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『中洲産業大學音楽学部日高ゼミ』2時限目

『中洲産業大學音楽学部日高ゼミ』2時限目

何度でも言うが、ワシの講義を受けたとて就職に有利なことも異性にモテる要素も一切ない!

だが生徒諸君の人生がほんのちょっと豊かになる音楽知識である!


初回の授業から随分と空いてしまってすまなかったが……前回の講義内容のノートは取ったかね?忘れてしまった者は前回の講義も振り返っておくように!あらゆる音楽は意外なところで繋がっているからのう……フォッフォッフォッフォ。



さて諸君、今回の授業を始める前に、最近の君たちのインターネットでの様子を聞きたい。

どうじゃ?SNSは平和かね?

君のTLはどうじゃ?

アナタの好きなYouTuberは炎上しとらんかな?


そう、最近は妙に世間が荒れておる……実際の事件も胸糞悪い物が多いし(メディア上そういうのが強調されている側面もあるがのう)、君や私のSNSのTLは荒れておる、荒んでおる、荒々しく燃え盛っておる。


なぜか?


もちろん明確な答えは人ぞれぞれではあるが、音楽的にざっくり分析してみると……政治が不安定だからじゃ。

政治が不安定な時期は、必ず音楽も荒々しくなるのが世の常じゃった……1920年代のJAZZ、50年代のRock’n’Roll、70年代のPUNK、90年代のグランジ、いつでもそうじゃった。


しかし21世紀に入ると政治と音楽はゆるやかに切り離されてしまったようじゃ……上記の音楽達を振り返ると、政治に対するカウンター意識が濃厚なジャンルばかりじゃろう?しかし現存する上記の音楽達で政治的、あるいは世相的にカウンターなテイストを持ったアーティストがどれぐらいいるじゃろうか、考えてみてくれたまえ……うん、ここの生徒達は自覚的な諸君なので、いくつかは思い当たるだろうが、広く見渡してみると、ほぼ皆無と言っても過言ではないな。残念な事かもしれんが、それも時代の流れじゃ……そこでワシは提案したい。


ネオアコを振り返ってみよう、と。



ネオ・アコースティック。通称ネオ・アコ。


日本独自の呼び方だが、主に1980年代に英国を中心に巻き起こった音楽ムーブメントじゃ(ちなみに海外ではPost-Punkの一種か、Jangle Popと呼ばれるジャンルとして考えられておる)。

それまでカウンター・カルチャーとして商業的なスタジアムROCKに対抗していたPUNKが、やがて広まり、形骸化し、ツンツンヘアーに革ジャン着てラウドなロックを奏でるだけで、歌ってる内容やアティチュードが本来のカウンター感を失って、PUNKそのものがスタジアム化してしまったので(こういった一連の流れはどんな分野やジャンルでも起こり得ることじゃが)、そこに対抗して「わざと静か目な音楽を奏でる」「うるさくなくてもカウンターな存在感を出せる」「(その当時)オールドスクールと決めつけられた音楽に新たな魅力をプラスして価値観を見出す」といった事に主軸が置かれていたのじゃ。


無論ネオアコ自体もPUNKと同じく形骸化してある意味スタジアム側に回ってしまったが、その当時の革新性やスピリットや衝撃は、今でも充分に通じるし、ネオアコそのものを再評価する事で、生徒諸君にもあらためてカウンター感を取り戻して欲しい!



とはいえネオアコの地図も壮大じゃ……もはやワシ一人では分析しきれん規模じゃ……諸君が想像するネオアコBANDやアーティストも様々じゃろう……そこで今回は最重要BANDに絞って少しずつ掘り起こして行く事にしよう……しっかりノートを取るように!



まずネオアコを始めたのは誰じゃ?


え?フリッパーズ・ギター?


そんな簡単な答えなわけないじゃろ!


