文化CULTURE
長谷川和芳 | その映画、星いくつ?第10回 2023年11月『ゴジラ -1.0』『首』
「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。
11月は毎年忙しい。仕事じゃなくて、遊びが。
初旬の文化の日(11月3日)前後に恒例となっているのが、『博多・天神 落語まつり』。初回からプロデュースしていた三遊亭円楽が昨年亡くなって、今後の存続は?と心配する声もあったけど、今年も「三遊亭円楽 名誉プロデュース」というよくわからない冠を戴いて無事に開催された。
家人と両親とともに、毎年、1プログラムを鑑賞することにしているのだけど、今年は11月4日(土)にJR九州ホールの『何かによう』へ。お目当ては、新進気鋭の女性噺家、桂二葉! プログラム名にも名前が入っているし、トリを飾るのかと思いきや、中入り前に登場した。
それもそのはず、同じ舞台に上ったメンツが超豪華。安定感抜群の三遊亭圓歌にはじまり、タイガース優勝話がウザい桂吉弥、中入り後は、にじみ出る性格の悪さが最高の春風亭一之輔を挟んで、トリはベテラン、三遊亭小遊三。
おそらく10年以上はこのイベントを観ているけど、こんなに人気者が一堂に会した回はなかったんじゃないか。そんななかでも二葉は人情噺『子は鎹』を鮮やかにキメた。さすが。次回はイベントじゃなくて、独演会でたっぷり聴きたいもんだ。
『落語まつり』から2週間後、博多の街はさらなるにぎわいを見せる。大相撲11月場所の開幕だ。15日間あるうちの1日を選んで、家人と両親とともに足を運ぶのが通例になっていて、今年は11月12日(日)の初日へ。ちなみに昨年は、千秋楽に行くことができて、28年ぶりという巴戦を目にしたのだった。
今場所は一山本、熱海富士が健闘する一方、大関の貴景勝、豊昇龍が黒星を重ね、賜杯の行方は混沌としたけど(この記事を執筆している13日目で霧島と熱海富士に絞られたっぽい)、初日は波乱なく上位は順当に勝ち星を上げた。
新型コロナが落ち着いて、飲みながら土俵に声援を送れるようになったのはありがたいけど、いつの間にか、会場への飲食物の持ち込みが禁止になっていて、その点では「相撲協会よ、お前もか」って感じ。
それにしても。我が家における娯楽の王様が、いまだに落語と相撲、あとプロ野球ってのは、81歳&79歳という両親の年齢を考えるとやむなしだけど、11月のお題の映画が「ゴジラ」と「時代劇」って! おかげで、例年以上に「昭和」な1か月となってしまった。
【11月の獲れ高】
では、11月のおさらいを。
1本目
ゴジラ -1.0
公式サイト:https://godzilla-movie2023.toho.co.jp
2023年11月03日(金)ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
事前期待度 ★★★
獲れ高 ★★★★
率直に驚いた。ゴジラでまさか、ここまでマジなドラマを観るとは。
戦後すぐの東京が舞台と聞いて、復興をキーにした「ニッポンすごい」「ニッポンがんばれ」な映画かと覚悟していたけど、まったく逆だった。
第1作のゴジラは、第二次大戦の戦死者の御霊が結晶したものだという見立てがある。今作でもその解釈は引き継がれているんだけど(ゴジラに敬礼するシーン)、結局のところゴジラが意味するものは、「死を呼ぶ災厄」ということに尽きる。
抗いようのない運命。
