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土曜日の夜に 第22回 Sun Ra Quartet ft. John Gilmore『New Steps』Text by Masami Takashima

土曜日の夜に 第22回 Sun Ra Quartet ft. John Gilmore『New Steps』Text by Masami Takashima

多くの時間を過ごしている制作スペースには子供の頃から使っているアップライトのピアノを置いている。成長の歴史みたいな白くなったいくつかの傷があるくらいで2度ほど経験した水害の被害にも持ち堪えた丈夫さと親しんできたという安心感。これから梅雨に入ると調律が不安定になるけれど、それもまた愛しいところ。この数ヶ月ピアノとの距離が久しぶりに近くなった日々だったので、いつもよりピアノの音に耳がフォーカスしている気がする。そして6月はとにかく音楽を聴きまくって過ごしたいという意気込みだ。



Kendrick Lamarをはじめ最近聴いたいくつかの新作でかっこいいピアノの音が鳴っていて思わずはっとした。

かっこいいピアノの音は豊かだ。麗しさと怖さや強さ、そして対照的とも言えるやわらかさみたいなものを同時に秘めている。時々そのやわらかい音に「癒し」という言葉が使われているのをみかけるけれど、私はなんだかしっくりこないなぁなんて思ってしまうこともある。人によってイメージが多様な形で存在する楽器はほかにあまりないだろうし、それだけジャンルの垣根を超えて多くの人が身近に感じる楽器なのだろうと思う





よく行く古書店はいつもいい音楽が流れている。本を探すにも店内で立ち読みするにもちょうどいい音楽が程よい音量で流れている。気になる棚を目で追っていると本を探しているのに音楽が気になってしまって検索してみたり店主に聞いてみたりする。先日は誰だろう?と調べてみるとSun Ra & His Arkestraだった。あ、なるほど、と思った。Sun Raの膨大な作品を少しずつ聴いているが、何かヒントが隠れているのかもしれないとジャケットを見ていると子供の頃週末に放送されていた知らない国を旅する名画を思い出す。旅。脳内で静かに映画が再生されるような感覚。不思議な親和性。私の平凡な想像力ではSun Raの宇宙世界に到底追いつけないが、「知らないこと」の宝庫である書店内でSun Raを聴くのはいいなと思った。そして、Sun Raかぁとなぜか妙に納得したその理由が少しだけわかったような気がした。


以前当コラムでピックアップしたNite Jewelがカバーした「When There Is No Sun」が収録されているこのアルバムを。



New Steps

https://sunramusic.bandcamp.com/album/new-steps 





Masami Takashima
Masami Takashima

Masami Takashima Takashima Masami

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1996年よりバンド活動をスタート。現在はニューウェイブ・アートポップトリオ miu mau(2006年〜)シンセベース・キーボーディスト。2004年よりソロワークを始動、ピアノ、シンセなどの演奏に加え、トラックメイクも自身で手掛けている。
ソロ・バンド共に作品多数。最新作はデジタル・シングル「Parallel World」熊本出身。
https://twin-ships.com/masamitakashima/
https://twin-ships.bandcamp.com