文化CULTURE

長谷川和芳 | その映画、星いくつ?第8回 2023年9月 『アステロイド・シティ』『ジョン・ウィック:コンセクエンス』

「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。


91日金曜日の夜、自宅で一杯やって、いい気分でくつろいでいたら、東京(つーか、住まいは川崎市)にいる娘から、珍しくLINEが入ってきた。


「中洲大洋閉館しちゃうの!?」


は?


寝耳に水って、こういうことを言うのか。


1946年開業、中洲の明治通り沿いに建つ名門映画館『中洲大洋劇場』が、来年3月いっぱいで閉館し、建替え工事を行なうという話。建替え後に映画館として営業するかは未定とのこと。


実は、僕が知らんかっただけで、昼過ぎには報道されていたみたい。Facebookの「在京福岡県人会」なるグループでも話題になっていて、娘はそれで知ったそうな。


「いまのあの建物がいいのに!」と娘は(LINEで)絶叫していた。


建物の老朽化が原因なので、仕方がないのだけど、この劇場の1番スクリーンが、福岡市内でベストな鑑賞環境だと僕は思っているので、個人的にも非常にショック。それに、もう少し歳とって仕事がなくなったら、掃除とかチケット販売とかで雇ってもらおうかなどと(勝手に)もくろんでいたので、人生設計をも揺るがす大事件なのだった。


8月に『バービー Barbie』観たのも、このスクリーン。印象に残っているのは、2021年にここでデイヴィッド・フィンチャー監督、ゲイリー・オールドマン主演の『Mank/マンク』を観たこと。全部で301席ある1番スクリーンで観客は僕だけ。なんとも贅沢な2時間12分だった。





もう一つ、「観なかった」映画の思い出も。デイヴィッド・バーンによるブロードウェイのショウをスパイク・リー監督がカメラに収めた2021年日本公開の『アメリカン・ユートピア』。僕は福岡市警固の某映画館で観た。映画は素晴らしい出来栄えで、後日、ブルーレイを購入するほど感動した。





警固の某映画館はスクリーンの小さく音響もよくないので、音楽映画を鑑賞するには不向きだとわかっちゃいたけど、ほかの劇場ではかからないのだから仕方ない。


・・・・・・と思いきや、警固の某劇場で観た数週間後に、中洲大洋でも『アメリカン・ユートピア』を上映したのだった。しかも、個人的フェイバリットの1番スクリーンで。


中洲大洋で再度鑑賞するという選択肢もあったんだけど、貧乏性なので短期間に同じ映画をスクリーンで観るという習慣がなく、結局足を運ぶことはなかった。警固の某劇場が上映しなければ、こんなことにはならなかったのに。そんな恨みつらみが心の底に沈澱し、以降は某劇場を敬遠するようになってしまったのだけど、小さくて音響が悪いとしても、福岡市内にスクリーンが増えることは歓迎すべきだよなぁと、中洲大洋閉館のニュースに接して、改めて思った。


警固の某劇場、冷たくしてごめんね。



9月の獲れ高】★


さて、気を取り直して9月のおさらいを。


1本目

アステロイド・シティ

公式サイト:https://asteroidcity-movie.com

202392日(土)kino cinéma天神

事前期待度 ★★★★★

獲れ高   ★★★1/2


博多駅のTジョイでも上映していただけれど、時間が合わないし、この映画は小さめのスクリーンでもいいかなということで、久しぶりに警固の某劇場へ。


ウェス・アンダーソン監督は、そのヴィジュアル・スタイリストぶりで、クリエイターにもファンが多い。いかにも彼の映画に出てきそうな風景を集めた「@accidentallywesanderson」なるインスタグラムのアカウントは188万人以上のフォロワーを獲得し、そこにポストされた画像を集めた写真展まで開催されている。


確かに、どの映画も、観ているだけで楽しい。『アステロイド・シティ』でも、いまから何か起きそうな「静けさ」をはらんだ風景やノスタルジックな色彩感覚、シンメトリーな構図などなど、ウェス・アンダーソンらしさが炸裂。好きな人にはたまらない世界が展開される。


ただ、そんなにファンじゃない人にしてみれば「意味わからん」て感じかもしれない。


舞台は書き割りぽいし(演劇という設定だから)、これまでのウェス・アンダーソン映画同様、登場人物の体温は低い。これを退屈に感じる観客も少なくない気がする。


エモさをかろうじて感じるのは、スカーレット・ヨハンソン演じるミッジが、お芝居の稽古をしている場面と、ラスト近く、演劇の本番ではカットされたシーンのセリフを、オーギー演じる役者(ジェイソン・シュワルツマン)と彼の妻を演じた役者(マーゴット・ロビー!)が再現する場面のみ。