自然災害もそうだけど、今日的な視点で見ると戦争の方がよりリアルかもしれない。瓦礫と化す東京は、ウクライナやガザ地区と重なる。市民はあまりに無力で、死を免れることはできない。虫ケラのように踏み潰されていく。子供にも年寄りにも容赦なく死が降りかかる。そんな光景をニュースで目にする毎日。そんな市井の人々の哀しみは、戦後日本のあちこちに転がっていたんだろう。
「抗え」って言われてもなぁと、ゴジラの凶暴さと人間のあまりの卑小さに「ムリッ!」ってなっちゃうけど、どうにかこうにかゴジラを倒す(これはネタバレじゃないよね)。その過程が、ヒロイックじゃないのがいい。
そもそも神木隆之介演じる主人公、敷島が筋金入りの腰抜けだもの。彼の活躍でゴジラを倒すことができるのだけど、そのときの本人、半分、自暴自棄だし。ゴジラ駆除に立ち上がる元海軍兵たちも、ゴジラのパワーを目の当たりにすると、および腰になる。そりゃ、そーだ。終盤近く「あっちゃー、俺たち死ぬんじゃね?(アタマの中真っ白)」な場面はすごく印象に残る。
あと、メジャー映画なのに、発しているメッセージが「ニッポンすごい」どころか、「ニッポンヤバい」ってのがすごい。
- 戦争に負けてもこの国は変わってない
- 日本政府もアメリカ軍も守ってくれない
- 隠蔽体質はこの国の十八番
- この国は命を粗末に扱う
そこまで言うか。
劇中でも、混乱の引き金を引きたくないばかりに、日本政府はゴジラの接近を隠蔽する。誰も責任を取らない国。それがニッポン。ほかにも切り口はいっぱいある(長くなるからここでは書かないけど)。
佐々木蔵之介をはじめクサイ芝居には閉口するし、あまりにご都合主義で「あいたー」と思う場面も満載。しかし、それを凌駕する「そこでゴジラのテーマ!?」というあざとさと、そこから生まれる映画としてのカタルシス。
予想を遥かに超えた傑作でした。
2本目
首
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/kubi/
2023年11月23日(木)ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13
事前期待度 ★★★★
獲れ高 ★★★1/2
映画の中盤で、「菅井きんがAIで甦った!」……と一瞬思ったけど、柴田理恵だった。
作品自体は、前評判通り戦国時代版『アウトレイジ』。それ以外に何があるのかというとBLと忍者。道具立ては新鮮だけど、「命の軽さ」とか、「所詮人生なんて喜劇さ」だとか、時代設定は変われど描かれるているのは、いつもの北野映画と同じテーゼだ。
どの北野映画にも、なんだかしらじらとしたお笑い感覚が漂っているけど、今回、喜劇性を高めているのが、加瀬亮扮する織田信長の行きすぎたハラスメントっぷり。完全にビョーキ。あまりにひどすぎて、逆に笑える。
もうひとつ、喜劇要素を挙げるとすれば、武士の欺瞞に満ちた「美意識」と、ビートたけし演じる羽柴秀吉のプラグマティストぶりのコントラストだろう。「私は百姓の出だもんですから」と繰り返す秀吉の実用主義的なフィルターを通すと、武士の儀礼が滑稽に見えてくる。この資質にこそ、秀吉が天下を取れた理由にほかならないんだろう(同時に豊臣政権が短命に終わった理由かも)。
武士の「美意識」には男色も含まれていて、西島秀俊演じる明智光秀を中心にウフフな関係も描かれる。それはいいんだけど、問題は、そこで垣間見えるドロドロとした欲望が、まったく物語に絡んでこないところだ。
特に光秀の心の動きが見えづらい。結局、光秀を動かしたのは信長への失望であって、男同士の愛憎劇とはまったく関係なかった。だとしたら、それまでの光秀の行動はなんだったんだ? あのウフフは本当にウフフだったのか?
