Bigmouth WEB MAGAZINE

音楽MUSIC

転がる石のように名盤100枚斬り 第43回 #58 Beggars Banquet (1968) - THE ROLLING STONES ベガーズ・バンケット - ザ・ローリング・ストーンズ

転がる石のように名盤100枚斬り 第43回 #58 Beggars Banquet (1968) - THE ROLLING STONES ベガーズ・バンケット - ザ・ローリング・ストーンズ

前にも書いたけど、ザ・ローリング・ストーンズには、まったく思い入れはない。


唯一持っていた彼らのレコードは、『刺青の男 Tatoo You』(1981年)なんだけど、中古盤だったし、そもそも、ジャケットがカッコいいので買った覚えがある(「スタート・ミー・アップ Start Me Up」が、Windowsのコマーシャルに使われたのは随分後のことだった)。


CDはほかにも持っているけど、ほとんどがリアルタイムにリリースされたもの。例外が、今回のお題、ローリング・ストーン誌が選ぶ『史上最も偉大なアルバム』58位の『ベガーズ・バンケット』なのだった。



CD棚から引っ張り出して見てみると、購入したのは2002年に再発された日本盤だった。そして同じ棚から出てきたのが、2003年にリリースされた「悪魔を憐れむ歌 リミックス Sympathy For The Devil Remix」。『ベガーズ・バンケット』のオープニングを飾る名曲を、ザ・ネプチューンズやファットボーイ・スリムがリミックスしたという代物だ。



なんで、例外的にストーンズの旧譜に手を出したのか、思い出した。



そもそもが、ザ・ネプチューンズとファットボーイ・スリムの名前にひかれてリミックス盤を買ったわけだけど、「悪魔を憐れむ歌」という曲自体に「おもろいなぁ」と改めて感心。その曲が収録されているアルバムが前年に再発されていることを知り、食指が動いたのだった。



「悪魔を憐れむ歌」の何がおもしろいって、その世界観。サンバのリズムとアフリカっぽい効果音、ミック・ジャガーの芝居がかったヴォーカルによって描かれるのは、悪魔の独白だ。


最初はおとなしめになんだけど、「フーゥ、フゥー」というコーラスが、聴こえ始めるとなんだか不穏な空気に。そして、気まぐれに奏でられるキース・リチャードのギターが、さらに胸騒ぎを呼ぶ。



キリストが殺された場にも、ケネディが殺された場にも立ち会ったとうそぶく悪魔。ここまではまだ紳士的。


そのあとは、

「俺のことはルシファーって呼んでくれたらいいよ」

「どこかで俺に会ったら丁重にもてなしてね」

「ちゃんと俺の心を汲んでくれよ。かしこまった態度でな」

「そうじゃねーと、テメーの魂なんてひとたまりもねーぞ(怒)」



・・・・・・悪魔、怖い。



でも、曲を聴いている間は、僕らは完全に悪魔に同化している。コーラスに合わせて「フーゥ、フゥー」とか歌っちゃうし、何回か繰り返される「Please to meet you, hope you guess my name(お会いできて光栄です。私の名前がおわかりですよね )」ってフレーズには、思わず声を合わせてしまう。


本当にクセになる一曲。いまとなっては、ザ・ネプチューンズたちが手掛けたリミックスの方は、なんだか古くさく聴こえるのに、オリジナルはまったく色あせないのがおもしろい。



さて、肝心の『ベガーズ・バンケット』はどうか。今回は結論から先に述べる。聴いたことのあるストーンズのアルバムのなかで一番好きな一枚。5つ星。



一般的には、サイケデリックな夢から醒め、ファンが待望していたストーンズならではのブルース・ロックが復活したというのが、大方の評価だけど、派手な印象はない。「悪魔を憐れむ歌」で禍々しく幕を開けたにもかかわらず、どこか「静けさ」みたいなものを感じさせるアルバムなのだった。



このアルバムのカラーを決定づけるのは、「悪魔を憐れむ歌」ではなく、2曲目に収録された「ノー・エクスペクテーションズ No Expectations」だろう。ブライアン・ジョーンズによるスライド・ギターとミック・ジャガーのヴォーカルが気だるいムードを醸し出す。



脱力。



悪魔はどこかに行っちゃった。



ブライアンのスライド・ギターがさらに冴え渡り、ニッキー・ホプキンスによるピアノがファンキーな風味を加える「ジグソー・パズル Jigsaw Puzzle」は、アップテンポでノリがいい曲なんだけど、ミックのヴォーカルは、どことなく投げやりに聴こえる。カントリー・タッチの「ディア・ドクター Dear Doctor」もルーズなムードを助長。


レコードではB面の1曲目を飾る、ストーンズ・クラシックなロックン・ロール「ストリート・ファイティング・マン Street Fighting Man」でさえ、ひんやりクールな肌ざわりだ。政治の季節真っ只中の1968年当時、各所で発生した暴動をテーマにした曲なのに、高揚感はない。シタールとかタブラが使われているのも不思議な感じで、なんだか力が抜ける。


総じて体温低めのストーンズが、一瞬活気付くのが「ストレイ・キャット・ブルース Stray Cat Blues」。ベースラインがイカしたブルース・ナンバーで、気だるい感じでスタートするが、曲が進むにつれ、このアルバムでは珍しく演奏が白熱していく。ミックもちょっと気合入ってる感じ。最後はキース・リチャードがギターが場をさらってジャムっぽい展開に。


で、ここからってとこで、フェイド・アウト。「ジャム? そんなつもりはないんだよね」って感じ。



このアルバム全体を覆う、クールな感じの正体はなんなんだろう? 



ストーンズのことをよう知らんおっちゃんが推察するに、クスリをキメまくって制作したと思われる『サタニック・マジェスティーズ Their Satanic Majesties Request』(1967年)の反動なんじゃないだろうか。


クスリが覚めて、ふと我に返ったわけだ。茫然と周囲を見渡すミックたち。でも、頭のどこかにトリップしていた時の残像が残っていて、ちょっと夢心地な感じ。その結果、曲に入り込むのではなくて、一歩引いてプレイしてしまう。



唯一、サイケの夢から覚めてなかったのが、ブライアン・ジョーンズで、結果、彼はバンドから追放されてしまう。『ベガーズ・バンケット』制作中もトラブルを起こしていたみたいだし、彼とメンバーとの間に吹いている隙間風が、アルバムに反映されたという見方もできるだろう。



理由はなんであれ、このクールネスが非常に心地よい。ロックン・ロールの粋がここに極まった。『ベガーズ・バンケット』は、間違いなくストーンズの黄金時代を告げる傑作だ。



全体を通して聴くと「悪魔を憐れむ歌」が浮いている気もするけど、代わりに「ジャンピン・ジャック・フラッシュ Jumpin’ Jack Flash」が収録されていたら、あまりに当たり前でつまんないので、これはこれでよし!



おっちゃん的名盤度(5つ星が満点):★★★★★








長谷川 和芳
長谷川 和芳

長谷川 和芳 KAZUYOSHI HASEGAWA

facebook instagram twitter

1969年、福岡県のディープエリア筑豊生まれの編集者・ライター。414Factory代表。メインの業務は染織作家の家人の話し相手。