え~時間もないので単刀直入に言わせてもらおう。


ORANGE JUICE(オレンジ・ジュース)と、



AZTEC CAMERA(アズテック・カメラ)じゃ。


厳密に言えば彼らをリリースしたスコットランドのインディーレーベル、Postcard Records(ポストカード・レコード)と言える。


地理に明るくない諸君のために説明するが、スコットランドは大英帝国(United Kingdom。以下UK)を構成する四つの国の内の一つじゃが、ご存知の通り大都市であり産業革命の中心を担ったロンドンを擁するイングランドが強大かつ甚大な推進力を持っており、スコットランドは産業的にも文化的にも後塵を拝していた。


ゆえにロンドンでPUNKの嵐が巻き起こった1976年、スコットランドのグラスゴーでは、ロックンロールよりもモータウン(スティービー・ワンダーやジャクソン5を輩出する60年代のアメリカ一大ブラック・ミュージックのレーベル)を愛するエドウィン・コリンズが、ブラック・ミュージック的ダンサブルなROCKバンドとしてオレンジ・ジュースを起ち上げる……もちろん、この時点でネオアコ的な一大ムーブメントになるとは誰も思っていなかった……おそらく1950年代に英国で一斉を風靡したモッズ(三つボタンのスーツでベスパに乗って、夜な夜なクラブでソウル・ミュージックで踊り続ける労働者階級のライフスタイル)的なアプローチとして、白人によるROCKではなくソウルフルな音楽を目指す事がエドウィン及び当時のグラスゴーの若者の間でクールだったと予想される。現代のHIP HOP的な感覚に近いとも言えるだろう。


そんな新感覚なサウンドを広く届けるべく(といってもあくまでもスコットランド内やUK内での流通を目指して)、オレンジ・ジュースはマネージャーのアラン・ホーン(実質的に彼がレーベル・オーナーとなる)と共にD.I.Y.なインディー・レーベルを起ち上げて、同郷BANDであるJosef K.(ジョセフ・K)らと一緒にシングルのリリースを重ねていく。それがポストカード・レコードであった。


するとそれに賛同したアズテック・カメラやGO-BETWEENS(ゴー・ビトゥイーンズ)らも参加し、次第にUKインディー・チャートのベスト10に食い込むヒットを出すようになり、ポストカード・レコードは徐々に認知度を広めていく……最初のヒットはゴー・ビトゥイーンズかしら?



この曲はメジャーデビュー後の楽曲ではあるが、女性メンバーもフィーチャーしつつ、ロマンやゴシックなテイストもあるアコースティックな響きは、ブラック・ミュージックというよりはアメリカン・フォークやサイケ、フォークROCK的なアプローチに近い。



前述のアズテック・カメラも、同じブラック・ミュージックでも、JAZZの影響が匂い立つクールなサウンドかつ、当時としては革新的な手法だったと言える。このスマートさや洗練された感覚が、日本で独自に進化してネオアコやギターPOP、渋谷系へと繋がっていくので、アズカメ及びリーダーであったロディ・フレイムは最重要人物の一人じゃ。各自よく調べておくように!


こうしてブラック・ミュージックを基調としながらも、フォークROCKやJAZZといった、アコースティック・ギターの似合うサウンドが少しずつ市民権を得て、それはUK内のみならず、全世界の似たような感覚を持ったキッズ達……形骸化したPUNKに辟易して、新しい価値観を求めていた若者達を徐々に刺激していったわけじゃ。それが結果的にそれがネオアコという新しいジャンルを生み出す事になるのだから「好きこそ物の上手なれ」なわけで、オレンジ・ジュースが奏でるソウル・ミュージック的なインディーBANDの在り方が、そもそも誰とも被らないワン&オンリーな素晴らしさを持っていた、というわけじゃな!


そしてパッと見は落ち着いたサウンドでも、充分にカウンターとして機能する事を証明したネオアコという音楽の凄さを、この殺伐とした令和の時代にあらためて問い直してみれば、少しは世間も落ち着いたムードになるかもしれんのう……おっと、今回の授業も長くなってしまって全然話したいことが入りきらん!


生徒諸君!


課題として紹介したアーティストや関連したBAND達の、その他の楽曲を確認しておくこと!

そして感想やレポート、あるいはワシに取り上げて欲しいテーマ等を提出したい学生は、このウェブサイト宛にメールするように!

それでは諸君、また来週。


『中洲産業大學音楽学部日高ゼミ』1時限目

日高 央
日高 央

日高 央 TORU HIDAKA

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ザ・スターベムズ。アコUNITガロウや中洲産業大學教授、プロデュース業務も。THE STARBEMS. GALLOW(acoustic project), Nakasu Sangyo Univ professor, Producing & etc.
https://thestarbems.bandcamp.com