こんなモヤモヤが募って、結果的に映画全体が空虚に感じられたのが残念。本能寺の変の描写があっさりってのも肩透かし。こういう盛り上がらなさや、スッキリしない感じも、北野映画らしいと言えるけど。
役者陣は大健闘。加瀬亮の最大の見せ場はハラスメント野郎を嬉々として演じるところではなくて、能の舞台を潤んだ眼で眺めながら、人間全体への呪詛を呟くところだ。この演技には本当にゾッとした。ハラスメント場面よりも、信長の狂気がにじみ出ている。
秀吉の弟、秀長を演じる大森南朋はセリフもノリも現代劇。その軽みがいい。信長の狂気と対極と言える、飄々とした徳川家康を演じた小林薫もいい味出している。荒川良々は、出ているだけで得した気分にさせるし、最後の最後にちゃんと見せ場もある(「あれっ?なんで?」)。もちろん、菅井きんの跡目を継ぐであろう柴田理恵にもご注目を。
【12月はこの映画に賭ける!】
11月は、中洲大洋劇場でNETFLIX製作のデビッド・フィンチャー監督作『ザ・キラー』が上映されることをキャッチできず。あと、某ミニシアターで観た『アステロイド・シティ』は、中洲大洋で再上映が決まったみたい。待てばよかったか?
情弱とはわたくしのことです。
さて、師走(愕然)。いろいろと立て込みそうな予感もするけど、映画見る暇はあるかな(たぶん十分にある)。
観る映画は、すでに1本は確定済み。ヴィム・ヴェンダースが監督し、役所広司がカンヌ国際画祭最優秀主演賞を獲得した『PERFECT DAYS』だ。ヴェンダースの全部の映画が好きってわけではないけど、僕のオールタイム・ベストは1984年製作の『パリ・テキサス』なのだ。そして、役所広司は、おそらく日本の映画史上に名を残す名優だろう。このコンビの作品を見逃す手はない! 12月8日(金)公開。
リドリー・スコット監督『ナポレオン』は有力候補の一本。ホアヒン・フェニックス主演てのもポイント高い。大スクリーンで見るべき大作であることは間違いないんだけど、採点サイトRotten Tomatoesを見てみると、評論家支持率60%、観客支持率61%と芳しくない。12月1日(金)公開。
ジョニー・デップがウォンカを演じた『チャーリーとチョコレート工場』の前日譚『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』も有力。ウォンカ役はいまをときめく、ティモシー・シャラメ! 家人も『チャーリーと~』が好きで、我が家では年に何回か観返すほど。家人が行くならこれで決まりかも。12月8日(金)公開。
サンダンス映画祭で評判をとったオーストラリアン・ホラー『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』も注目の一本。「90秒憑依チャレンジ」が恐怖体験を呼ぶらしい。ってコックリさんみたいなもの? 12月22日(金)公開。
渋いことろでは、アメリカの公民権運動に火をつけたと言われる事件に材をとった『ティル』も。スクリーンで観なくてもいいかな。 12月15日(金)公開。農場を救うためにキャバレーを開くというフランス映画『ショータイム!』はどうか。ストーリーはすごくおもしろい。で、実話!? 福岡では12月8日(金)公開。
日本映画は杉咲花主演の『市子』の評価が高い。知っていたはずの人が、まったく想像もしてないような人生を歩いていたという『ある男』を彷彿とさせる筋書。12月8日(金)公開。
アニメ『ウィッシュ』はディズニー創設100周年記念作品だけあって、宣伝の力の入れ具合も違う。ヒット間違いなし。12月15日(金)公開。日本だと黒柳徹子の自伝的ベストセラー小説をアニメ化した『窓ぎわのトットちゃん』が、予告を観た限りだと、何気に泣けそう。12月8日(金)公開。
★12月の2本★ ※期待度は5点満点
決めました。
年に何本かしかない個人的マスト映画
PERFECT DAYS
期待度 ★★★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 93% 観客 なし
2023年12月15日(金)公開
2023年製作/ドイツ・日本合作映画/上映時間124分
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演: 役所広司、柄本時生、中野有紗 ほか
公式サイト:https://perfectdays-movie.jp/#
賛否あるけど大スクリーンで観とこ
ナポレオン
期待度 ★★★1/2
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 60% 観客 61%
2023年12月1日(金)公開
2023年製作/アメリカ・イギリス合作映画/上映時間158分
監督:リドリー・スコット
出演: ホアヒン・フェニックス、ヴァネッサ・カービー ほか
公式サイト:https://www.napoleon-movie.jp
吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!
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