。泣くね、間違いなく。公開日は1110日(金)。


同じく、1110日公開の『パトリシア・ハイスミスに恋をして』は、作家パトリシア・ハイスミスについてのドキュメンタリー。アラン・ドロンの美貌炸裂の『太陽がいっぱい』や、ヴィム・ヴェンダース監督、デニス・ホッパー主演の哀愁漂う佳作『アメリカの友人』といった映画の原作者……くらいの知識しかなく、著作も読んでない。久々にこういう渋いのもいいかも。


アニメは『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』が1123日(金)から3週間限定劇場公開。うーむ。ネトフリ制作映画の続編か? 前作観てなくても大丈夫なのかな。


音楽ものでは、ジャズ・トランペットの雄に密着した『ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅』が気になる。1117日(金)から。あと、キャロル・キングの1973年のライヴを収めた『キャロル・キング:ホーム・アゲイン・ライブ・イン・セントラルパーク』1110日(金)に公開。


こんなところか。なんか・・・・・・地味ね。


ハリウッドのストの影響とかるのかな? 影響が出るにはまだ早い?



11月の2本★ 期待度は5点満点


決めました。


加瀬亮の尾張弁の信長っぷりに賭けてみる

期待度 ★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:データなし

20231123日(金)公開

2023年製作/日本映画/上映時間131

監督:北野武

出演: 西島秀俊、加瀬亮、中村獅童 ほか

公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/kubi/





ゴジラだしね、劇場で観る価値はあるでしょう

ゴジラ -1.0

期待度 ★★★

Rotten Tomatoes 支持率:データなし

20231103日(金)公開

2023年製作/日本映画/上映時間125

監督:山崎貴

出演: 神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴 ほか

公式サイト:https://godzilla-movie2023.toho.co.jp





吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!


第8回 2023年9月 『アステロイド・シティ』『ジョン・ウィック:コンセクエンス』

第10回 2023年11月『ゴジラ -1.0』『首』

長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。