山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.37〜新年に想う 2023
元旦の夜明け前の屋上で、思いたってこの原稿を書いて、もう一年経ってしまった。嘘だろ?と思いつつも、年を重ねるってことはそういうことだと納得するしかない。
やたらと訃報に接することが当たり前になり、お世話になった方から同世代のアイドルまで、これまた受け入れ難くてもそうするしかない。
某先輩が引用した民謡のように、我らがやるべきことは「仲間をたいせつにして、うまい酒を飲み、今日を全力で生きる」。確かにそれしかないね。
このままのスピードで時間が過ぎ去るのなら、あとどれだけの時間が残されているのか?そう考えると、ちょっとだけ背筋に寒いものが走るけれど、ままよ!それもまた人生。どーんと構えて、やりたいことに取り組もうではないか、諸君。
難しいことといえば、「頑張らないことを頑張らなきゃいけなくなってる」ってこと。これまでみたいに後先考えることなく頑張ってると単純に自分が壊れるんです。もはや車検に通らないクルマ。部品はもう売ってない。残存勢力を見極めながら、守りに入らず、攻めるときは攻める。これはもう、なんつーか、その、紙一重の攻防なんである。それも楽しまなきゃね。
大晦日にショーン・ペン監督の新作「Flag Day」を観たのだが、素晴らしかった。わたしゃ、こういう一流の表現に励まされる。誰がなんと言おうとも、自分の表現に向かうこと。数の論理に屈しないこと。この世界は生きるに値することを証明すること。映画館を出たとき、空が少しだけ広く見えたよ。
今年もやりたいことをやりぬいてみようと思うのです。
愛する福岡のことを書くのなら、わたしゃ、「天神ビッグバン」って計画を聞いて、ひっくり返ったのですよ。ブルータス、お前もか!大切にしなきゃいけないことはなんなのか、次の世代になにを遺すべきなのか。真剣に考えてほしいと思うのです。
いい例えかどうかわかんないけど。40年前。わたすは大博通りにあったタクシーの洗車場で夜中に200台くらいのタクシーを洗っておったのです。きっついバイトでした。朝帰るときに橋の欄干に老婆が立ってる。そして彼女はオレにこう言うのです。「兄ちゃん、女いらんね女?」。「てか、まさかオバチャンやなかろうね?」。「私に決まっとろうもん」。
今、考えたらすごい会話だと思うけど、オレ、こんな町が愛おしくて仕方なかった。いろんなフリークスたちが生きていけるキャパのある町だった。千鳥橋のあたりには川の上のバラックに人が住んでた(ほんとだよ!)し、川端通りでは夕方に無精髭のオカマが「あらやだー!」ってチャリに乗ってた。バスセンターでは変態にひっかかって「僕のオシッコをおじさんの小指にかけてくれないとおじさん死んじゃうんだ」って言われてかけてあげたよ!この変態!
でも、そんな町がオレは好きだよ。
今年もフントーするクリゼンとやりたいことをやろうと思ってます。どうぞ、よろしくね。
山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.36〜ロックンロールの免疫力
山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.38〜in the days before Rock’n Roll
ヴォーカリスト、ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、そしてランナーにして、スノーボーダー。
1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、福島県の相馬をピンポイントで応援し続けている。仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。
http://no-regrets.jp