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土曜日の夜に 第11回 PANICSMILE 「PANICSMILE」Text by Masami Takashima

土曜日の夜に 第11回 PANICSMILE 「PANICSMILE」Text by Masami Takashima

今年の夏至は美しかった。久しぶりに外出をした日、偶然だがとてもいいタイミングで夏至の日暮れを見ることができた。海岸沿いは、ランニングをする人、釣人、散歩する親子、学生のグループなど、さまざまな人が行きかう場所でもある。8時近くになってもまだうっすらとしたままで漂うように夜が近づいてくる。この特別な一日のひとときを楽しもうと海の一点を見つめるたくさんの人たちと巨大なスクリーンで映画を共有しているような不思議な感覚だった。それにしてもあの数分の波の色の変わりゆく美しさよ!しばらく歩いたりしていたら海風でひんやりとしてきた。


気候的にちょうどよかったとある日。窓を開けて楽器に触れていると、世の中には私と鳥たちしかいないのではないかと錯覚してしまうほどに日中なのにとても静かな日があった。あちらこちらから聞こえる鳥の声。会話をしているのか、いくつかの種類の鳥たちは時間差で鳴き続ける。窓辺に吊るしている剪定したラベンダーも風が吹けば良い香りを時々運ぶ。そんな穏やかな気候が続いた6月を終えて、いくつかの新譜を聴いた。


Hiatus Kaiyote「Mood Valiant」素晴らしい。ブレインフィーダーからリリースされた今作。ヘッドフォンに身を委ねるうち、低音が私にとってとても理想的でついつい音量をあげて聴き入ってしまった。ああこれは大きいスピーカーの前で、そしてレコードで聴きたい低音だと思った。レコードといえば、昨年から家にいる時間が増えたこともあり、レコードで音楽を聴く機会が多くなった。当コラム初回(https://bigmouth.co.jp/music/712.html)にピックアップしたJuana Molinaの「Segundo」がアナログで再発された。コラム執筆時は1年後にこのアルバムがリマスターで再発されることなど想像もしていなかったが、何度聴いても新たな発見があり驚かされる。


Pavementの影響を感じずにはいられないフィリピンのインディロックバンド The Buildings「Heaven is a Long Exhale」を聴いているとライブに行きたいと思う。シンプルなアレンジや、ぐっとくるメロディー。miu mauをいつも東京に呼んでくれるIan Martinさん主宰のCall And Responseより日本盤がリリースされている。「マインクラフト」内で行われたオンラインでのリリースイベントのニュースはとても新鮮だった。


https://call-and-response.bandcamp.com/album/heaven-is-a-long-exhale


PANICSMILEの10枚目のアルバム「PANICSMILE」はコロナ禍で住む場所の離れたメンバーと遠隔で制作された作品とのこと。制作過程はyoutubeでも公開されていて、音楽を志すものとして制作過程もとても興味深い。言葉をはっきり歌う吉田さんの声が乗るとポップで複雑なサウンドにパニックスマイルとしての説得力が加速するのだろうと改めて感じた。初めてパニックスマイルを知ったのは、90年代後半、熊本Djangoでのライブだった。私も含めこの音楽に出会い、そして圧倒された九州のバンドたちは以来、ライブも、作品もバンドが音楽的な進化、改革を続けるその背中を追いかけているのかもしれない。

https://likeafoolrecords.ocnk.net/product/3098



Masami Takashima
Masami Takashima

Masami Takashima Takashima Masami

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1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com