ウェス・アンダーソンの映画って、入れ子構造のものが多い。それも「生の感情」を描くことを回避したいからかもしれない。その結果、観ているこちら側のは登場する誰にも感情移入できず、物語が進むにつれ、ちょっとずつ、気持ちが冷めていくのだった。それは、この作品も同様だった。


そんな若干シラケ気味の映画の終盤に急遽浮上するメッセージが“You Can’t Wake Up If You Don’t Fall Asleep”。つまり、「眠らないと目覚めることもできない」。この言葉が、演劇チックな白々しい演出で連呼される。


いったい、どんなメッセージが込められているのか?


眠っている状態は、まさに僕らが映画館の暗闇でスクリーンに映し出される物語に没入している状態・・・・・・なんていう、解釈も成り立つ。フィクションに入り込み、いっときの夢を見ることで、現実に立ち向かう力を手に入れることができる・・・・・・とか。


いや、真意は「↑そーゆーふーに考え過ぎるのよくない」ってことじゃないかな。「目に映るすべてのことはメッセージ」なんてことはない。


それに呼応するシーンが、上述のマーゴット・ロビー登場の直前にある。オーギー演じる役者は突然「芝居がわからなくなった!」と叫び、撮影セットを飛び出す。そして、彼の言い分を聞いた演出家は「いいんだよ、キミは完璧だよ」と諭す。


人の心理や行動を完全に理解することなんてできないし、ましてや言語化するなんて到底無理。人間のほとんどは自分の「芝居」なんて知っちゃいない。それでも、生きている。だから「芝居」に悩むオージーはリアルなのだ。


眠っている間に見た夢は、目覚めた後で言語化することはできるけど、それも記憶に引っかかった部分だけ。実は目が覚めてる時も似たようなもので、自分の感情や行動で言語化できる部分なんてのは、ほんの僅かなんじゃないか。なんか知んないけど、みんな今日も生きている。


だから、ムリに理屈をつける必要はない。


ウェス・アンダーソン御大がおっしゃっとるのは、「メッセージを読み取ろうとするな。スクリーンに映る世界に、ただ身を浸すべし」ということ。


つまり、「この映画は、kino cinémaの小さめのスクリーンでもいいかな」なんて思った僕は完全に間違っていたのだ。この映画こそ、でっかいスクリーンで観て、その映像にドップリハマるべきだった。


なんだか消化不良。よって若干減点しました。


エンドクレジットで流れたPULPのジャーヴィス・コッカーが歌う「眠らないと目覚めることもできない」。






2本目

ジョン・ウィック:コンセクエンス

公式サイト:http://johnwick.jp

2023923日(土)中洲大洋劇場

事前期待度 ★★★1/2

獲れ高   ★★★1/2


中洲大洋の1番スクリーンのE-14で鑑賞。


3時間近い長丁場、基本的にずーっと血みどろの殺し合い。3作目まではケーブルテレビで観ていたので、そんなことはわかっちゃいたんだけど、なかなかにすごい体験だった。手を変え品を変え、アクションを畳み掛けてくる。ストーリーはどうでもよろしい。ただ、ひたすらにアクションに目を凝らすのだ。


そんななかでも、ドニー・イェンはカラダのキレがひと味違う。ほかの役者と比べて圧倒的に動きが速い。盲目という設定なので、思い出したように周りにあるものを仕込み杖でつついたり、ジョン・ウィックに声をかけて状況を確認したりもするんだけど、基本的には縦横無尽に暴れ回る。盲目って設定必要?。


一方で、「キャラクター自体いらんくない?」と思ったのが、ジョンに付きまとう犬を連れた賞金稼ぎのトラッカー。強いのか弱いのか、いいやつなのか悪いやつなのかも判然としないし、結局、日和っちゃうし。「とりあえず犬、出したいよね」と、チャド・スタエルスキ監督が思いついただけなんじゃないか。


さて、期待の日本勢はどうだったかと言うと、真田広之は安定の渋さ。もう62歳なのにしっかりアクションもこなす(まぁ、ドニー・イェンも60歳だけども)。


そして、我らがリナ・サワヤマは、期待以上の大活躍。事前情報を仕込んでなかったので、てっきり、ジョンを狙う日本人刺客で一瞬で消えるんだろうなと思ってたら、真田広之演じる、ジョンのマブダチ、ツシマの娘アキラ役で、ジョンと共闘するのだった。ファッションモデルをやっているだけあって、堂々とした立ち振る舞い。アクションもOK





