その映画、星いくつ? 第27回 2025年4月『ミッキー17』『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』
「月に2本」という限られた枠のなかで、いい映画を見極め劇場に足を運び、観た作品をレヴューするという企画。
巨匠、フランシス・フォード・コッポラ監督の最新作『メガロポリス』が、ついに日本でも劇場公開されることが決まった。公開日は6月20日(金)なので、2か月ほど先。
この作品は、構想40年、脚本のリライトは約300回、そして監督がおよそ1億2000万ドルの私財を投げ打って完成させてという超大作。2024年のカンヌ国際映画祭で鳴り物入りでプレミア上映され、スタンディング・オベーションを浴びた・・・・・・はずだったんだけど。
ふたを開けると、作品への評価は酷評の嵐。本国アメリカでは、同年9月に公開されるも大コケ。最低映画を決めるゴールデン・ラズベリー賞(ラジー賞)では、最低作品賞こそ『マダム・ウェブ』に譲ったものの、みごとに最低監督賞と最低助演男優賞を受賞。ちなみに映画の格付けサイトRotten Tomatoesでの支持率は評論家が45%、観客が35%という惨憺たる結果に。
日本ではスクリーンでお目にかかれないじゃないかと思ってたんだけど、松竹が配給に手を上げたのね。で、問題は観に行くべきか、否かということ。「怪作」なんて評価があるけど、上に挙げた事例を見るに失敗作であることは、ほぼ間違いない。しかし、ここまで評判が悪いと逆に観たてみたい気もする。
だって、コッポラだもの。失敗作だとしても、きっと映画史に残る壮大な失敗作じゃなかろうか。だとしたら観ても損はない。
とは言え、月に2本しか映画を観られないのに、そのうちの一本が駄作確定作品でいいのか? 予告編を観た限りでは、「失敗作」どころか「駄作」という言葉さえちらつく。
うーーーーむ。公開来月まで、じっくり悩むことにします。
【4月の獲れ高】
では、4月のおさらいを。今月は2本とも小粒だったかも。※期待度と獲れ高は5点満点/ネタバレあり!
1本目
ミッキー17
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/mickey17/
2025年04月01日(火)ユナイテッド・シネマズ キャナルシティ13
事前期待度 ★★★★
獲れ高 ★★★
2025年の世界に刺さるSFブラックコメディ。
映画の冒頭で理想主義の敗北が語られる。地球に留まって地道に状況を改善しよー!という呼びかけに背を向けて、地球を捨て新天地を目指す人々。地球温暖化なんて知ったこっちゃない。生産と消費こそが社会を動かす。そんな我々の成れの果てか。
マーク・ラファロ演じるマーシャルは明らかにトランプ大統領を戯画化した存在。優生思想バリバリで、強烈なシンパに支えられている。哲学などなく、妻とカルト教団の手先に操られている。しかし、劇中のマーシャルは選挙で落選してるんだけど、トランプは大統領に返り咲いちゃったわけで。映画よりも現実の方がディストピアだったりする。
主人公、ミッキー17は、科学と資本主義とカルトの産物だ。死んでも生き返る……わけではなく、生き返っている体にしてるだけ。みんな、それを知っているのに、気づかないふりをしている。次第に、ミッキーも死ぬことが「当たり前」になってる。しかし、ある事件からミッキーが生の一回性に目覚め、物語は転がっていく。
倫理観がぶっ壊れた世界で、人間性を担保するものはなんなのかが、この映画のテーマだろう。
結局のところ、それはミッキーの恋人、ナーシャに対する執着心だった。ミッキー18のせいで、死ぬに死にきれなくなる17。コメディ・シチュエーションとしては、最高。17と18の性格の違いも効いている。
わかりやすい。
しかし、それがこの作品の欠点ともなっている。寓話と開き直っているのかもしれないけど、細部に「?」がつきまくる。4年も宇宙を旅してたどり着いた惑星には、荒野が広がっている。いや、なんでこの星を選んだ? マーシャルがカルト宗教のサポートを受けていることはわかる。で、そのカルトと委員会ってのは別物なの? ナーシャの倫理観は? 彼女の素性は?
なによりも、なんでミッキーはあんなにモテるのだ?
