山口洋(HEATWAVE) |博多今昔のブルース Vol.38〜in the days before Rock’n Roll
スノーモンキーと呼ばれる、温泉を好む猿たちが生息する場所で湯治中。猿が浸かるなら、オレも浸かる。だって動物だもの。きっと良くなる。根拠はないけど。
そこに届いた訃報。
その偉大な人と、50年以上に渡って共に音を奏でた仲間からもたらされた知らせは、衝撃が大きすぎて、現実感がなかった。
その昔。ラジオから流れてくるローリング・ストーンズにノックアウトされたとき。その人たちは福岡でのちに伝説になるバンドをやっていた。荒野だったと思う。前例がないんだから。この町にロックなんかなかったんだから。でも、パイオニアである彼らのおかげで、オレの世代はロックンロールのみならず、本物のルーツミュージックを若いうちに聞くことができた。彼らの親友が偉大なレコード屋を創ってくれたから。荒野に道を創ってくれた恩義。多感な時期に本物に触れること。今でも立っていられるのは、そのおかげに他ならない。これほど恵まれた町は知る限り、福岡しかないし、その時聞いた音は今や血となって自分の中に確実に流れている。
70年代の終わり。オレは高校生だったか。彼はNHK-FMに出演して、以下の曲をかけてくれた。
1. Richard Hell & Voidoids - You Gotta Move
2. Iggy Pop - New Values
3. Dr.Feelgood - She Does It Right
4. Elvis Costello - I Don't Want To Go To Chelsea
「完璧」すぎるラインアップ、なんというセンスの良さ。オレは録音したテープをほんとうに擦り切れるまで聞いた。これらの曲を続けて聞いてごらん。すごいよ。彼はこう言ってた。「上手い下手だけで、ギタリストの好き嫌いを決めるような人は。そもそもロックなんて聴かん方がいい」と。
若いオレはひねくれすぎていて、自分がやろうとしている音楽を町の文脈で語られるのが嫌だった。だから避けた。デビューも外国からインディペンダントな形で果たそうと模索した。
いけ好かないガキだったと思う。
でも、今ならこう思う。自分たちがやっている音楽の背後に、これまでに受けた影響が透けて見える存在でありたい、と。なぜなら、それらの音楽がなければ、オレはここには居ないのだから。
だから、ご本人にお礼を伝えたかった。受け取るだけの人生なんて、失礼にもほどがある。
去年の4月。日本で一番歴史があるハコの楽屋にて。伝えるには最高の場所だった。オレは勇気を振り絞って、上記のラジオ番組の話をきっかけに、これまで全人生を賭けて続けてきてくれたことへのお礼を伝えた。
「そんなこと、言われたことがないよ。ありがとう」。
その言葉にどれだけ救われたことか。
彼の人生を支えたギターの写真を撮らせてもらった。もはやギブソン・レスポール・カスタムではなく、彼の道程そのものが刻まれている唯一無二のギター。「どうしてトーンのノブがないんですか?」。「要らんけん」、と。
ロックンロール!
今頃、最愛の奥さんとレコード屋の彼と一緒なのかも、と思うと、少しだけ胸が軽くなる。
伝えてくださったことを、繋いでいくのが自分の役目だと思う。
感謝しかない。
ヴォーカリスト、ギタリスト、ソングライター、プロデューサー、そしてランナーにして、スノーボーダー。
1979年、福岡にてヒートウェイヴを結成。1990年、上京しメジャーデビュー。現メンバーは山口洋(vo.g)、池畑潤二(ds)、細海魚(key)。山口洋がソロツアーの旅で新たな曲をつくってバンドに持ち帰るというスタイルで、ほぼ全曲の作詞と作曲を担当する。1995年の阪神・淡路大震災後、中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)と「満月の夕」を共作。2011年の東日本大震災直後からは「MY LIFE IS MY MESSAGE」プロジェクトのさまざまな活動により、福島県の相馬をピンポイントで応援し続けている。仲井戸麗市、佐野元春、遠藤ミチロウ、矢井田瞳ら国内のミュージシャン、ドーナル・ラニー、キーラらアイルランドを代表するミュージシャンとの共演も多い。
http://no-regrets.jp