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長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第89回 #12 Kind of Blue (1959) - MILES DAVIS 『カインド・オブ・ブルー』- マイルス・デイヴィス

長谷川和芳 | 転がる石のように名盤100枚斬り 第89回 #12 Kind of Blue (1959) - MILES DAVIS 『カインド・オブ・ブルー』- マイルス・デイヴィス

ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』(2003年発表・2012年改訂版)トップ100に選ばれているジャズ・アルバムは3枚だけ。95位のマイルス・デイヴィス『ビッチェズ・ブリュー』、47位のジョン・コルトレーン『至上の愛』、そして今回のお題、マイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』だ。このうちの『至上の愛』と『カインド・オブ・ブルー』の2枚に共通しているのは、「モード・ジャズ」と呼ばれるスタイルであること。


「モード・ジャズ」とはなんぞやってのは、『至上の愛』をレヴューしたときに調べたんだけど、よくわからんかった。そのときは、「まぁ、いっか」と流してしまったわけだけど、『カインド・オブ・ブルー』は「モード・ジャスの完成形」と称されているわけで、さすがにこのままにしておくわけにはいかないと思い直しました。


で、改めてWikipediaなんかを見てみたんだけど、「コード進行を主体とせず、モード(旋法)に基づく旋律による進行に変更したものが、モード・ジャズである」ですと。 「旋法」とは、「旋律の背後に働く音の力学である」。・・・・・・まったくわからん。そういや『至上の愛』のときもいろいろとウエブで調べたんだけど、結局わからんかったことを思い出した。



そこで、『カインド・オブ・ブルー』以前のハード・ビバップ期のマイルスのアルバムを聴いてみることにした。そこからどう変わったのかを検証すれば、「モード・ジャズ」の正体も見えてくるんじゃないかという目論見である。天才的。


聴いたのは、『ウォーキン Walkin’』(1957年発表/1954年録音)、『ラウンド・アバウト・ミッドナイト ‘Round About Midnight』(1956年発表/195556年録音)、『ワーキン Workin’ with Miles Davis Quintet 1960年発表/1956年録音)の3枚。いずれも「ビバップ」の決定版と評される名盤(らしい)。


ファンキーなムードがあふれていて、3枚とも聴きやすい。NHK朝の連続テレビ小説でオダギリジョーと早乙女太一が演奏してそうな感じ。なるほどコード進行が主体で、非常に安定感がある。聴いていて心地いい。



では、『カインド・オブ・ブルー』はどうなのか? 


1曲目は「ソー・ホワット So What」。いきなり空気感がビバップとは異なる。ピアノの音色にベースがかぶさり演奏が始まる。静謐でミニマルな印象。マイルスのトランペットも一音一音を丁寧に鳴らしている。


「モード・ジャズ」ってコードがまったくないわけではなくて、各プレイヤーのアドリブがコードに縛られないということなのね。「ソー・ホワット」ではビル・エヴァンスのピアノとポール・チェンバースのベースがコード進行をリードしていて、それにマイルスやジョン・コルトレーン、キャノンボール・アダレイが自由にアドリブを重ねる。最後にアドリブを決めるのはビル・エヴァンス。このさりげないピアノのソロが、実は一番スリリングだったりする。



ビル・エヴァンスはモード・ジャズの理論的支柱のような存在だったようで、マイルスは一度クビにした彼を、『カインド・オブ・ブルー』録音のためにわざわざ呼び寄せている。アルバムのライナーノートを書いたのもビル・エヴァンスだ。


ビル・エヴァンスが作曲した3曲目の「ブルー・イン・グリーン Blue in Green」では、彼のピアノがマイルスのトランペットと溶け合って幽玄なサウンド・スケープを見せてくれる。


5曲目の「フラメンコ・スケッチ Flamenco Sketches」も元ネタを提供したのはビル・エヴァンスで、朝焼けを思わせるマイルスのトランペットがグッと来る。そしてビル・エヴァンスの研ぎ澄まされたピアノの音がたまらない。



こうやって聴いていくと、『カインド・オブ・ブルー』というアルバム全体から一貫してクールな印象を受けるのは、ビル・エヴァンスによるところが大であることがわかる。「モード」というキャンパスをビル・エヴァンスが用意し、マイルスやコルトレーンらがその上に筆を走らせる。もちろんその下絵を描いたのはマイルスなんだろうけど。



2曲目の「フレディ・フリーローダー Freddie Freeloader」はビバップのスタイルを採用しており、ビル・エヴァンスは参加していないのだけど、この曲と4曲目の「オール・ブルース All Blues」を聴き比べると、同じブルースのコード進行でも、ビバップとモードで、世界観がまったく違うことがわかる。


「オール・ブルース」では、ループするテーマの合間に、トランペット、両サックス、そしてピアノの即興演奏が畳み掛けるように繰り広げられる。そして、それぞれのプレイの一つ一つの音の鋭さが耳を引く。


ミニマルかつシンプル、でも深みがある。これが「モード」!・・・・・・なのかどうかはよくわからないけど、ビバップとは違うことがわかったので、まぁ、よしとする。



音楽史的な文脈で見ると、『カインド・オブ・ブルー』はジャズをアートの領域に押し上げたんじゃないだろうか。そう思わせるくらいの凄みと完成された美しさが、このアルバムにはある。


ロックで言えばザ・ビートルズの『サージェント・ペッパーズ・ロンリー・ハート・クラブ・バンド』が同様にエポック・メイキングな作品なわけだけど、いま聴くと『サージェント・ペッパーズ~』は骨董品のようなのに、『カインド・オブ・ブルー』はまったく色褪せておらず、現代のジャズやエクスペリメンタル・ミュージックと遜色ないほどカッコよく響くのはどういうことだ!?


ジャズ、恐るべし。そして、マイルス、恐るべし。



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★








長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

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1969年、福岡県ディープエリア筑豊生まれ。開店休業中の雑誌編集者。九州ウォーカー、某弱小エアラインの機内誌の編集長を経て、なぜか今は京都の旅館の運営が業務の中心。あと染織作家である家人の話し相手など。