観ている間は楽しいんだけど、モヤモヤが残る。テーマは深いのにそれが活かされず、コメディとして消費されてしまったのが残念。
2本目
ベテラン 凶悪犯罪捜査班
公式サイト:https://veteran-movie.com/index.html
2025年04月12日(土)ユナイテッド・シネマズ 福岡ももち
事前期待度 ★★★★
獲れ高 ★★★★
ファン・ジョンミン主演の刑事アクション、9年ぶりの第2弾。
前作の凶悪犯罪捜査班の敵は、大富豪のサイコ野郎だったけど、今回、彼らが対峙する「ヘチ」は、それに匹敵するサイコっぷり。知能犯な分、より不気味さを増している。
映画の開始早々に、その正体が明かされるので、ファン・ジョンミン扮する主人公ドチョルがいつそれに気づくのか、そのうえでヘチがどんなでを打つのかが、焦点となる。
そして、同時進行で、ドチョルの家庭の問題を描いていくとこがワザありって感じ。これが終盤に効いてくる。
物語後半でヘチの生い立ちが語られるかと思いきや、(今作の段階では)そこははしょって、殺人大好きなサイコ野郎のサディストとして描ききったのは、潔くてよかった。そーゆー、ダラダラしたパートはゼロ。
そして、見どころはやはり肉弾戦なのだった。
導入部からアクションはフルスロットル。その後も、ニンジャみたいに飛び回る「ヘチ」との追跡劇とか、ポスターヴィジュアルにもなっている雨のなかの格闘シーンとか、手を替え品を替え飽きさせない。
クライマックスももちろん格闘シーンで、これが前作以上に「痛い」。ドチョルも痛いけど、ヘチもかなり痛かったはず。カタルシスはないけど、ようまとめたなーと感心させてくれる。
そして、このシリーズのキモは「チーム」だと示唆して終幕。どうも続編もあるみたいで、そういう視点から見ると、今作はシリーズの輪郭をつくる重要作かも。
前作と比べると、コメディ要素の配合具合も今作の方がいい感じ。韓国らしい娯楽映画の秀作だった。
【5月はこの映画に賭ける!】
今月から鑑賞対象ノミネートは10本に絞ることにします。そのなかから観るのは2本のみ。
まずは4月に積み残した作品から。
①マインクラフト/ザ・ムービー
人気ゲームの映画化がアメリカでは大当たり。2025年公開の作品のなかで最大のヒットに。予告を観た限りでは、ゲームを知らなくても楽しめそう。4月25日公開。
もう一本4月公開作品。
②It’s Not Me イッツ・ノット・ミー
鬼才、レオス・カラックスの最新作は42分の実験的なショート・フィルム。2021年制作の『アネット』は、この年の個人的なワースト作品の一本だったのよね。どうしたもんか。4月26日公開。
5月公開作は話題作多し。一番はシリーズ最終作とも噂される一本。
③ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング
トム・クルーズのアクションの目玉は、「空母から海にダイヴ」ってことなので、さほど目新しくはない。でも、主人公イーサンの過去が明かされるってんだから、見逃せない。5月23日(金)公開。
MCUの最新作は悪党たちが主人公。
④サンダーボルツ*
フローレンス・ピュー扮するエレーナをはじめとする6人の悪人が地球を救うために立ち上がる。DCの『スーサイド・スクワッド』のマーヴェル版という趣き。5月2日(金)公開。
中国からもアクション大作が登場。
⑤カウントダウン
火災と放射能汚染と台風が香港を襲うというディザスターもの。主演はアンディ・ラウだし、それなりの予算はかけているはずだけど、B級臭が漂う。5月2日(金)公開。
人気シリーズといえば、ファミリーで楽しめるこちらも。
⑥パディントン 消えた黄金郷の秘密
生まれ故郷のペルーを舞台に、パディントンが大冒険を繰り広げる。Rotten Tomatoesの観客支持率はなんと91%! 日本でも手堅くヒットしそう。5月9日(金)公開。
日本からも動物を主人公としたファミリー映画が。
⑦たべっ子どうぶつ THE MOVIE
“動物”って言ってもビスケットなんだけど。目のつけどころがすごい。どうぶつたちは「かわいいだけが取り柄で戦闘力ゼロ」。おもしろそう。5月1日(木)公開。
怪作と評判の一本もようやくお目見えします。
⑧サブスタンス
主演のデミ・ムーアはオスカー受賞もあるかもと一部で囁かれたほどの熱演ぶりらしい。ルッキズムをテーマにした異色ホラーとの触れ込み。ストーリーを読んでもあまり意味がわからない。5月16日(金)公開。
中国の巨匠が放つ一作はフィクションとドキュメンタリーの融合。
⑨新世紀ロマンティクス
『長江哀歌』がヴェネチア国際映画祭で金獅子賞(グランプリ)を獲得したジャ・ジャンクーの最新作。21世紀初頭から現在に至る中国の変化を描く。5月16日(金)公開。
なんかタイトルがうさん臭いけど、音楽映画の注目作はこの一本。
⑩ロックの礎を築いた男 レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点
伝説的なブルース・ミュージシャン、レッド・ベリーの生涯を描くドキュメンタリー。ちょっと地味かなぁ。5月23日(金)公開。
★5月の2本★ ※期待度は5点満点
決めました。
PART ONEも劇場で観たことだし、迷いなくチョイス
ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング
期待度 ★★★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 ––— 観客 ——
2025年05月23日(金)公開
2025年製作/アメリカ映画/上映時間不明
監督:クリストファー・マッカリー
出演: トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル ほか
公式サイト:https://missionimpossible.jp
なんかよくわかんないけど、怖いもの見たさで選んでしまいました
サブスタンス
期待度 ★★★★
Rotten Tomatoes 支持率:評論家 89% 観客 75%
2025年05月16日(金)公開
2024年製作/アメリカ映画/上映時間142分
監督:コラリー・ファルジャ
出演: デミ・ムーア、マーガレット・クアリー ほか
公式サイト:https://gaga.ne.jp/substance/
吉と出るか凶と出るかは、来月のお楽しみ!