アキラが主役のスピンオフ、あるかも。


どこを切っても見どころだらけだけど、個人的なベストバウトは、やはりクライマックス手前の階段での攻防。タイムリミットがあるシチュエーションなので緊迫感倍増。このへんの演出は、過去作よりも洗練されている気がした。


今回は夫婦50割を使って、ジョン・ウィック・シリーズの大ファンの家人といっしょに観たんだけど、「これまでになく脚本が丁寧で最高だった!」と帰り道で興奮していたので、シリーズ最高傑作の呼び声に偽りはないと言うことだろう。


でもね・・・・・・やっぱり3時間は長いと思うんだ。膀胱の方は問題なかったんだけど、前夜、飲みすぎたせいか、途中でちょっとだけ寝てしまった。アクションはすごいし、盛り上がるんだけど、ストーリー的に劇的な展開があるわけでもないので、アクション・シーンの真っ最中に一瞬感覚が麻痺して、睡魔にやられてしまった。


中洲大洋のシートが、これまた心地いいんだよね。1番スクリーン、やはり最高。


キアヌ、ごめん。寝た分減点します。



10月はこの映画に賭ける!】


9月公開作品で気になるのは、原田眞人監督、安藤サクラ、山田涼介主演のBAD LANDSバッド・ランズ』。闇社会に生きる姉弟の話。我ながら、安藤サクラの映画を見過ぎな気がしなくもない。ちょっと食傷気味かも。一旦、保留。


同じく9月公開の韓国映画『ハント』は二重スパイもの。イ・ジョンジェ、チョン・ウソン主演で、ファン・ジョンミンなど脇も豪華。出来については賛否両論。


10月公開作はピンとくる作品が少ない。


そのなかでも、20日金曜日公開の2本には注目が集まりそうだ。1本目はマーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ、レオナルド・ディカプリオ主演の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』。評判はかなり高いけど、問題はその上映時間。3時間26分!!! 『ジョン・ウィック:コンセクエンス』より30分以上長い!!! 果たして耐えられるか、おいちゃんの膀胱!?


もう一本は、ギャレス・エドワーズ監督の『ザ・クリエイター/創造者』AIと人類の戦いを描いたSF大作。こちらも評判はいい(上映時間は2時間13分と常識的)。雰囲気で「SF大作」なんて言っちゃってるけど、実際の制作費は8000万ドルで、『ワイルド・スピード』最新作制作費の13らしい。


デンゼル・ワシントンが必殺仕事人みたいな活躍を見せる人気シリーズ最終作『イコライザー THE FINAL106日金曜日公開)もお目見え。過去作はケーブルテレビで観た。今作も、劇場に行くまででもないか。


沖縄の貧困問題を描き出す『遠いところ』1013日金曜日公開)は、そのリアルさが絶賛されているけど、ずっしりと重い予感。


『ソウルに帰る』1020日金曜日公開)は、タイトル通り、フランス育ちの韓国人女性が初めて故郷の土を踏むというストーリー。おもしろそう。


音楽関連の目玉は、『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』106日金曜日公開)ジョン・レノン&プラスチック・オノ・バンドが初めてステージを踏んだ『トロント・ロックンロール・リバイバル』のドキュメンタリー。出演者は、チャック・ベリーやリトル・リチャードなどレジェンドがずらり。



10月の2本★ 期待度は5点満点


決めました。膀胱と相談のうえセレクト!


SFはやっぱり映画館のスクリーンで観なくては!

ザ・クリエイター/創造者

期待度 ★★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:データなし(929日全米公開)

20231020日(金)公開

2023年製作/アメリカ映画/上映時間133

監督:ギャレス・エドワーズ

出演: ジョン・デヴィッド・ワシントン、渡辺謙ほか

公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/thecreator




スコセッシの大仕事に絶賛の拍手が鳴り止まず。

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

期待度 ★★★★★

Rotten Tomatoes 支持率:評論家97 観客データなし(1020日全米公開)

20231020日(金)公開

2023年製作/アメリカ映画/上映時間406

監督:マーティン・スコセッシ

出演: レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロほか

公式サイト:https://kotfm-movie.jp



吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!



第7回 2023年8月『イノセンツ』『Barbie バービー』
第9回 2023年10月『ザ・クリエイター/創造者』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。